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松阪の城下町でヨシコを撮って日が暮れて。

「次の号、駅弁特集なんですが来週あたり忙しいですか? 松阪牛の取材なんですけど」
いつもお世話になっている旅雑誌の編集者、Tさんから電話をもらいました。
「松阪ぎゅ…。あ、わたし行けます」
「カメラは清水さんにお願いしたいので日程の調整をしてみてください」
「わかりました」
というわけで今回の取材地は松阪。まるで「ダーツの旅」のような私たちの出張は、たいていこんな感じで始まります。

一緒に旅取材をするようになった数年前、わたしは清水さんにこう言いました。場所はどこかの駅のホームだったと思います。
「わたし、現場に着くまでは脱力してぶすっとしていたいんです。取材が始まったらテンション上げて笑顔でがんばるので」
「わたしもです」と清水さんが言ってくれたので、以来、この組み合わせの時は心おきなく二人でぶすっと移動するようになりました。

今回もそんな感じで松阪駅に到着。
お昼前だったのでまずは腹ごしらえです。食べ物取材の時は空腹だと撮影中につらいから、とにかく食べておきたい。
ぶらぶら歩き始めたら「中華そば」と看板がありました。入ってみると昭和の初めからやっている老舗。人気店のようです。運ばれてきた中華そばは魚介系の和風出汁にたまねぎがたっぷり!?
「これは、はじめての味」
「和歌山ラーメンとかなり違いますね」
横並びに座って麺をすすりつつ感想を述べ合いました。あとから知ったのですが松阪のソウルフードらしいです。

満腹になったら城下町の撮影です。(駅弁特集とはいえ旅雑誌なので旅のエッセンスが必要です)
ここは江戸時代、紀州藩の飛び地で、木綿などを商う伊勢商人の町として栄えたそうです。町には商人たちが暮らした立派なお屋敷や、豪商出身の国学者・本居宣長の屋敷跡などがありました。
「お弁当の撮影は自然光の屋外がいいですね」ということで、取材先のお店に伺う前に撮影場所を探しておくことに。駅から20分ほど歩いたところにある松坂城跡の下見をして「ここにしましょう」と決めました。

途中、おしゃれなカフェで休憩していたら清水さんが言いました。
「今日は松阪牛の撮影だし、と思ってこの服にしたんです」
見ると、白と黒のボーダーのシャツを着ておられます。
「清水さん、それはシマウマ」
「あ、シマウマですか。でも黒毛和牛だから、考えてみたら黒の服でよかったんですよね」
牛に寄せていく意味がわからん、と思いましたが伝えるほどのことでもないので黙りました。

その後、駅前に戻って取材先のお店を訪ね、社長さんに1時間ほどお話を伺いました。撮影にも協力してくれて、あれこれポーズをとってくださって。気さくで朗らかな社長さんで、学ばせてもらうことが多かったです。
お話が終わったら、合計6つのお弁当を持って松坂城跡に移動。プラスチックの買い物カゴ(スーパーにあるやつ)を店で貸り、中にお弁当を入れて運んだのですが、これが意外と重かった。かわりばんこに持ちながら石段を登りつめ、市街地を一望する高台の公園で撮影を始めます。
お弁当ごとに多様なカットが必要だったので、ゴージャスでおいしそうなお弁当のフタを開けたり閉めたり、お箸で肉を持ち上げたり下ろしたり、横に並べたり縦に並べたり……。黒毛和牛や松阪牛のすき焼き、網焼き、赤ワイン醤油煮、しぐれ煮など、撮っても撮っても牛。松阪牛のお弁当には証明書のコピーが付いていて、ヨシコという名の雌牛でした。

次第に日も傾いてきて、終わった頃には清水さんもぐったり。
お弁当をカゴに戻し、再びかわりばんこに持ちながら歩いていた道中のこと。「松阪で牛まみれ」と私がつぶやくと、「それ、原稿のタイトルですか?」と清水さんに聞かれました。
「いや、さすがに原稿じゃ使えませんよ。ささゆりの記事のタイトルを考えてたんです。1本目の旅記事は “熊野古道で芽吹いたささゆり。やがて咲くかも”でしたよね」

「ささゆり、わたし咲くと思うんですよね」
清水さんはそう言うと、急に早足になってわたしを追い越し、交差点でカメラを構えました。駅弁6個入りの買い物カゴを片手に持ったまま、ファインダーを覗き込むフォトグラファー。
その背中と、暮れゆく松阪の町と、仕事終わりに食べたヨシコの味が忘れがたい。

                (写真・清水いつ子 文・北浦雅子)

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ささゆり

ライター北浦雅子 & フォトグラファー清水いつ子。それぞれフリーランスですが、時には二人で旅雑誌の取材に行くことも。誌面には載らない旅の話や風景を紹介しつつ、さらに時空を超えて万葉集の世界まで旅します。https://www.instagram.com/sasayuri0831
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