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【ショートショート】俺と彼女とてりたまの季節

 布団で包まれ温度の上がった肌は、枕元の携帯電話を取る動作ですら寒さを訴える。かちっとボタンを押し、真っ黒の画面が一瞬で眩しいブルーライトを放つ。無機質な時計を確認すれば、時刻は十三時を少し過ぎた頃。
 いくら休日と言えども少し寝過ぎたかと思いつつ、温かい布団から出たくない気持ちとの闘いのゴングが鳴った。布団から出たくない選手が優勢だ。

 しかしそんな闘いも場外からの横槍で幕を下ろす。ピンポーンと鳴るインターホン。「はーい」と言いながら、ぱたぱたと小走りで玄関に向かう彼女の足音。玄関のドアが開く音に続き、「ありがとうございます」と言う彼女の声と、すぐさま閉じられるドアの音。ぱたぱたとまた小走りをする彼女の足音が響くと同時に、寝室のドアが開け放たれた。

 その瞬間、鼻と胃を刺激するジャンクフードの匂い。

「マック買ったよー。食べよー」
「食べる!」

 どうやら先程の訪問者はハンバーガーの配達員だったようだ。そう答え合わせをしながら、肌寒さも忘れて布団から飛び起きる。彼女がダイニングテーブルにハンバーガー達を広げているのを横目に洗面台へ。急いで顔を洗い、歯磨きを終えて、ぱたぱたと小走りでリビングに戻る。

 ダイニングテーブルの上には期間限定商品である、定番の照り焼き味に玉子が挟まったハンバーガー。そしてこれまた期間限定商品である、淡いピンク色の炭酸。添えられたポテトはLサイズだ。
 椅子に座り、すーっと匂いを嗅げば鼻の奥から体の中へと通り抜けていく、高温の油でさっと揚げられたポテトの匂い。いただきますと手を合わせ、まずはポテトをひとつまみ。彼女は端っこのかりかり派。俺は真ん中のふにゃふにゃ派だ。この噛んだ瞬間のふにゃりとした触感と、ジャンクさまっしぐらの味がたまらない。

 そしてポテトで口の中も脳も完全にジャンクフードにしてから、かさかさとハンバーガーの包装を半分解く。照りのついた茶色いソースがぐんと食欲を刺激して、がぶりと一口。パン・レタス・ソーセージ・玉子が、照り焼きソースで完全調和を成している。だがここに添えられているマヨネーズも良い引きたて役だ。

「あー……寝起きでマックは神……」
「しかも陽ちゃんの大好きなてりたまだもんね」
「マジ飛ぶわ。寝起きてりたまが合法とかやべぇよ」
「やばくねーよー」

 ハンバーガーをいちごとヨーグルト味の爽やかな炭酸で流し込む。たっぷりの氷で冷やされたそれに、ぶるりと一瞬寒さを覚えるが、春の到来を感じた。


てりたまを見ると、春だなあって思う。

てか自分で書いてて、てりたま食べたくなってきた。


下記に今まで書いた小説をまとめてますので、お暇な時にでも是非。


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