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現場を尊重していることを『形』にする

[要旨]

ミスターミニットの元社長の迫俊亮さんは、事業改善のために同社社長に就任したとき、まず、店舗で働く部下の要望を、ひたすら聞き入れていたそうです。これは、自分が現場を尊重していることを「形」にすることによって、経営者に対して抱いている不信感を払拭し、部下からの信頼を得ることを目的としていたからだそうです。このような働きかけが奏功し、その後、迫さんがリーダーシップを発揮し、同社は業績を回復して行きました。

[本文]

今回も、前回に引き続き、迫俊亮さんのご著書、「やる気を引き出し、人を動かすリーダーの現場力」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、ミスターミニットの従業員の方は、ロジカルシンキングや戦略的思考が身についていないという短所がありますが、エリアマネージャーが持っていない現場感覚があるという長所があるので、同社社長だった迫さんは、従業員の長所を活用してもらうことに注力し、同社の競争力を高めていったということについて説明しました。これに続いて、迫さんは、部下からの信頼を得るために、社長に就任したばかりの頃は、部下の要望をきくことに徹していたそうです。

「僕は、社長になってから、半年間近く、ひたすら、現場社員の要望に応えていた。もしかしたら、端から見ると、御用聞きか、はたまた、小間使いのように見えていたかもしれない。『何か困っていることはないですか?』と声をかけ、『電気が切れている』と言われれば、その場で総務に電話をかける。(中略)『ユニフォームがダサいし動きづらい』と言われれば、デザインを刷新する。職人気質の現場社員に、少しでも興味を抱いてもらうため、鞄いっぱいに新しい部材のサンプルを詰め込み、一つひとつ試してもらって感触を聞く。(中略)このとき、ROI(投資対効果)や経営的な優先順位は極力考えなかった。

ただ、小さな要求から多少コストがかかる要求まで、すべて、そして、なるべく早く実現しまくることだけを意識した。『会社のために自分がすべきこと(会社に求められていること』は思いつかなくても、『会社にやって欲しいこと』なら、誰しもが思いつくはず。そう考え、先ずは現場の『やって欲しい』を集中して叶えようと決めたのだ。なぜかというと、現場を尊重していることを『形』にして示すためだ。それまでないがしろにされ続け、不信感しかない現場に、共感の気持ちを表現するためだ。そして、ひいては、リーダーとして信頼してもらうためだった。

大事なのは順番だ。要求に応えている間も、正直、こちらから要求したくなることはあった。(中略)『すぐ、片付けろ』(中略)と、役職が上の人間として、頭ごなしにリクエストすることだってできたと思う。でも、いきなり、こちらのやって欲しいことを伝えても、『現場のことは何もわかっていないくせにさ』と、心を閉ざされてしまうだろう。もちろん、いつまでも御用聞きのままではいない。自分を信頼してくれていると感じ始めたころ、こちらのリクエストも伝え始めた。なんとも地道に見えるかもしれない。でも、それまでの冷え切った関係性は、すぐには温まらない」(66ページ)

私は、迫さんが実践したような、ひたすら現場の従業員の方の要望に応えるという働きかけが、普遍的に正しいかというと、必ずしもそうではないと思います。でも、ニデック会長の永守重信さんは、ご著書、「人を動かす人になれ!」の中で、「部下を叱ったときは、その3倍はアフターケアをする」と述べておられます。すなわち、部下たちに改善は働きかけなくてはならないものの、単に、一方通行で改善を強いるだけでは、実際には改善は進みません。そこで、部下に改善を伝えた後は、それを伝えた経営者は、それ以上に部下の要望をきいたりするという対応が欠かせないということでしょう。

これも、頭では理解できることだと思いますが、気をつけていないと、なかなか実践できないことだと思います。そして、私が、もうひとつ注目すべきことと感じたことは、迫さんは、「現場を尊重していることを『形』にして示す」ことを実践したことです。「私は部下を尊重しています」と口にする経営者の方はたくさんいると思います。そして、そう考えていることは事実だと思います。しかし、部下の方から見ると、必ずしも、経営者の方が考えているように尊重されているとは感じないことも多いことが現実だと思います。これについては、それぞれの「主観」の違いなので、どちらが正しいのかということは言えないでしょう。

でも、迫さんのように、「現場を尊重していることを『形』にして示す」ことを続けていれば、迫さんが、「現場を尊重している」と主張したとき、それを否定する部下の方はあまりいないでしょう。そして、そのことが、迫さんが部下に対して改善の要望を伝えたとき、容易に受け入れてもらえるようになり、同社の改善が迅速に進むことになったのでしょう。これは、ひとことで言えば、「有言実行」ということなのだと思いますが、この有言実行も、リーダーシップを発揮するには重要な活動なのですが、実際にはなかなか実践されていないと感じています。そういう私自身も、有言実行を実践できていないので、迫さんのご指摘を読んで反省しています。

2023/10/9 No.2490

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