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本の「体験的価値」と「文学的価値」

――それぞれの価値を融合させるのではなく、掛け合わせる方がいいんじゃないかなと僕は考えます。


人生は物語。
どうも横山黎です。

今回は「本の『体験的価値』と『文学的価値』」というテーマで話していこうと思います。

📚『世界でいちばん透き通った物語』

最近読んだ本に、杉井光さんの『世界でいちばん透きとおった物語』という本があります。青春純愛物語のようなタイトルですが、紛れもなくミステリー小説なんです。

主人公は、死去した大御所ミステリ作家の愛人の子ども。亡くなる前に書いていた『世界でいちばん透きとおった物語』という小説の在り処を探しにいく物語です。

僕が声を大にして言いたいこの本の魅力は、物語終盤に待つ仕掛けの発覚です。これに気付いたとき、僕は声を上げて驚きました。そして思わずにやけてしまいました。もちろんネタバレになるから明言しませんが、タイトルの真の意味に気付ける、とだけ言っておきます。

最後のページのとある1行も憎いんですよね。めちゃくちゃ言いたいんですが、控えることにします。



さて、この本に限った話ではありませんが、「本」だからこその体験ができる本というものが世の中には存在していて、普段あまり本に手を伸ばさない人が、それに釣られて本を読むという現象があります。

この『世界でいちばん透きとおった物語』もネタバレ厳禁の仕掛けがあることがSNSを中心に広まり、既に10万部を突破しているそうです。Twitterでトレンド入りを果たすほど、話題になっているんです。

作者の杉井さんはこんなコメントを寄せています。

「これまでの読書人生において一度だけ、読み終わった後にただ言葉を失うしかなかった、という本がありました。それに匹敵する純粋に強烈な読書“体験”を、読者にぶつけてみたい。」

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001035.000047877.html

📚体験的価値と文学的価値

今の時代、読書離れが進んでいますから、紙の本、それも小説が10万部も売れたというニュースは嬉しいものです。ただ、良くも悪くも、単純に本の中身(物語)が素晴らしいというよりも、びっくりする体験ができますよ!というネタバレ一歩手前の情報の存在が売り上げに貢献しているような気がします。

「物語」よりも「体験」に価値が生まれている。

ここでいう価値とは、経済的な価値ですから、文学的な価値とはまた違う世界の話ではあります。ただ、文学的な価値を認めてもらうためには、経済的な価値を追求しなければならないので、無視するわけにはいきません。

本として、物語として面白い。

さらに、体験として面白い。

二兎を追う者は一兎も得ませんが、それでもそんな作品を作れたならとぼんやり考えています。「座右の本」「バイブル」「人生を変えてくれた本」「一生大切にしたい本」「無人島の1冊持っていくとしたら持っていきたい本」に当てはまるような本が、文学的に価値の高い本だと思っています。

そんな作品を作れたら本望ですね。


正直な話、『世界でいちばん透きとおった物語』は体験としての価値が大きく、文学的な価値はそれに及ぶものではないと感じました。座右の本にも、人生を変えてくれた本にもなり得ない。やっぱり体験としての価値が大きいからこその課題なのかなと思います。

ふたつの価値を1冊にすることは難しいんですよね。ここに正解を持っているわけではありませんが、それぞれの価値を融合させるのではなく、掛け合わせる方がいいんじゃないかなと僕は考えます。


📚「小説×体験」を追求する

昨日の記事にも書きましたが、「小説×◯◯」を追求する価値は大いにあると思っています。分かりやすい例でいえば、映画や音楽と組み合わせる。それぞれ別のコンテンツではありますが、やり方次第でどちらのコンテンツもヒットする。より多くの人に届けることができるのです。

同じように体験的価値を追求するなら、文学的価値のある小説を体験的価値のある何かと掛け合わせる方がいいんじゃないかなと思います。


僕は、去年出版した小説『Message』をいろんな方法で届けることを追求してきました。

たとえば手売り。著者自ら紹介して手売りする。なんならそれもひとつの体験であって、そこに価値を見出して買ってくれる人は少なくないんですよね。現に手売りだけで200冊以上届けることができています。Amazonでも販売していますが、「手売りで買いたい!」という声も結構あって、手売りという体験に価値を感じる人はやっぱりいるんですよね。



あとは、先月開催したライブイベント「BOOK TALK LIVE “Message”」では、参加者の半分の方に本を届けることができました。残りの半分は既に本を買っていた人だったので、ほぼ全員に届けることができたわけです。ここでも、トークライブという体験に価値を見出してくれて、参加者はそれと引き換えるように本を買ってくれたというわけです。

小説『Message』には体験的価値があるわけではありませんが、体験的価値のあるコンテンツと組み合わせることで、体験的価値を生むことができていると考えられます。

個人的にはこのやり方が性に合っている気がするので、これからもこの掛け算を追求してみます。



昨日の記事でも書きましたが、僕が次に手掛けようとしているのは、小説×脱出ゲーム。ひとつの密室に閉じこめられたプレイヤーが、部屋の中にある謎を解き明かしていき、部屋から脱出するという体験型ゲームのことです。

自分の作品の物語と掛け合わせることで、相乗効果を狙っています。自分の作品に体験的価値を付与できる良い機会なので、全力で関わっていこうと思います。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

20230616 横山黎




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