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#37 ADHD彼氏が約束の時間にやって来ない【マッチングアプリで出会ったモラハラ婚約者と別れた話】


目的地に辿り着けない男


両親への挨拶から一週間後の週末、渋谷の商業施設でショッピングデートをした。
わんこくんは「リンちゃんと一緒ならどこでもいいよ!リンちゃんが行きたいところに連れて行ってあげるのが俺の幸せやからな♡」と言って何も提案しないので、今回も私が行きたいところに付き合ってもらうことにした。
良かったね、私が、行きたいところ・やりたいことがたくさんある女で。私が一緒に考えることに愛を見出すタイプの女だったら、とっくにケンカになってる。

ADHDの彼は時間を守れない。ほぼ毎回遅刻する。私は、普段はADHDを意識して付き合っていなかったけど、待ち合わせのときだけは彼の遅刻癖に心底悩まされた。頭では「ある程度は仕方ない」と割り切っていても、心はだんだん疲弊していった。

私は時間にルーズな人が嫌いで、わんこくんがスムーズに辿り着けるよう対策を打とうと考えた。彼ができないなら私がサポートすればいい。
彼は迷子にならないようタクシーで移動したがるんだけど、そのせいで逆に道に迷っていて、私は「東京は、車よりも駅構内の案内に従って進んだ方が確実だよ?」と何度も言った。でも、なかなか分かってもらえなかった。この日は、運転手さんにそのまま伝えれば分かるように、事前に道案内用のセリフをLINEしておいた。GoogleマップのURLと、進行方向を示す矢印を描いた写真も添付した。これだけやれば大丈夫でしょ!

でも、待てど暮らせど彼はやって来なかった。
タクシーを降りて商業施設付近にいるみたいなので、「今どこ?私が迎えに行くから動かないで。周りの写真を送って」とLINEすると、しばらくしてから商業施設の中(2階)の写真が送られてきた。

え?1階の入り口で待ち合わせしているのに、なんで2階にいるの?
ていうか、動くなって言ったじゃん!

その後、わんこくんから意味不明な説明や、役に立たない写真が送られてくるばかりで埒が明かず、半ば発狂しながら電話しようとすると、彼が「あ~!リンちゃんだー!」とすっとんきょうな声を出しながら、目の前のエスカレーターをゆっくり下りてきた。


「ねぇ、どういう状況?」
「何となく入り口に向かう雰囲気だったから進んで行ったら、正反対に向かう道だったみたい。途中でエスカレーターがあって、なんとなく上がってみて、そのまま歩き続けたら目の前に下りエスカレーターがあって、なんとなくそれを下りてみたら、たまたまリンちゃんを見つけた」

え、意味がわからないんですけど…。
待ち合わせ場所が1階なんだから、普通は1階から離れないよね?なんで2階に行ってみようってなるわけ?

わんこくんが「ね?俺、やばいでしょ?」とケラケラ笑うので、その態度に少しだけ腹が立った。いや、人を待たせておいて、なんなのそれ。怒っちゃだめだと思うと胃痛がして、彼に聞こえないよう大きなため息をついてから「うん、かなりやばいね」とだけつぶやいた。精一杯の抵抗だった。
私、ナメてたかもしれない。この人と付き合うのは大変だ。

夜に話し合った


この日の晩、わんこくんとベッドに寝転がって買い物の感想を言い合った後、自然と遅刻の話になった。

【彼が言ったこと】
・申し訳ないと思う。
・ADHDのせいにして甘えるつもりはない。遅れない努力はする。
・でも、がんばっても直せないから、直せと言われるのはしんどい。

私が言ったこと】
・直せとは言わないけど、遅刻しない努力は続けてほしい。
・ADHDかどうかに関わらず、私は遅刻する人が嫌いだっていうことは頭に置いておいてほしい。
・一緒に遅刻予防策を考えよう。

私たちは何かあったら、遅くともその日の晩には会話していて、それはすごくよいことだったと思う。もともと考えていることを言ったり聞いたりするのが好きな二人だから、言いにくい気持ちを伝えるのもあまり苦にならなかった。

「それにしても、重症だなぁ…。こんな状態でよく生きて来られたね。本人も周りも苦労しただろうね」
「小学生の頃からこんなんやで」

最寄り駅から実家まで自転車で10分なのに道に迷ったり、日が暮れても自分が帰って来ないもんだから、親が警察を呼ぼうとしたり。友達は自分が集合場所に辿り着けないのを知っているから、遊ぶときは友達が当然のように家まで迎えに来てくれる。

私は、彼の言葉尻から「だからリンちゃんも甘んじて許してね」というニュアンスを感じて腹が立った。でも、きっと悪気はないんだろう。むしろ、自責の念があって、ネタ的に明るく振舞うことで自分のプライドを保っているような気がした。

―― 私のメンタル崩壊まで、あと134日 ――


りん