一番大切な仕事

腹が、減った。

30代になってからというもの、まぁ食が細くなったと思う。10代後半、特に高校生のときは異常なほど食べてた。
びっくりドンキーのレギュラーバーグステーキがまだ400gでも提供されていた時代、400gでは到底満足できず様子見で200gおかわりしたが、それでも腹5分目だった。
また、平日の食事といえば、

AM6:00頃 朝食(ご飯はどんぶりで1杯)
AM7:30頃 学校到着後に自習しながら大きめのおにぎり1個
AM9:30頃 1時間目終わって大きめのおにぎり1個
AM10:15頃 2時間目終わって大きめのおにぎり1個
AM11:00頃 3時間目終わって大きめのおにぎり1個
PM1:00頃 4時間目終わって昼食(弁当)
PM3:00頃 6時間目終わって部活前に大きめのおにぎり1個
PM8:00頃 部活から帰ってきて夕食(ご飯はどんぶりで2杯)

てな感じ。炭水化物ばっか食うな、肉食え肉!

ちなみに、体重はずっと50kg弱をキープしてた(キープする気はなかったにもかかわらず)ので、いわゆる「痩せの大食い」タイプといえる。女子生徒からは羨望の眼差しで見られていたが、こちらとしては全然筋肉にならなかったので、むしろ残念な気持ちだった。だから肉食え肉!
母によると、1か月で30kgの米がなくなったらしい。いわずもがな、当時の家計は火の車。母よ、なんかごめん。

まぁ、自分以上に食べてた人はたくさんいたのだろうけど、僕も若かりし頃はそれなりに食ってたよって話。

高校3年のときだったか、炊事遠足でもバカみたいに食べてた記憶がある。
※「炊事遠足」は北海道独自の文化と聞いたので、存じ上げない人は下記を参照あれ。

ざっくり説明すると「河川敷でBBQする遠足」といったところか。目的地まで歩き、自分たちで火起こして焼いて食べて、といった具合である。
当時の献立はジンギスカンだった。甘めのタレがたっぷりと染み込んだラム肉をアルミプレートにじゅわーっと広げ、程よい焦げがついたところで白飯とともに口に放る。もちろんタマネギやピーマン、もやしといった野菜も一緒にだ。さらには残ったタレにうどんを絡め、焼うどんにしていただく。うーん、最高オブ最高。

大好物を前に舌鼓連打しまくりのフードファイター・アルロンは、終始食べ続けていた。なんなら、ほかの班が余した分も喜んでもりもり食べていた。

帰る時間になり、担任の先生がやってきて片付けの指示を出し始めた。
担任の先生は言った。(※以下、人物名はすべて仮名。)

「おい、桜井。焼き台を片付けろ」

アルロンはまだ食べ続けている。
担任の先生は言った。

「高見沢はゴミを拾っておけ」

アルロンはまだ食べ続けている。
担任の先生は言った。

「この袋を持っていってくれ。坂崎、頼めるか?」

アルロンはまだ食べ続けているが、一抹の不安を覚えた。目の前にいる自分への指示がまったくないからだ。

こういうとき、「片付けしなくていいんだ、ラッキー!」という人と「自分だけ片付けに参加しなくていいのかな…」という人に分かれると思う。僕は後者だったので、アルミプレートに残っていたうどんを皿に移しながら問うた。

「先生、どうして僕には指示しないんですか?」

担任の先生は言った。

「アルロン、お前は一番大切な仕事をしているからだ」

ほえ?一番大切な仕事?僕ただ残飯処理してるだけなのだが。
うどんを頬張りながらよくわかっていない顔をしている僕に、先生はぶっきらぼうに話してくれた。

「炊事遠足のように野外で食事をするとき、食べ物の処理はすごく大変なんだ。余ったものは処分しないといけないが、食べ物を粗末にしたくないだろ?でも、アルロンがたくさん食べてくれているおかげで、処分する残飯が減っているんだ。これが一番大切な仕事だと俺は思う」

なるほど。僕は図らずも片付けに参加していたということか。
確かにBBQなんかしてると、せっかく焼いたのにだれも手をつけない肉が量産され、結局そのまま処分してしまうことなんてザラにある。でも、最後まで食べ続けることで、多少なり処分する食べ物が減るのだ。いわゆるフードロスの削減が大切だということは、17歳の大食い小僧でもわかる。
先生の話に感動した僕は、愛のレジスタンスのごとく燃えあがり、周辺の肉とうどんをきれいに食べ尽くした。

今となっては、ご飯1杯、うどん1玉、お肉数切れでお腹いっぱいになりそうなものだが、当時は本当によく食べていたと改めて思う。

そして、空腹でこれを書いてしまったがために、今めちゃくちゃジンギスカンが食べたい。

腹が、減った。

ポン

ポン

ポーン

今なら井之頭五郎と同じくらい食える気がする。


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