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「冷戦史」(上・下) △読書感想:歴史△(0027)

第2次大戦後の現代史(20世紀)の概観に便利。米ソ冷戦時代を一気通読する一冊です(上下二巻組ですけど)。
(本記事/ 文字数:約4000字 読了:約8分)

<趣意>
歴史に関する書籍のブックレビューです。対象は日本の歴史が中心になりますが世界史も範囲内です。新刊・旧刊も含めて広く取上げております。


<こんな方にオススメ>

(1)第二次世界大戦後の世界史を概観したい
(2)現代史をより深く丁寧に理解しなおしたい
(3)東西対立・米ソ冷戦をあらためてとらえなおしたい

「冷戦史」(上・下)

著 者: 青野利彦
出版社: 中央公論新社(中公新書)
出版年: 2023年


《引用》「ヤルタ会談」
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Yalta_summit_1945_with_Churchill,_Roosevelt,_Stalin.jpg
Attribution::Photograph from the Army Signal Corps Collection in the U.S. National Archives., Public domain, via Wikimedia Commons

<概要>

20世紀後半の自由主義陣営と共産主義陣営の東西対立となったいわゆる米ソ冷戦時代の通史を非常に簡潔明瞭に理解しやすく概説しています。大まかに地域ごとに区分されてもいますが基本的には時系列で解説されており、冷戦の前史・始まりから終わりまで順を追って読解できます。冷戦が軸となって展開された第二次世界大戦後の世界史を概略的に学ぶにはぴったりだと思います。
新書二巻組です。全体でいいますと序章と終章を含めて十三章構成になっています。序章で「冷戦」をどのように読み解くかという本書の姿勢を掲げています。第1章・第2章では冷戦の起点となる第2次世界大戦へのプロローグから終結そして冷戦の始まりまで。
第3章・第4章ではヨーロッパを中心とした冷戦構造の確立。第5章では第三世界における冷戦の世界全体への波及。第6章では核兵器拡大による人類そのものの危機。その具体的事件として、破滅へ迫ったと世界を震撼させたキューバ危機が取り上げられています。
第7章・第8章ではベトナム戦争などによる反戦運動の隆盛のなかでの東西デタント。第9章・第10章ではデタントからふたたび先鋭化する米ソ対立を経て社会主義経済の行き詰まりと東西冷戦終結。第11章では冷戦後も残された東アジアの分断。終章で「冷戦」とは何だったかのか?という総括がなされています。

[ポイント]

(1)東西冷戦そして戦後現代史の通史を概観できる
第2次世界大戦後の世界史(20世紀末まで)を、その主軸となったイデオロギー対立(資本主義vs共産主義)による大きな構造として認識・理解できると思われます。
(2)欧米における冷戦構造だけでなくアジア・アフリカなどを含めた世界各地も視野に入っている。
東西冷戦・米ソ対立を考察する場合、ややもすると欧米の学会では欧米の視点で語られることも多いですが、冷戦構造は世界全体を巻き込んだ経済や社会等の対立・紛争を引き起こしています。その点、日本人特有のマージナルな視点での分析も行われています。

[著者紹介]

青野利彦
国際政治学者・歴史学者。専門はアメリカ政治外交史。一橋大学法学研究科教授。
リンク先: 一橋大学 ※公式サイト


※本書本旨に触れている部分があるかもしれません。ご容赦ください。

<私的な雑感>

本書「冷戦史」(上下)は、いわゆる冷戦時代(第2次世界大戦後から1990年代初めまで)までの世界史を簡便に概観できる一冊であるという印象です。

私の子供時代はまさに冷戦後期にあたりました。ただそのころの私には「冷戦」という政治やイデオロギーの問題よりも”核戦争の危機”(=人類の滅亡)への意識が強かったように思います(当時の大人たちがどう考えていたかは分かりませんが)。そのため子供であって意識が薄かった政治・社会問題について振り返り整理して再認識することができたように思えました。学校における世界史科目はどうしても近現代史は駆け足で終わってしまいますので…。

とくに、東西冷戦はともすれば欧米視点で欧米における政争と経済対立に注目されがちです。しかし米ソ対立は欧米以外のアジアやアフリカなどへも波及し、お互いの社会モデル・経済モデルの優位性を争うように展開していきました。本書は日本人学者による執筆ですので、第三世界とくに東アジアにおける冷戦構造の影響も十分に言及されていると感じます。

あくまで通史として概説されていますので、内容がある意味で表面的であることは否めません。冷戦に対する新しい分析・考察や新解釈の大胆な提案などはありません。しかしそれは本書において著者がそもそも意図しているものではないと思われます。

そんなわけで、本書「冷戦史」は、「冷戦とは何か?」を知る上での入門書として最適ではないかと思われます。大学の一般教養課程で現代史のテキストに相応しい一書と感じます。まあ、近いうちに冷戦時代も「現代史」ではなくなるのかもしれませんが。

たいへん勉強になりました。

[本書詳細]

「冷戦史」 (中央公論新社)


《引用》「日本国との平和条約に署名する吉田茂首席全権と全権委員」
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Yoshida_signs_San_Francisco_Peace_Treaty.jpg
Attribution:1. [1], Public domain, via Wikimedia Commons

<戦後日本の発展と冷戦>

第2次世界大戦後の日本の復興は東西冷戦に規定されていた。とくに米国の強い影響下にあった、ということは言うまでもないかもしれません。冷戦構造のなかで米国の庇護下で日本は経済成長に専心することができ、そのおかげで軍事的負担を免れて経済問題に注力することができたということは否定できないのではないでしょうか。

冷戦の終結とほぼ時と同じくするようにして日本のバブル景気が弾けて、経済的な停滞期に入ったような印象を受けるのですが、これは示唆的でもあるように感じます。

これからの次なる冷戦時代(?)のなかで日本は今後、どのような針路をとろうとするのか? かつての米ソ冷戦時代のように米国にお任せですませておくことも難しそうです(「もしトラ」が現実化するのか…)。ただ、成長が鈍化した(社会・経済が成熟化したといえるかもしれませんが)とはいえ、まだまだ日本の持つ経済力や産業力などのパワーや地政学的な条件は、来るべき時代のなかである程度のキャスティングボードを握ることにもなりえるのかもしれません。またはそうならざるを得なくなるのかもしれません。やれやれ。


<補足>

冷戦 (Wikipedia)
ソヴィエト連邦 (Wikipedia)
スターリン (Wikipedia)
鉄のカーテン (Wikipedia)

<参考リンク>

書籍「冷戦史」 (勁草書房)
書籍「冷戦史」 (法律文化社)
書籍「ヨーロッパ冷戦史」 (筑摩書房)
書籍「ソ連史」 (筑摩書房)
書籍「アジア冷戦史」 (中央公論新社)
書籍「冷戦 ワールド・ヒストリー」上下 (岩波書店)

敬称略
情報は2024年1月時点のものです。
内容は2023年初版に基づいています。


<バックナンバー>
バックナンバーはnote内マガジン「読書感想文(歴史)」にまとめております。

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0004 「幕末単身赴任 下級武士の食日記」
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0006 「流浪の戦国貴族 近衛前久」
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0011 「江戸近郊道しるべ 現代語訳」
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(2024/04/01 上町嵩広)

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