helix 捻れの記憶
煙草臭い
乗り込んできた娘が嫌そうな顔をして言った
ついさっきまでセックスをし
だらだらと彼の車の中にいた
髪にも上着にも
煙草の匂いが纏わりついている
ダメな大人
さかりはしないが
抱かれたい時がある
何のために生きているのか
どうでもいい
テーブルの上に溜まったペットボトルやグラスを片付け
汁や油の飛び散ったコンロを拭く
リビングに散らかった物たちを元に戻し
掃除機をかける
猫に声をかけ
トイレをきれいにし水を換え
結石、吐き戻し、軟便
それぞれに合わせたフードを器に入れる
食べる様子をぼんやりと眺める
ガツガツとよく食べる猫たちを見ていると
少し気が晴れる
朝は弁当を作り子どものことと猫のこと
最低限の家事をして
自分の準備をし
バタバタと出かける
帰宅したら片付けから始まり
夕飯の支度、子どもの送迎
猫の世話
洗濯やら何やら
気づけば日付が変わる
夜勤の日は
生活リズムなんてあって無いようなもの
青空を横目に布団に潜り
目を閉じる
自分がどこにいるのか
今がいつで何の季節なのか
この先冬が来るのか夏が来るのか
分からなくなることがある
自分が何をしなければならないのか
やりたいことがやるべきことに埋もれていく
そのうち
やりたいことの輪郭がぼんやりとしてきて
いつの間にか分からなくなる
流されて生きている
選んだのも自分
ここにいるのも自分
こうしているのも自分
動かないのも動けないのも自分
自分自分自分自分
分かってる
いつだって1人だ
稼いで護る
分かってる
時間ってどうやって作るんだっけ
自分ってどうやって保つんだっけ
眠るって
どうするんだっけ
抱かれることで必要とされていると思いたかった
貫かれ繋がって揺さぶられ
肌の温もりと心地良さで
メラトニンでも出るのだろうか
セックスの後は
眠りに落ちそうになる
快楽?
いくことなんて無い
それでもことが終わりだらしなく寝そべっていると
自然と瞼が落ちてくる
吸い込まれるように眠りに落ちていく感覚は
たまらなく気持ちが良い
眠ってしまうことなんて無いのだけれど
体に傷をつけ流れる血を眺めるのと同じ
ピアスをいくつも開けるのと同じ
helix
閉じてしまいそうなホールに
太めのゲージを強引に捩じ込む
滲む血
空いた穴を無理矢理に拡げ
圧迫された痛みを常にそこに感じ
眠れずに寝返りを打つたび
そこに何かが触れるたび
強い痛みを思い出す
そんなことでしかできなかった
生きていることの確認
存在の証明
鬱々として戻ったとて何も変わらない
さよなら過去の私
ねぇtragus
1人ってそういうことだろう?
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