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【毎週ショートショートnote】命乞いする蜘蛛

お題:命乞いする蜘蛛


 理想の暮らしを求め、中古で購入した古民家。しかし長らく人の手が入っておらず、周囲は背の高い雑草まみれ。室内ももちろん埃に虫にとてんやわんやだ。
 それでも立地や建物の造形など、何もかもが追い求めた理想にぴったりと合う夢のマイホーム。週末に彼と二人、軽トラックに乗っては少しずつ家を整える作業が続いたある日。

「なあ、クモの巣って凄いよな」
「あー、均一でって事?」
「そうそう。どう進化したらこんな巣を張るようになるんだろうな」

 箒を片手に天井を見上げた彼。その視線の先では均一に作られたクモの巣が陽の光を浴びていた。正直、口を動かすより手を動かしてほしいのだが、そう言うストレートな言葉をぶつけると彼は子供のように拗ねてしまう事を長年の付き合いで熟知している。ふーっと息を吐き、休憩がてら私も彼と同じ個所に視線を上げた。

 今まで気にした事などなかったが確かに。実に精確な形だ。機械が作ったと言われてもまあ信じるだろう。クモの遺伝子にはこの巣の作り方が組み込まれているのだろうか。
 そう思うと「手入れのされていない証」だと思っていたクモの巣への認識を少しは改めてもいいかもしれない。まあ、この後適当な木の枝でさくっと撤去するのだが。クモの巣に同居してもらう予定はない。

 しかし隣の彼はまだ撤去へと動く気はないようだ。顎に手をやり、うんうんと何かに頷き、ひとりで何かに納得をする。はてさて何がその口から飛び出すのやらと待っていると、彼はぴこんっと閃いた。どうせどうでも良い事だろうけど。

「もしこの巣の持ち主が、『巣を壊さないで~』って命乞いしてきたらどうする?」
「撤去するし外に追い出す」
「冷たっ!もうちょっと乗ってよ!」
「うるさい。ほら早く掃除する!」

 ぶつぶつと抗議を続ける彼の脇腹を小突き、掃除の再開を促す。しかし彼は、はっと気付いたように私の頬を人さし指でつつきながら笑う。「追い出すだけで殺しはしないんだ」と言って笑う。

「うるさいなー!古民家でクモ一匹程度に殺意剥き出してたら身がもたないでしょうが!」
「分かった分かった!じゃあ質問を変える!『殺さないで~』だったら?」
「さっさと働けー!」



クモの巣って凄いよね。
まあ見つけたら撤去するけど。


下記に今まで書いた小説をまとめていますので、お暇な時にでも是非。

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