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死体写真館 前編

『あなたの死体写真を撮影致します』

 ある日、このような怖ろしいキャッチコピーの広告が新聞、雑誌、インターネット等に流れ出た。
 初めの内こそ、スルーされていたが、誰かがその死体画像をインスタグラムにアップさせると一気に火がついた。
 もちろん、本物の死体ではない。死体に扮装したコスプレ写真なのだ。
 やがてYahoo!Newsにも取り上げられ、一躍トレンド記事のトップに踊り出た。
 広告記事を出したのは、乙骨写真館の店主乙骨鱗詩郎おつこつりんしろうという男だった。
乙骨はカメラマンを目指していたが、名は売れず今は小さな写真館の店主に収まっている。
 その乙骨の趣味は特殊メイクや変装を施したコスプレ写真等を撮影する事であった。
 それまではコミケなどの撮影会などにカメラマンとして参加する程度であったが、好きこそものの上手なれの諺通り、コスプレをする(または人に施す)ための技術を習得し、今ではその道の達人とまで囁かれるようになった。

 そこで乙骨は、特殊メイクや小道具等を使い舞台設定を整えて、コスプレ写真の撮影を専門とする商売を始めた。
 当初はハロウィン等でよく見かけるアニメや戦隊ヒーローもののキャラクター、その時の流行り物、あるいはメイドや女子高生、OL制服等の一般的なコスプレ写真の撮影が主だった。
 しかし、乙骨には抑えようもない怪奇趣味的な願望があった。その内に普通のコスプレ写真だけでは物足りなくなり、これまで培って来た特殊メイクと撮影技術を駆使して擬似死体写真の撮影を専門とするようになった。
 心の内から沸々と湧き上がるエログロへの欲望、特に猟奇的な殺害写真を撮影することに異常な程の執念を燃やした。例えばあられもなく全裸で横たわる死体、柘榴のように割られた頭から飛び出す脳みそ、内臓やはらわたが抉り出されて痙攣する肉体、など、考えるだけでゾクゾクする快感に身が震えた。
 商売として、どのような写真が撮影出来るか、数種類のパターンを考え、乙骨はモデルを使ってサンプル写真をいくつか作成した。
 ビルの屋上から飛び降りてコンクリートの地面に打ち付けられ、大量の血を飛び散らせ横たわる死体。
 廃墟のようなビルの片隅で天井から首を吊り、身体中からいろんな体液を滴らせてぶら下がる死体。
 同じく廃墟ビルで何者かに襲われて、レイプされ下着も剥ぎ取られ、血塗れになって捨てられた死体。
 人里離れた森の中に手足を縛られ、全裸で血を流し草むらに放置される死体。
 池の水面で素肌が透き通る薄い布の衣装に身を包み、透明の水の中に沈み行く死体、などであった。

 自分が自死もしくは殺害されたシーンを想定して映像を創り上げる。本来自分では見ることの出来ない死後の姿、それらが写真や動画によって映し出される。そのワクワクするような擬似臨死体験が若い人を中心に人気が昂まり、一種のブームを巻き起こした。
 話題が話題を呼び、人気のある雑誌にも掲載され、乙骨写真館には連日、死体写真の撮影を依頼する電話やメールが寄せられた。
 その舞台設定はいく通りにも考えられ、客のリクエストに応じ、乙骨は綿密に打ち合わせをして、殺害方法や死体遺棄現場を構築した上で撮影が行なわれる。
 出来上がった写真に顧客達は一様に満足し、多くの人がそれぞれ自身のSNSやインスタ、またはYouTubeなどにアップして沢山のスキやイイネの数が付いた。その内のいくつかは何十万もの再生回数をあげ、バズるアイテムとして死体写真のハッシュタグが上位にランクされた。

 さて、事件はある日突然起こった。
 乙骨の撮影した写真の中にある一枚と全く同じ状況で、本物の死体が発見されたのだ。
 それは人里離れた森の中、木々に囲まれた林の中にある小さな草むら、その中に女性の死体が横たわっていた。その死体から数メートル離れた位置に一つの脚立が放置してあった。
 発見したのは周辺の山を管理している林業の男だった。その男は最初に脚立を目にしてその場に立ち寄ったという。そこで草むらに横たわる女性の全裸死体を目にした。
 男はそれが死体であることを確認すると、現場を荒らすことなく直ちに警察に通報した。もちろん脚立には触れていないし、男は作業用の厚い軍手を装着していたのだ。
 現場に急行した警視庁捜査一課の小泥木警部一行は直ちに殺人事件と認定し捜査を開始した。死体は死後一日ないし二日は経っているものと見られ、死因は毒殺、青酸カリが使われている事が判明した。つまり、死体はどこか他所で殺害された上でこの山中に捨てられたものだ。脚立からは指紋が発見されず、現場周辺の遺留品の有無を捜索し、目撃者情報を求め聞き込み捜査が開始された。

 先にも書いたが現場は人里離れた森の中であり、周辺に住宅は無く、人通りもない。舗装されていない砂利道が現場から二百メートルほど手前にあるものの砂利道は相当荒らされていて、そこからタイヤ痕などの形跡を調べることは不可能であった。
 捜査はようとして難航を極めたが、別捜査をしていたニコラス刑事から一報がもたらされた。
 それによって、その現場写真がインスタに挙げられている別の女性がモデルをつとめた死体写真とそっくり同じであることが判明された。
 小泥木警部はその女性にコンタクトを取り、写真撮影の経緯を聴取した。因みに、その女性のここ数日のアリバイは完璧であり、捜査の対象からは除外された。
 そこで、その女性から聞き出した乙骨写真館という名前を頼りに、小泥木警部とその部下数名が乙骨鱗詩郎の元を訪ねたのは死体発見の翌日のことであった。

 乙骨は長髪の痩せた男だった。その時の警部の第一印象はどこか底の知れない不穏な空気を漂わせる人物だったと回想している。
 警部は、かの女性がインスタグラムにアップしていた画像をスマホに表示させた。
「これに見覚えはありませんか?」
 警部は慇懃に質問した。
「見覚えも何も、私が撮影した写真です」
「そうですか、ではこちらはどうですか?」
 次に警部は死体現場の写真を提示して見せた。
 乙骨はじっとその写真を見詰めた後、
「アングルが良くないですね。もう少し上から撮らないと」と感想を述べた。
「現場には脚立がありましたが、私共はそれを使う訳にはいかないものですからね」
 乙骨は黙り込んだ。
「その脚立はこちらです」と警部は懐から脚立を撮影した写真を取り出して横に並べた。
 またも乙骨はその写真をじっと見詰めた。
「私のものとよく似ています」
「見せてもらえますか?」
 乙骨は黙って立ち上がり店内の隅の物置から脚立を取り出した。
「見たところ全く同じものですな。少しの間、お借りしてもよろしいですかな?」
「持っていかれると困ります」
「別のものをこちらで用意します」
 警部は譲らなかった。
「分かりました」乙骨は渋々頷いた。
「死体写真の方ですが、これはあなたが撮られたこちらの画像とほぼ同一ですね。場所はどこで撮影されました」
「××市の山中です」
「死体発見と同じ場所です」
 乙骨はさらに黙り込んだ。
「どうお考えですか?」
「どうって、言われても……、誰かが真似たのでしょう。かなりの人がこの画像を見てますから」
「なるほど、では、あなたはこの三、四日、どこで何をしていらっしゃいましたか?」
「……アリバイ、ですか?」
「当然、事件関係者の皆さんに質問している事です」
「この一週間程はどこにも外出していません。仕事も撮影は隣のスタジオで行いましたし、後は現像とかの作業ですね。出掛けたとしてもここから歩いて二、三分のコンビニまでくらいです」
「それを証明出来る人はおられますか?」
 乙骨は空を見詰めた。
「一人暮らしなもので……」
「写真のフィルムやカメラ、SDカード、メモリー類、それから特殊メイクの道具や衣装等を拝見させて頂きますか?」
 乙骨は黙ってそれら一つ一つを順番に提示して見せた。警部に続いて部下の刑事達もそれらを一つ一つ綿密に調査していった。
 結局の所、それらからは特段、事件に繋がるほどの確たる証拠物件を発見する事は出来なかった。
 警部達の顔に焦りの色が見え始めた頃、担当刑事のスマホに連絡が入った。
「ガイシャの身元が割れました」
 小泥木警部達はそこで乙骨写真館での聴き取り捜査を一旦中断し、一先ず署の方へ引き上げる事にした。

 被害者は丸の内の官庁に勤める学歴の高い才媛だった。学生時代はミスコンでグランプリを獲得し、美貌も飛び抜けていた。名前を櫻沢桃香さくらさわももかと言い、年齢は23歳。世田谷区の豪邸に住む裕福な家庭のお嬢様だ。
「そんなところのお嬢様が何故、こんなことに……」
 小泥木警部は小首を傾げた。
「とりあえずこの被害者の交友関係を当たってくれ、特に乙骨鱗詩郎と何か接点があるか、それを重点的に」
 小泥木警部は捜査会議で部下にそう指示を出した。
 さて、それからの地道な捜査に関しては結果だけを簡潔に書き表すに留めておきましょう。
 櫻沢桃香の家庭はごく普通の一般家庭、いや、かなりの富裕層ではあるが。
 父親は外資関係の会社重役、母親は輸入雑貨の小売店を都内で何店舗か経営している。
 桃香の交友関係は多岐を広めていたが、親交度合いの高い数人を当たってみたものの、誰もが一様に桃香の死には驚いており、どこにもそれを連想させる事柄については心当たりが無いと返答した。
 また桃香のスマホ、SNS関連も調査が行われた。確かにブームである死体写真は桃香と関連のあるネットユーザー達の間でも評判になっており、何人かが実際に死体写真をアップさせていた。
 しかし、それを目にしたであろう桃香がそれに興味を示し、自身も撮ってみようなどと意思を綴ったコメントや書き込みは発見されなかった。
 スマホの通信記録にも乙骨写真館と繋がる形跡はどこにも無く、接点は把握出来なかった。

 そうこうしている内に、同様の二度目の殺人事件が発生した。
 今度は都内某所にある鉄筋コンクリート製の三階建ての元立体駐車場の片隅。三年前に封鎖され、今は廃墟同然と化している。
 発見したのはそこを管理している不動産業の担当者の若い男性。
 立体駐車場の入口はロープが張られて立入禁止になってはいるものの、隙間が多く、外部からの侵入は誰でもが簡単に出来そうであった。
 現場の状況は、その建物の三階の一番奥の壁際、若い女性が散乱したゴミや廃棄物に塗れて息絶えていた。乱れた着衣、露出された素肌には無数の打撲痕や傷跡が有り、至る所から血が流れ出していた。乱れた髪の隙間から見える瞳はカッと見開き綺麗に化粧されたその相貌は、妖艶とも美しく、駆け付けた警察関係者でさえ、震撼させた。
 そして、前回の事件と同様、そこにも一台の脚立が置かれてあったのだが、やはりそこから指紋は発見されず、足跡等の痕跡は死体発見者の若い男性のものだけだった。
 死因はやはり青酸カリによる毒殺、他処で殺害されて、この場に置かれた事は一目瞭然。傷跡や打撲痕は死後に付けられたものと判明し、それはやはり乙骨写真館が撮影した死体写真に酷似していた。

 そこで再び、小泥木警部達は乙骨写真館の元を訪ねた。
 警察が撮影した写真を見ると、乙骨は一言、
「ダメだ」と呟いた。
「と言いますと?」
 小泥木警部は直ぐに反応した。
「いや……、別に……、特に意味はありませんが」
「そうですか、で、これに心当たりは?」
「また私の写真の模倣ですね」
 乙骨は少し怒りの籠った口調でそう述べた。
 それからのやり取りは、ほぼ一度目と同じようなものであった。一人で写真館を経営している乙骨にアリバイはない。かと言って、証拠となるような物も何も無い。

 今回も被害者の素性を判明するのに二、三日を要したが、聞き込み調査の結果、現役大学生の来宮杏奈きのみやあんな、22歳という事が判明した。こちらもちゃんとした家庭の娘。W大学の4回生だと言う。
 櫻沢桃香の時と同じように交友関係、ネット関連についての調査が行われた。
 結果的には前回と同様、繋がりのあるユーザーが死体写真を自分のページにあげていて、来宮杏奈もそれに"いいね"はしているものの、興味を持ったようなコメント、書き込みの類いは見つからない。

 再び、調査員達が奮って、櫻沢桃香と来宮杏奈の共通点や事件に至るまでの素行調査を念入りに繰り返したが、二人に接点は無く、特に目を引くような行動や出来事も見当たらなかった。

「困ったもんだな」
 小泥木警部は頭を抱えた。
「しかし、どうして脚立だけが残されているのでしょう?」ニコラス刑事が質問した。
「それが分からないんだよ」
 警部は本庁で乙骨写真館の撮影した擬似死体写真と本物の死体写真を見比べながら、溜息を吐いた。
「警部、ここはひとつ、あの人に来て頂いたらどうでしょうか?」
 ニコラス刑事が提案した。
「あの人? あっ、あの人か! そうだな。そうしよう」
 小泥木警部は心の中で、ある人物の名前を思い浮かべた。   
 万画一道寸まんがいちどうすん探偵だ。


 そんな訳で、探偵・万画一道寸が小泥木警部を訪ねて本庁を訪れたのは二度目の殺人事件が起こってから約一週間が経った頃の夕方であった。二つの事件は連続殺人事件として、捜査は連日続けられている。
「やあ、小泥木さん、ご無沙汰してます。あ、それからニコラス刑事さん、前回、藤原公生ふじわらこうせいの失踪自死事件ではお世話になりました」(注:『白猫ホームスと探偵』参照)
「やあ、万画一さん、ご足労願いまして申し訳ありません」小泥木警部は笑顔を見せて万画一を迎えた。ニコラス刑事も映画俳優みたいな顔で微笑み、握手を交わした。
 万画一と言えば、相変わらずの飄々とした出立ちでお釜帽を被りその下はモジャモジャした蓬髪、しょぼしょぼした目をして、いつものセルの袴に足元だけは頑丈な安全靴を履いている。
 ふと小泥木警部が万画一の着物の胸元を見ると、何やら少し膨らんで見える。と、突然それがもぞもぞと動き出し、襟元から白猫がぴょんと顔を出してニャンと一声鳴いた。
「うわっ、これはびっくり! 何ですか? 万画一さん、この猫は?」
「あっはっは、警部さんとは初対面でしたね。これは僕の相棒のホームスですよ」
「何? 相棒ですと! この猫が? いや、それにしても綺麗な毛並みですな。真っ白で見事に揃っておる。あっ、目の色が右と左では違いますな」
 ホームスの右目は青色、左目は黄色……と言うよりは金に近い色をしている。それはとても神秘的だ。
「オッドアイと言うらしいです。白猫には案外多いそうです。幸運をもたらすとも言われてるみたいで」
「あ、それで、連れて歩いてらっしゃるんですか」
「いや、それだけでは無いのですが、まあ、それはおいおいと……、それより、事件のお話をお聞かせ下さい」
「あ、そうそう、それですよ。まあこちらにおいで下さい」
 小泥木警部は別室に万画一を案内して、例の写真を見せ、二つの事件の概略を説明した。ニコラス刑事もそれに立ち会った。

「なるほど〜」
 事件の説明を聞いて万画一は興奮したように頭髪をボリボリと掻き回した。ホームスはその時に引き起こるフケ対策を取っており、すでに懐を抜け出し、部屋の隅で丸まって毛繕いをしていた。
「どう思われますか? 万画一さん」
 小泥木警部は万画一の意見を求めた。
「さあ、今の時点では何ともさっぱりです」
「問題は……」ニコラス刑事が立ち上がってホワイトボードの前に移動した。そこに事件関係者の名前、被害者の身元、現場写真、乙骨写真館の擬似死体写真、現場に残された脚立の写真等が貼られている。
「この事件現場の状況が死体写真の模倣なのか、あるいは、乙骨本人の手になるものか、という点ですね。それと、被害者の二人に共通する物は何も発見されてません。乙骨写真館との繋がりも不明です。ただひとつ言えるのは、被害者のお二人が共に若く見目麗しい女性だと言う事です」
「美人だからと言ってそれだけで殺されてしまっちゃあ、あまりにも不憫ですなぁ」
 小泥木警部は溜息混じりにそう呟いた。
「時に警部さん、この乙骨鱗詩郎という男の身元調査を詳しく教えて頂けませんか?」
「あ、それは、こちらです」
 警部は乱雑に散らばった書類の中から一通の用紙を万画一に手渡した。
「ああ、ありがとうございます。どれどれ……、ふ〜む、写真館は父親の跡を継いでご商売されてるのですね」
「ええ、本人はカメラマンを目指していたらしいのですが、そちらでは芽が出ず、父親が病死した五年前から跡を継いだという事です」
「なるほど、なるほど、元々こちらの生まれなんですな」
「そのようですな。現在四十歳ですが、独身で結婚歴は無いとの事です。写真専門学校を出てからは、ずっとフリーのカメラマン助手みたいな仕事をしてまして、なかなか細かな経歴が分かりにくいのです」
「なるほど、謎な人物の様に見えますね。警部さん、この男にはどなたか動向を見張りさせてますか?」
「あ、いや、まだそこまでは疑わしい部分が無くて、見張りはさせていないのですが、万画一さんはそうした方がよろしいとのお考えですか?」
 小泥木警部はギクリとして目を見張った。
「そうですね。本人には気付かれない様に細心の注意を払って見張りを付けておいた方が無難だとは思いますが……」
「そうですか、それなら早速、誰か一人見張りを付けるよう指示しておきます」
「では、私が伝えて来ます」とニコラス刑事が部屋を出て行った。
「やはり乙骨が怪しいとお考えですか?」
「いや、それはまだ何とも言えないのですが、良ければ警部さん今日はもうこんな時間ですから、明日にでも乙骨写真館に私を案内して貰えませんか?」
「了解しました」
「おや、ホームス、何をしてるんだ?」
 部屋の隅で丸まって昼寝でもしていると思っていたホームスがいつの間にかニコラス刑事が外した席のテーブルに飛び乗って、机上に散らばった書類を見て回っている。
「どれどれ、何か気になる物でも見つかったかい?」万画一が語り掛ける。
 ホームスは特にそれには返事をせず、主に乙骨写真館の死体写真と警察が撮影した死体発見現場の写真を見比べていた。
「ホームズとは名探偵のようなお名前ですな」
 小泥木警部が万画一に話し掛ける。
「いえいえ、ホームズではなく、ホームスです。濁らないスです。元の意味はホームレスからなんです。あっはっは」
「えっ? それはまた意外な! ホームレスからとは思いもしませんでした。あっはっは」
 そんな二人のやり取りを煩わしく思ったのかホームスが、「ニャオ」と抗議した。
 結局、その日は事件関連の書類を預かり万画一は帰路についた。一晩かけてじっくり書類を改め、頭を整理した上で明朝、乙骨写真館へ向かおうとそんなつもりでいた。
 ところが、事件の展開はそんな猶予も与えてくれなかった。翌日の早朝、第三の事件を告げる110番通報が署内を駆け巡ったのである。


後編に続く

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