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医者と患者のコミュニケーション論

医者と患者のコミュニケーション論
里見清一著
著者は本名・國頭英夫。1961年鳥取県生まれ。1986年東京大学医学部卒業。国立がんセンター中央病院内科などを経て日本赤十字社医療センター化学療法科部長。

がんの「告知」は当たり前か?
 現在は、患者本人へのがん告知は「当然のこと」となっているが、この慣習はそう古いものではないのです。医療先進国のアメリカでも、1961年の時点では、告知を「しない」が88%、それが1977年には「する」方が98%と、わずか10余年で逆転したのでした。日本では、告知が始まったのが1990年代に入ってからということです。
 告知することによって、患者と医師との関係が良好になったかといえば、そうとも言い切れない。「本人に自己決定権を委ね、正しい情報を提供するのは当然だ」というのは、現在では「正しい」されていますが、それが人間の感情に即したものかどうかです。
『医者と患者のコミュニケーション論』は、今の医学教育を受けた研修医に対して、患者との間で交わされるコミュニケーションについてのアドバイス。電子カルテが導入され、臨床でもパソコンばかりみながら診療するようになってきていることや、触診しないケースが増えてくるのではないかということについての警鐘なのかもしれない。患者からの贈り物もコミュニケーションの観点から、必ず受け取るように、そして受け取った責任を感じるようにと言っているところも面白い。
・面倒こそがコミュニケーションの本質
「コミュニケーションにおいて有効なのは「めんどうくさくて、無意味と思われること」をあえてすることである。」
・医者を取り巻く相互不信の時代
「専門的な訓練を受け、知識や技能を身につけた者が行うのをprofessionという。古くはprofessionというのは、三種の職業のみを指していたそうだ。すなわち、医師、法律家それに宗教家である。この三つはいまでも他の職業とは違う、別格と考えられている。この三つは「他人の不幸で成り立つ商売だからである」医者は病を、法律家はトラブルを、そして宗教家は死を飯の種にしている。 我々は人の不幸で喰っている稼業だ、ということは、頭の隅に入れておいた方がよい。」
・医療の「進歩」が距離を作る
「デーブ・グロスマンというアメリカの退役軍人が書いた『戦争における「人殺し」の心理』。兵士は、というより人間は、人が目の前で苦しみ、死ぬことに耐えられず、なるべく距離を置こうとする。物理的距離が近くなるほど兵士が相手を殺す心理的負担は大きくなる。ベトナムやアフガンで白兵戦を体験した兵士たちはその後心理的なトラウマに長く悩むことになる。だから最近の戦争は接近戦をさけ、なるべく遠くからの爆撃や無人兵器で済まそうとするのである。
我々の置かれている状況は、これと瓜二つではないか。生身の人間が、ここで苦しんでいることから目を背けたいのである。なろうことなら「遠隔操作」によってなんとかしたいのだ。また、最近の医療技術の進歩はこれを可能にしている。」
「幸いにして君たちはまだ、外来での診療より病棟での仕事が主体だから、患者を診るときにはパソコンは持たない。しっかり生身を見て触る癖をつけておきなさい。」
「医者の最も大事な仕事の一つは、患者とのコミュニケーションである。諸君のことは病棟ナースが厳しく観察していて、その基準は、第二番に点滴その他の処置がうまいかどうか、そして一番が、「患者と話ができるかどうか」である。」
「少なくとも臨床の医者は話すのが商売の一つで、コトバを駆使しなければやっていけない。」
・贈り物は受け取らなければならない
「人間というものはその本性から、恩恵を受けても、恩恵を施してもやはり恩義を感じるものである。(マキャヴエッリ:君主論)」
・医療のマキャベリズム
「必要なのは患者に対する愛情や思いやりではなく、あくまでもプロとしての冷静な観察眼、そして相手を説得する能力だと考える」
「対人援助職のプロフェッショナルは、人の良い、悪いに関係なく、『患者の苦しみ、悩み、を減らす・なくすこと』に焦点を合わせてものを言ったり行動したりできる人ということです」
・「何もできなくなった」とき
「医者がやるべき仕事とはなんなのだろう。有名なものとしては次に掲げる言葉が挙げられる。このオリジナルはヒポクラティスまで遡るという説もあるが、一般的には19世紀に結核療養所を開設したNY出身の医師エドワード・トルドーの格言として知られている。To cure sometimes, to relieve often, to comfort always
「治す」ことは時々しかできない、「和らげる」ことはしばしばできる、「慰める」ことは常にできる。」
「患者側には、「この医者は自分の方を向いている」と思ってもらわなければならない。そのために、我々は患者の感情を理解し、また患者にこちらの感覚を理解してもらう必要がある。」
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