「姫」と性被害

小学校に上がってから、従兄妹のN彦から定期的に性被害を受けていました。

盆と正月に母方の祖父母の家に親戚が泊まりがけで集まるのが恒例行事でした。
最初はただの何気ないボディータッチで、私は特に気にしていませんでした。
おそらく、小学生ならまだ性的な事は分からないと思っていたのでしょう。
しかし、私が4年生になった辺りから明らかに胸や尻を触りだしました。
流石に私も驚きと不快感を覚えました。
しかし、狭い祖父母の家で逃げ場はありません。
抵抗すれば報復を受けるかもしれません。
大人に助けを求めようかと思いつきましたが、誰に報告すればいいか分かりません。
性的なことを身内に話すのに抵抗がありました。
母は、私が性的な物事に触れるのを忌避している節があり、こんな話をしたら嫌な顔をされるのではないかと思い、結局、誰にも言えませんでした。

集団の中に入ると、私は空気です。
率先して大人と関わろうとしません。
だから彼からしたら都合が良かったのです。

彼は段々エスカレートしていって、パンツの中に手を入れて来るようになって、私は逃げました。

私が小学校を卒業する頃には祖父母の家に集まるのは窮屈というのもあって自然とお泊まり会はなくなり、N彦と会う機会はほぼなくなりました。


N彦が警察官になったと聞いたときは驚きました。
よく、あんな男がなれたものだなと嫌悪と社会への不信感を覚えました。
しかし、しばらくして重労働に耐え切れず辞めたと聞いて、正直ほっとしました。


私が社会人になって姉と同居していたときです。
家に帰ると姉が疲れた様子で外を指差しながら言いました。
「N彦君、来てるよ。車にいるから会ってきたら?」
小学校を卒業以降、何度か顔を合わせる機会がありましたが、性被害は受けていませんでした。
姉の様子が少し変だったので、確かめるためにも外に停めてあったN彦の車まで向かいました。

N彦は未だ童貞を患っていると風の噂に聞いていたので、車内で2人きりになっても、あまり怖いとは思いませんでした。
しかし、彼にされたことが嫌でも脳裏に浮かびました。それでも平静を装って、極力明るく振る舞うよう努めました。

彼は元気がありませんでした。
そして失恋したと言います。
かつて性暴力を振るった相手に、よく言えたものです。
もう察しがつきましたが、念のため相手が誰か聞きました。

「この辺に住んでて、ずっと好きだった。」
「結婚したかった。でも無理だって……。」
「遠距離だし、そんなに会いに来れないよ。」

などとグダグダヘラヘラはぐらかして名前を言おうとしませんでした。わざとらしく、如何にも自分可哀想!な素振りがウザかったです。
私がさっさと言えと催促すると
「〇〇〇(姉)ちゃんが好きなんだ。」
と、のたまいました。

私は一息ついてから、思ったことを全て彼に言いました。
「遠距離って言うけど同県在住で、車でせいぜい片道2時間しないよね? 私、ここから東京の人と付き合ったことあるよ?」
「というか何でこんな話、私にするの? 昔のこと忘れたの? 貴方が私にしたこと、私は忘れてないよ? もうトラウマだよ。」

「私の異性交友が上手くいかない原因の1つだよ、間違いなく。」
「応援して貰えると思ったの? 今の話で貴方が可哀想なところ1つもないよ。」


ヘラヘラしていた彼から血の気が引いたのを感じました。彼は焦った様に、私にひたすら謝罪しました。
性加害については
「それは、警察になったとき後悔した……。」
とのことです。

警察になるには身綺麗でなくてはいけませんものね。
就職に不利になるかもと後悔したということでしょうか。
普通に大学に合格して、一般の会社に就いていたら後悔も何も感じなかったということでしょうか。
凄く、腹立たしかったです。殺意にも近い。

言いたかったことを吐き出した私は家に帰り、彼との会話の内容を全て姉に伝えました。

姉は彼に告白され結婚を迫られ、断ると、童貞を捨てさせて欲しいと懇願されたそうです。
流石にドン引きしました。
本当に何故、私を味方に出来ると思ったのでしょう、あの男は。

N彦の車はしばらく家の前に停まったままでした。
「ああやって、自分は可哀想だと浸ってんのよ。」
姉はゴミを見る目で車を一瞥しました。

念のため、この事は伯父(N彦の父親)に報告しました。
この一件以降、N彦からのアプローチはなくなりました。

ちなみにその後、姉は隣県に彼氏をつくり結婚しました。

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