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読書|夏物語

命とは、家族とは、子どもが産まれてくるとは。壮大な問いとぶち当たりながら、それでも生きていく。

季節は夏、夏目夏子さんが主人公の"夏"物語です。夏のゲシュタルト崩壊が起きそうですね。

取り扱うトピックはシリアスで、パートナーがいない夏子が自分の子どもに会いたい夢を叶えるために、見ず知らずの男性から精子提供を検討します。

情報を集めていくうちに、精子提供によって産まれた子どもの体験記へと辿り着き、さらには当事者と親交を深めていくーーという流れです。

シリアスで気持ちが沈むかといわれるとそうではありません。夏子や夏子の周りの人々の会話が関西弁中心だからか、テンポよくコミカルさも感じながら読み進めます。会話から登場人物の声が聞こえてきそうなくらい、会話が会話として届く文章でした。

精子提供によって誕生した女性が、生まれたいなど一度も思ったことのない存在(子ども)を産むのは暴力的だ、と言います。

母親はいつだって子どもの幸せを願うけど、子どもが苦しんだり辛かったりする気持ちを経験しないためには、この世に子どもを誕生させないことなのでは?と。

子どもを産むこと自体が親のエゴである、その考えを真正面から切りつけてくる語りは、重く深く難しかったです。普段、自分が気にしていない倫理的な指摘により、自分の考えの狭さを突きつけられているようでした。

私と同様に、夏子も彼女の考えに衝撃を受けます。自分の子どもと会いたい、その気持ちとどう向き合っていくのか、ラストに向けて物語も加速していきます。

夏の、暑さがシンドく汗が滴る描写も多く、じっとりとした雰囲気が、夏子たちの人間臭さをより演出しているようにも感じました。




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