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『言われたことで返さない』営業

[要旨]

相模屋食料の営業マンは、スーパーに売場づくりを提案し、その結果、おとうふや油揚げの売上額を増加させることでも、他社との差別化を行っています。これは、リテールサポートという、メーカーや卸売業の機能のひとつですが、営業マンがリテールサポートができるようになるためには、スキルを高めるだけでなく、モチベーションも高める必要があります。すなわち、ライバルとの差別化を図ろうとするときは、経営者には、営業マンを育成したり、モチベーションを高めたりするという役割が求められます。

[本文]

今回も、前回に引き続き、日経ビジネス編集部の山中浩之さんが、相模屋食料の社長の鳥越淳司さんに行った、インタビューの内容が書かれている本、「妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、相模屋食料の鳥越さんは、コロナ禍で卸先のスーパーからの発注が安定しない中、ホワイトボードに情報を書き留め、それを写した写真をiPhoneのアプリで送信して社内で共有した結果、各工場で迅速な対応を行うことが可能になり、欠品を防ぐことができたことから、スーパーからの信頼を高めることができたということをご説明しました。

これに続いて、鳥越さんは、自社の営業マンは、提案型営業で他社と差別化しているということをご説明しておられます。「スーパーのデイリーの担当者の方から、『揚げ(油揚げのこと)の売り場がちょっといま厳しいんだよね。商品を提案してくれない?』と言われたときにどうするか。(中略)その時に、揚げの商品を提案するのは、多分、普通の営業ですよね。うちの営業は、まあ、全員が全員できているわけじゃないですけれども、『油揚げが不振だ』と言われたら、じゃあ、揚げだけじゃなくて、おとうふの売り場全部を提案しましょうと。(中略)

この提案をする前提として、基本的に持っていなきゃいけない情報があるんです。私が雪印乳業の営業マンだったときに、思いっ切り叩き込まれたものなのですが、この業界ではやっているメーカーがほとんどない。(中略)まず、そのスーパーさんのお店の売上がありますね。大きさにもよるんですけれども、だいたい、そこの食品の売り上げの1~3%が、おとうふ、揚げなどの大豆加工食品系の売上なんです。これは、全体が大きいほど、比率が下がります。(中略)例えば3%としましょうか。お店の売上はいくらですか、年1,000億円ですと。じゃあ、おとうふ関連で30億円ぐらいかなと。

そのうちの6割5分と3割5分で、おとうふ、揚げで分かれていたら、まあまあ、平均的な売上なんです。でも、お店は不振だと言っているから、その比率が低いはず。調べてみて、もし、揚げが25%しかないとしたら、『あと10%伸ばせる余力がありますよ』という話ができるわけですね。そこから、『この10%を伸ばすために、おとうふの売場全体を、こういうふうな構成で固めていきましょう』という提案をしていく。我々は、売場全体を提案して、つくれるだけの商品を自前で持っているので、それが可能なんです。うちの営業の形はこれですね。

ポイントとしては、単に商品を増やすよりも、何を売場で訴えていくのか、構成から考えていくこと、でしょうか。(中略)言われたことを、ただやるんじゃなくて、『もっと全体をやっていきましょう』という話を持っていくので、けっこう、勇気がいることなんですよ。(中略)先方からすれば、下手したら、押し売りになっちゃいますので。でも、少なくとも、おとうふの業界では、数字の根拠と作戦まで付けて持っていく、なんてことは、まず、やらないので、『ああ、待っていたんだよ、ここまで分析してくれるの』と」(103ページ)

この鳥越さんのご説明は、リテールサポートが重要であるということです。適切な売場は、小売業単独でも研究できますが、メーカーや卸売業は、小売業と比較して、多くの売場に接することができるので、前述のように、小売業に提案が可能になります。最近のメーカーや卸売業は、商品(製品)そのものよりも、リテールサポートの重要性が高まっています。そういった面では、小売業を顧客にしている会社では、リテールサポートに力を入れることで、他社と差別化を図ることができるということは言うまでもありません。

ところが、このリテールサポートの実践は、難易度がやや高いようです。それは、情報を集めることも大切なのですが、従業員の方のモチベーションも欠かすことができないからです。鳥越さんも述べておられるように、メーカーの営業マンは、単に、受注した商品を卸していればよいという訳にはいかず、「売場の提案をしたものの、もし、予想通りに商品が売れなかったらどうしよう」と感じてしまうからです。

これについて、鳥越さんは、詳細は割愛しますが、従業員の方たちのモチベーション向上に注力しているそうです。これに対して、営業マンには、「顧客に売り込んで来い」という指示しか出していない経営者の方も、少なくないのではないでしょうか?でも、これを言い換えれば、経営者の方が、営業マンのモチベーションを高めるスキルがあれば、ライバルとの差別化を図ることができるということです。すなわち、会社の競争力は、経営者の能力がどれだけあるかに尽きると言えるでしょう。

2023/12/6 No.2548

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