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物理屋さんのためのアナログ回路入門

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物理屋さんが仕事でアナログ回路屋さんになったときに学んだことの備忘録。教科書見たほうが良いかもだけれど、工学屋さんでない自分がつまずいたところや、物理屋さんらしく数式をベースに考… もっと読む
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記事一覧

高周波回路はなぜ難しいのか

高周波回路はなぜ難しいのか

 高周波回路(RF回路とも呼ばれます)がアナログ回路の中で難しいと言われる理由はいくつかあります。今回は高周波回路がなぜ難しいのかについてお話をしたいと思います。

1.高周波とはどこからなのか まず高周波とはどういったものか説明するところから始めましょう。高周波回路では波長という概念が非常に重要になってきます。波長というのは波が伝搬するときの空間方向の周期のことで、以下の図のλに対応します。

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トランジスタによる信号の増幅(エミッタ接地増幅回路)

トランジスタによる信号の増幅(エミッタ接地増幅回路)

 前回はトランジスタの基本特性について議論しました。今回はこのトランジスタを使って信号を増幅させることを考えます。トランジスタによる信号増幅はアナログ回路の初めの山場であり、これを理解できればエンジニアとして一歩前進と言っても良いでしょう。

0A.記号の約束 今回は直流と交流が入り乱れて出てくるので、直流信号は大文字で下に0の添え字をつけます(V_B0やI_C0など)。交流の信号は小文字で表現し

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トランジスタってどういう素子?(トランジスタの静特性)

トランジスタってどういう素子?(トランジスタの静特性)

 私が高校生のころ電子回路というものに興味を持ちそうになったことがありました。お金がない高校生、本屋で入門書を立ち読みをしていると「トランジスタは電気を増幅します」という本の記載を発見。これを見た私は「電子回路っていうのはエネルギー保存則が破れているっていうんです?いくらトランジスタが世界を変えたとは言えそんなわけあるかい!」と早とちりして本をぱたり。そのまま社会人になるまで電子回路とは無縁な人生

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ダイオードの電流ー電圧特性

ダイオードの電流ー電圧特性

「ダイオードはp型半導体とn型半導体を接合させたもので、電流を一方通行となるように流し、0.6Vくらいの電圧をかけると順方向に電流が流れる素子」という説明がよくされています。しかしこの説明、概要はなんとなくわかるんですが、実際には曖昧過ぎてよくわからないんですよね(私はそうでした)。そこで、今回はダイオードに電圧をかけるとどういった挙動をするのか、数式を使って考えてみましょう。

1.ダイオードの

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入出力インピーダンス(電圧源と電流源)

入出力インピーダンス(電圧源と電流源)

今回は入力インピーダンスと出力インピーダンスについてです。昔この言葉の意味が分からず、一番最初にハマってしまい、ああ電子回路って難しいんだなあって思いました。内容はそんなに難しくないんですが、言葉の意味が分からないと難しく感じたりするんです。ここは将来的に高周波回路をやる上でも避けては通れないところですし、このあたりできちんと言及したいと思います。

1.入力インピーダンスまず回路をブラックボック

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共振回路とQ値(寄生抵抗の影響)

共振回路とQ値(寄生抵抗の影響)

前回は寄生素子による高い周波数での影響を中心に見てきました。今回はもう一つの寄生素子である抵抗成分についても考えてみます。

1.寄生抵抗の影響が問題になる例寄生抵抗の影響は大概の場合はっきり言って小さいです。回路には通常抵抗素子などが置かれますが、それらは10Ω以上でさらに±0.1%などの誤差を持っています。そのため寄生抵抗である0.1Ωなどという値はそれらの誤差に比べてほぼ無視されます。その中

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電子回路の寄生素子

抵抗やコイル、コンデンサのような受動素子を高い周波数で使う際に問題になるものとして寄生素子と呼ばれるものがあります。これを体感するのに一番良いのは実際に測定してみることで、私も社会人1年目の時にオシロスコープと信号発生器を使ってインピーダンスの測定をした覚えがあります。今回は実際の測定結果ではなく理論を中心にまとめます。

1.寄生素子とは世の中には抵抗、コンデンサ、コイルといった受動素子と呼ばれ

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共振回路2(並列共振回路)

共振回路2(並列共振回路)

前回はコイルLとコンデンサCを直列につないだ直列共振回路について議論しました。今回はコイルLとコンデンサCを並列につないだ並列共振回路と呼ばれる回路について考えていきましょう。ただ、全体的に直列共振回路と一部の文言を変えただけで説明ができてしまうため、似たような文章が並んでいます。手抜きじゃないよ。

1.並列共振回路並列共振回路はコイルLとコンデンサCを並列に接続した回路で、以下の図のような構成

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共振回路1(直列共振回路)

共振回路1(直列共振回路)

素子が直列に接続された時のインピーダンスはキルヒホッフの法則によって解くことができます(※キルヒホッフの法則についてはまだ書いてません、そのうち書くかも)。これを使って具体的な回路について検討していきたいと思います。最初の例としてコイルとコンデンサを直列につないだ直列共振回路と呼ばれるものについて考えていきます。

1.直列共振回路直列共振回路はコイルLとコンデンサCを直列に接続した回路で、以下の

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電子回路で複素数を使う理由3(振幅と位相それとインピーダンス)

前回の議論で、最後の最後に実部をとるというルールを採用することで、実部をとる直前までを複素数を使ってうまいこと計算できるという結論が得られました。ここについてもう少し深く検討してみましょう。

1.振幅と位相これは前回の議論の繰り返しになりますが、フェーザ表示した(複素表示した)電流や電圧について、実部はcos(2πft)の成分、虚部はsin(2πft)の成分を示しています。実部と虚部の両方を持つ

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電子回路で複素数を使う理由2(フェーザ記法2)

前回の議論で交流回路のコンデンサやコイルは電流がcosの形で書かれていても電圧はsinの形で書かれ、電圧ー電流特性を単純比例関係で議論することができないことを述べました。しかしこれでは回路中の電流と電圧の形を考える際に毎回微分・積分する必要があり、少し扱いにくいです。そこでなんとか単純にこれを扱えないかということで複素数を使うということが行われます。

1.オイラーの公式世の中では最も美しい恒等式

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電子回路で複素数を使う理由1(フェーザ記法1)

前回、抵抗器・コンデンサ・コイルといった基本的な受動素子の動作について説明しました。しかし、このような微分・積分を使った表現は煩雑すぎて実際の電子回路ではめったに使われません。

1.目指すところまずは抵抗器にcosの形の電流が流れたときの電圧の形を振り返ってみましょう。

電圧と電流は単純な比例関係になっているため電圧の係数部分をv_0とするとそれぞれの振幅同士は以下の関係が成り立つことになりま

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受動素子(RCL素子の基本性質)

電子回路について備忘録も兼ねてつらつらと記載していこうと思っています。最終的に目指すところは高周波回路の話や通信方式についてまで記述したいと思います。本当の最先端は仕事とぶつかるのでたぶん書けないですが。

今回はRCLといった受動素子について。受動素子というと当たり前すぎて今更感がありますが、基本ということでRCLの3素子の電圧電流特性について書きたいと思います。

0.交流信号の表現方法まずは

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デジタル回路ではなくアナログ回路を学ぶ意義その1(デジタル信号の利点)

デジタル回路ではなくアナログ回路を学ぶ意義その1(デジタル信号の利点)

2021年、世はデジタル化の全盛期。DX(デジタル・トランスフォーメーション)やデジタル改革相なんて言葉が新聞の紙面を躍る昨今、デジタル回路ではなくアナログ回路を学ぶ意義とはなんだろう、というところを私なりの言葉でまとめておきたいと思います。結論から言うと世の中がデジタルで動くようになったからと言ってアナログ回路が無用になる日は来ないでしょう。いえ、むしろより重要になるのではないかと考えています。

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