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【短編】 闇の雨℘†prologue†℘

雨が降っている。
闇の雨だ。
雨音は私を責めるように激しい。
あの日からずっと私のなかで、あの雨が降り続いている。
雨音は耳鳴りのように悔恨を揺るがせる。
あの人との日々が断片的に蘇る。
幸福の追憶は、幾度となく膿んだ傷を虐める。
忘却に救いを求めても、罪がそれを許さない。
隔離された世界で、無音で泣き叫び続けている。
数ミリに拒絶された希望。
黄緑色のカーテンが冷笑する。
あのひとはもういない。
それなのに……。
私はどうして、まだ生きているんだろう。



雨が降っている。
闇の雨だ。
雨音は俺を責めるように激しい。
あの日からずっと俺のなかで、あの雨が降り続いている。
雨音は耳鳴りのように、罪と罰を戒める。
告解室で懺悔するように生きてきた。
それでも足りないと贖罪を乞う悪夢たち。
いっそ殺してくれよと死神に救いを求める。
酒に女に溺れ破滅的に生きる俺を、月が嘲笑う。
あいつはもういない。
後悔と罪悪感に容赦なく襲われ、苛まれる。
ごみ溜めのなか、煙草を天に掲げて月に問う。
どうしてあいつじゃなくて俺が、性懲りもなく生きてるんだろうな。



雨が降っている。
闇の雨だ。
雨音は僕を責めているのか激しい。
あの日からずっと僕のなかで、あの雨が降り続いている。
雨音は耳鳴りのように懐かしい声と混ざり合う。
背負わせた罪、背負わされた罪。
誰にぶつけていいのか判らない憤怒と憎悪の感情に苛まれながら、自らも虐め続ける。
僕が秘密にしたせいで、彼らの歯車は狂った。
僕がもっとはやく彼の罪を告白していれば、あるいは結末は違ったのかもしれない。
それでも、運命は変えられなかったんだろうか。
握りしめた拳はまた行き場をなくし、感情とともに霧散する。
もう、誰もいなくならないでくれ……。



降り続く闇の雨
贖罪を乞う激しい雨音
やむことを望みながら
雨音を恋う
自責の念に己を苛み
後悔と罪悪感に己を貶め
罪と罰に己を虐める
愛する者を護るため
虚偽の微笑を
歪な刻が重なり合い
天秤を狂わせる
真実は闇のなか
やむことを知らぬ闇の雨が
隠蔽した罪の証を語り始める

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