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蛇腹

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仲間内で反応がよかったネタ的文章を小出しにアップしています。
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蛇腹⑨

蛇腹⑨



「まもなく終点…かだま空港です」

気持ちが籠らないこの声は運転手の肉声だ。自動音声と同じく、おかだまなのかあかだまなのか、はっきりしない口調だ。

だが、次のアナウンスはどこか愉しげに聞こえた。

「本日は下着の忘れ物が多くなっています。お降りの際はお手回り品にご注意下さい」

僕は未だに着衣を戻していないことに気がついた。ベルトを緩めチャックだけ下ろしただけの、行為を満喫するには自由度が

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蛇腹⑧

蛇腹⑧



初めてスキーをした時、同行した上級者にゴンドラでいきなり頂上まで連れていかれた。四苦八苦しながら板を履くと「あっちに迂回コースがあるから」と進んだ先に見えたのは好天に映える雪山の連なりだ。

足元の地面が数10センチ先から直角と見まがう角度で唐突に下っている。その先の駱駝のコブが幾重にも重なるデコボコの崖みたいな斜面を颯爽と駆け下りる姿も見える。

雄大な景色と華麗なスキーヤーに感心したのも

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蛇腹⑦

蛇腹⑦



「このバスは……かだま空港行きの直通バスです。途中…て……しゃ…………はありませんのでごっ…っ……下さい。」

自動音声は、初めに耳にしたときと寸分も違わぬ途切れがちの語り口で、聞く側の都合などお構いなしに喋り続ける。

時折強く風が吹く。細かいが意思を持ったかような強さで雪はひっきりなしにバスの窓ガラスに吸い寄せられていく。

行路はもう中程に差し掛かったのではないだろうか。町並みは郊外の

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蛇腹⑥

蛇腹⑥



子供の頃からいたずら好きだった。大人になってもその癖は抜けず、未だにトラップを仕掛けて同僚らを翻弄させるのを楽しんでいる。
ただ、最も虚しいのはそれに対して反応がないことだ。もちろんそれはいたずらに限った事ではないのだが…

それを知っている僕は、今まさに直面している、この女からの仕打ちにも無視を決め込んだ。

尚も女の手はねっとりとした動きのまま徐々に下腹部との距離を縮めてゆき、ついにズボ

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蛇腹⑤

蛇腹⑤



間の抜けたブザーの音と共に扉は閉じ、バスが走り出す。
視線の先…といってもすぐ真横に座ったのは、姿を消したと思っていた、あの女だった。

「さぁ~むいねぇ~」

どういうつもりなのか、満面の笑みで缶コーヒーを差し出されると、反射的に受け取ってしまった。女の手はなぜかRedBullを握りしめている。

バスは札幌の中心部を順調に進む。
乗客は少なく、ほぼ等間隔で2人組が3組腰かけている。我々を

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蛇腹④

蛇腹④



声の主を知るのには振り返るまでもなく、肩を掴まれたままの状態で僕は答えた。

「あ、どうしても外せないところがあって…」

デタラメな返事でその場を取り繕ったものの、よりによって一番見つかりたくないヤツに身柄を確保されてしまった…
尚も振り返らず、僕はその手を肩を強く揺すって振り払い、構わずに歩き始めた。

とにかくどれでもいいからバスに乗ろう。2台先に停まっている紅白のツートンカラーのバス

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蛇腹③

蛇腹③


意識が戻ったのは新千歳空港の到着ロビーだった。職場のメンバーが私服で勢揃いしている。
「あぁ…、慰安旅行か…」

意識と居場所が唐突に飛んでしまう事を、半ば諦めたかのように体が順応してしまっている。
が、この旅行中にも、いつどこで再び意識が飛び、空間移動してしまうかは自分にすらわからないのだ。

今日は土曜だ。明日には東京に戻らなくてはいけないのは僕だけではない。
おそらく今日は札幌市内を観光

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蛇腹②

蛇腹②


「あなた~?何してるのよ~?!」
妻の声で我に返った。

…そうだ。抽選会で特賞が当たった瞬間、気を失ってしまったんだ。
まだ少し朦朧とした意識のまま、
「そう、熱海…熱海旅行が当たったんだよ!!」
と告げると、僕の姿を見た妻は絶叫したのだ。
「ぁぁぁぁあなたそっそれどういうつもり?」

あれ?僕は抽選会場にいたハズだぞ?なんで全裸で浴室にしゃがんでいるんだ?
抽選器を回す持ち手のつもり

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蛇腹 ①

蛇腹 ①

札幌市の中心部から北東に車で20分程のところに丘珠空港という小さな空港がある。もともと陸上自衛隊の飛行場だったのが、北海道内の都市とを結ぶ民間の小型機の発着にも利用されるようになった空港だ。
「おかだま」と読むのだが、その漢字表記にはどこかエロスなイメージを抱くのは私だけだろうか。字が違うというツッコミはごもっともだが、丘と玉だ。
性的な単語を調べるのに、国語辞典を漁っていた中学生時代の私がこの空

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