反知性主義には、相当の”知性”が必要である。

『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』ブックレビュー

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超大国アメリカを作ってきたのは何だろう?その中心にある核って何だろう?

私は、日々Googleで検索し、同じくGoogleのスマホを使い、FacebookやTwitterに投稿し、iTunesで音楽を聴く。PIXARのトイ・ストーリーやマーベルのアベンジャーズを観て笑い、銀行口座には多少の米ドルが眠っている。この記事の冒頭では、Amazonへリンクを貼ったばかりだ。

これら全てがアメリカに関わることにもかかわらず、冒頭の質問に漠とした答えすら浮かばないのだから情けない。「キリスト教」「アメリカンドリーム」といったキーワードが浮かぶだけでは答えに辿り着けるはずもない。

本書のページをめくり始めた時には、その真相に肉薄できるとは思ってもみなかった。”反知性主義”を切り口に、現代アメリカの全貌とその核となるものの一端に近づけるのである。

著者曰く「反知性主義の本質は、宗教的使命に裏打ちされた反権威主義である」。ここでいう権威とは、ヨーロッパ(旧世界)であり、既成教会であり、大学であり政府でもある。これを批判し、打破することから、新しい時代にふさわしい知性や信仰が生まれるという。
アメリカの根底には、知性と権威が結びつくことを許さない、徹底的な”平等”の価値観が根付いているのである。「アメリカンドリーム」が誰にでも平等に与えられたチャンスであるという意味を内包しているのは、このような背景から来ているのだろう。

本書のタイトルでもある「反知性主義」の目的は、「相手(権力者)のハナを明かすこと」だと言う。この点における、著者の爽快な展開が非常に面白い。

権力と戦うためには、巧みな話術、精密に練り上げられた仕掛け、ひるまない絶対の自信が必要である。必要なのは”知恵”であって、”腕力”ではないということだ。つまり、反知性主義には、相当の”知性”が必要である。壮大な矛盾にも思えるが、なるほどと思わせられる。

最後に、現代日本に生きる私たちにも通ずる箇所を抜粋して紹介したい。

反知性主義は単なる知性への軽蔑と同義ではない。それは、知性が権威と結びつくことに対する反発であり、何事も自分自身で判断し直すことを求める態度である。そのためには、自分の知性を磨き、論理や構造を道部く力を高め、そして何よりも、精神の胆力を鍛えあげなければならない。



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