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物語のようにはいかなくて。/短編小説

 
「その本私もってるから貸すよ」

意訳:もう一度会える理由がほしい。約束がほしい


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theスポーツマンな爽やかな雰囲気をもつ彼は
その見た目とは裏腹に本が好きな男の子。

好きなジャンルはミステリーや伏線のちりばめが多くて、
思考をよく働かせるものが好きなタイプ。

ブラックコーヒーを頼みそうで、甘いココアしか飲まない。
そこにシロップを2つ足して、お供には固めのプリン。

カバンの中は少し汚いくせに、
本のカバーだけは丁寧につけて切り絵のような栞をつかう。



一生関わることのないタイプだと思っていたのに、
たまたま数少ない同期だったから、
関わってみたらギャップだらけのこの人に私は惹かれていた。

話せば話すほど惹かれていき、
彼と話せる時間は気持ちが高揚したし、気が付けば目で追っていた。


でも、趣味も雰囲気も休日の過ごし方も違う私たちの会話は、
「本」だけだった。
それ以外びっくりするくらい話が続かないのだ。

それはもう哀しいくらいに。


思わず乾いてもいない喉を潤すために、
飲み物を飲んだりして間をもたせたりなんかもした。

でも「本」だけは違った。

お互いの世界観や見解を話して、
今のおススメや読みたいものなどどんどん話すことができた。
幸せ以外の言葉が見つからないくらい、
私には大事な時間だ。

この時間をなくさないために私は本を貸すようになったんだ。

彼の好きなジャンルを読むようになり、
いつでも貸せる準備をした。

でも絶対に1冊ずつだけ貸すんだ。


栞をはさむように、
すこしずつ物語をすすめていく。


だって、、、、


だって、そうでもしないともう話せないから。

だから私は本を貸し続ける。
貸さなくていいと言われるその日まで。

どうかそれまでは、叶わないこの恋を続けたい。


そう思いながら、
帰宅する彼の姿を窓際から眺めた。


彼は間もなく結婚するそうだ。
本を読まない明るい女性と。


だからこの物語は間もなくおわる。
やるせない気持ちのまま私は読みかけの本に栞をはさんだ。





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