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本屋大賞発表前日、52ヘルツのクジラたちが私を呼んだ。

「52ヘルツのクジラたち」
町田そのこ  中央公論新社

52ヘルツのクジラとは
他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で1頭だけのクジラ。
たくさん仲間がいるはずなのに何も届かない、何も届けられない。
そのため、世界でいちばん孤独だと言われている。
  「52ヘルツのクジラたち」オビより


この本を読み終えたのは、昨年末のことだった。
話題になっている本で装丁もきれいだったことから、私は図書館でこの本を予約した。
順番が回ってきたのは予約してから数カ月たったころだったと思う。
内容は本当にざっくりと児童虐待の話としか知らず、「52ヘルツのクジラ」の意味もわからないまま読み始めた。

結論から言うと、私の中で十数年ぶりに深く心に残った本となる。
具体的には、この作品の中に出てきた主人公と出会った少年、二人の未来が知りたいと思った。
続きが読みたい、続編はないのかと。


文章はさらさらと、流れるように読み進めることができた。
が、しかし。
痛い、痛い、痛い。
私のことではないのに、心も、体も。

この52ヘルツのクジラたちに出てくるキナコこと貴瑚(きこ)と、ムシと呼ばれていた少年への、それぞれの虐待。

主人公キナコはいわゆる、虐待サバイバーだ。

虐待サバイバー
乳幼児期・児童期に虐待を受けた人が生命を落とさず、無事に成人した人をのこと。虐待を生き延びた人という意味。


キナコは孤独から救い出してくれた人たちとの出会いで、新たな人生を歩みだす。
その中でも、さらなる出会いと別れを経験し、たどり着いた大分の祖母の家。
その土地で出会う、自分の過去をも彷彿とさせる少年との交流。

読みながら心がとても痛くなるけれど、最後には一筋の光が見える。
そして、自分を信じ、支えてくれる人がいることは、どんなにありがたく幸せなことかを改めて感じた。


いつも私はザっと読みなのだけれど、そんな読み方でも深く心に残る1冊になったこの本を、図書館に返却しがたくなった。
返却日ギリギリに読んだことが悔やまれる。


その後、何度も書店で見かけ、文庫になったら絶対買おうと思っていた。

何度目かわからないが偶然にも本屋大賞の発表前日、書店のランキングコーナーで目にする。
・・・「52ヘルツのクジラたち」が私を呼んでいた。

一度、読んだでしょ。
文庫になったら買おうと思っていたでしょ。
他にも買いたい本はいっぱいあるでしょ。

でも。でも。
もう一度、今、読みたい。
キナコと、「ムシ」から「52」へ、そして本当の名前の「愛(いとし)」と呼ばれるまでに至った少年の、さらなる明るい未来を想像し、希望を感じたい。



この本が本屋大賞に選ばれることを願いながら眺めていると、
「52ヘルツのクジラたち」が
ほら、手に取ってよ、おうちに連れて帰ってよ、という声なき声が聞こえたような気がして。
・・・私は根負けした。

この時に手にした本は2冊。


偶然にも見事に、本屋大賞が「52ヘルツのクジラたち」。
そして2位に「お探し物は図書室まで」が選ばれた。


「全国書店員さんが選んだいちばん!売りたい本」に、私はまんまと心をわしづかみにされてしまったようだ。​
本屋大賞のランキング発表に、心の中で小さくガッツポーズ。


こんな出会いもあるから
だから読書って、やめられないんだよね。





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