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臥龍という男

サティは20歳の頃
《書を捨てよ町へ出よう》という
寺山修司の言葉に感化され
街に出たことがある。
ほんの1年位の事。

19歳で付き合いだした
8つ歳上の彼氏とのご縁から
色んな世界や大人の人達との関わりが増え
自分の視野の狭さや未熟さを思い知ったサティは
もっと人とふれあい見聞を広げなきゃと
切実に感じるようになっていた。
あらゆる人とコミュニケーションをとることで
それぞれの人生や思いを傾聴することで
自己を啓発したい。

そんな突き上げるような衝動的な
思いつきの行動だった。

老若男女友達100人出来るかな・・・

連日サティは夜な夜な街を徘徊する
フィールドワークに出た。

当時音楽をしていた事もあり
街で弾き語りをしている
一つ歳下の男の子と仲良くなった。
友達は友達を呼び
数珠繋ぎに仲間や知り合いは増えていった。

その中に一人浮いた存在の
真面目そうな青年がいた。
聞けば超一流の有名大学に通っている大学生らしい。
何をさまよい此処に来ているのか
ダサいポロシャツをジーンズにインしている
黒ぶち眼鏡の青年は
取り巻く不良達にいつもイジられながらも
みんなと仲良くなっていた。
少し挙動不審で引きこもりチック。
話してみると結構変わっていて
エキセントリックで面白い。
彼に興味を持ったサティは
『珈琲とケーキおごってあげるよ』と
24時間営業の喫茶店に彼を誘った。
どこにでも付いて来る
ゴリラみたいなナオキと3人で
店内に入り向かい合わせに座った。

『なんて呼べばいい?』
そう聞くと
『臥龍(がりゅう)と呼んでくれ』
と言う。
臥龍・・・臥せた龍
俺は臥せた龍だと言う。
取材ルポライター気分で
サティは臥龍に質問をいっぱいした。

一番印象に残っているのが
『セックスとは?』
という質問に臥龍は
『セーフティ』
と答えた。
様々な病気や感染症
繁殖の意味も込められているのか
エロじゃなく生命として
セックスをとらえている事に
20歳のサティは正直びっくりした。

きっと女の子と喫茶店でお茶するのも初めてで
多分真性童貞に間違いない歳上の臥龍は
終始挙動不審で落ち着きがなく
本当に本当に変な奴だった。

『臥龍って名前カッコいいね』
そう言うと臥龍は
『今の俺は臥せた龍。
だけどいつか必ず飛翔する』と語り
深夜の喫茶店でおもむろに立ち上がり
取り付かれたような真剣な目で
両手を浮遊させ舞い上がる
龍が飛翔する様を表現してくれた。


深夜の繁華街を彷徨く人間達は
大概モラトリアム。
何かを探して今の現状に
誰も満足していない。

刹那な享楽に溺れる者。
何かから逃げ出し
安住の地を求めさまよう者。

どこか寂しげで
どこか焦燥感にかられ
どこか苛立っている。

都会の街は眠らずに
エネルギッシュにビートを刻む。
だけど街は器で空っぽで
ただそこを人が行き交うだけ。

サティは元々人見知りで
引っ込み思案だから
そんなことは全然知らなかったけど
人はちゃんと向き合い心を開けば
案外みんな優しいものだ。
そしてみんな実は自分の話を
誰かに聴いてもらいたがっている。
今の想いを
自分の人生を
誰かに語りたがっている。
自分を知って欲しい。
自分を分かって欲しい。


色んな問題を抱えている人々
昔々の武勇伝
傷つけられた悲しい出来事
夢に向かって着々と準備する
未来予想図


書を捨てよ町へ出よう活動も
1年が過ぎた頃
サティは本当に老若男女
友達100人出来ていた。
街を歩けば色んな人に
サティちゃんサティちゃんと
声をかけられるようになっていた。

もうこれ位で当初の目的は達成したかな。。
いつしかサティは自分に自信が付き
元の生活に戻り曲作りや詩を書くことを
腰を据えてやっていこうと
そんな気分になっていた。


インプットとアウトプット
人生はうまい具合に出来ている。

吸収する時期
吐き出す時期

臥せている時期
飛翔する時期

人間は絶えず今何をすべきか
自分なりに当て擦り
まるで何かに突き動かされるように
それぞれの今を生きている。

いつやるの?今でしょ?
そうは言っても誰しも人生
手も足も出ない時期はある。


『俺は今は臥せた龍。
だけどいつか飛翔する』


あれから月日は流れたが
臥龍は今頃大空をダイナミックに
翔んでいるのかな。


サティはサティでそれなりに
モラトリアムは卒業したよ。





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最後まで読んでくれてありがとう(*^^*)♪

またサティに会いに来てねー(^з^)~.:*:・'°☆



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