あの人に会いに_Fotor

〈集合的無意識〉の表現〜『あの人に会いに』

◆穂村弘著『あの人に会いに 穂村弘対談集』
出版社:毎日新聞出版
発売時期:2019年1月

……ごく稀に奇蹟のような言葉や色彩やメロディに出会うことができた。この世にこんな傑作があることが信じられなかった。世界のどこかにこれを作った人がいるのだ。それだけを心の支えにして、私は長く続いた青春の暗黒時代をなんとか乗り切った。(p3~4)

やがてみずからも売れっ子の歌人となった穂村弘は憧れの創作家たちと言葉を交わす機会を得ました。対談の相手は、谷川俊太郎、宇野亞喜良、横尾忠則、荒木経惟、萩尾望都、佐藤雅彦、高野文子、甲本ヒロト、吉田戦車……と多彩な顔ぶれ。

興味深いのは、谷川、横尾、萩尾がみずからの創作活動を語る際に、示し合わせたかのように「集合的無意識」という言葉を使っている点。谷川・横尾と萩尾とでは文脈は異なりますが、穂村は対談後の覚え書きのなかで「創造の秘密に関わるキーワードかもしれない」と指摘しています。

谷川の場合、インスピレーションは上から降ってくる感じではなくて下からやってくる、といいます。「やっぱり『集合的無意識』という言葉を知ったことが大きいですね。そういうものが上にあるとは思えない」。

横尾もインスピレーションはどこから来るのかという問いに応えて、その言葉を出しています。「(インスピレーションは)いろんなところから来るんじゃないか。自分の経験や記憶から来ることもあるし夢から来ることもある。もしかしたら、集合的無意識から来ることだってあるかもしれない」。

対して萩尾は「物語ができあがる前に重要事項が浮かんでくる感覚があるんです」と話した後、「たまにデジャヴみたいな夢を見るでしょう。ユングがいう集合的無意識の中に入り込んでしまったような」と述懐しています。

このほか宇野と荒木のビジュアリスト二人の話は、期せずして「センチメンタル」が鍵言葉の一つになっているのも一興。甲本とのロックンロール談義もシンプルに面白い。

そんなこんなで、穂村はあまり出しゃばらずもっぱら聞き役に徹して相手の話をうまく引き出しています。良くも悪しくも穂村らしさのにじみ出た、肩のこらない愉しい対談集といえるでしょう。

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