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取るに足らないことを愛する

子どもの体感時間は大人の6倍もの長さらしい。

そう言われてみると確かになと思う。歳をとるにつれ一年があっという間に過ぎていくように感じるけれど、子どもの頃はそうではなかった。特に学校生活。あそこは日々新しいものを学ぶ場所であり、他者との関わりを通じて初めての感情が毎日のように湧き出る場所だった。1日として同じ日はなかった気がする、本当に。

息子はいま1歳3ヶ月である。1歳の彼にとっても日々は刺激に満ちていて、大人よりも長く感じているのだろうか。

息子は普段、気になったものがあると、なかなかの声量で「うー!」と言いながら指をさす。その矛先は大好きな電車や歩いている犬、スーパーで見つけたアンパンマンのお菓子、部屋の照明がついた瞬間…など実に様々だ。

指差しは一度では終わらず、同じ対象物であっても1日に何度も繰り返す。電車の動画を観ている時は、幾度となく「うー!」と指をさし、照明に関してはまるで初めて電球を見つけたかのように天井を指差して私を見る。

大人にとっては取るに足らないように思えることも、彼にとっては見つけるたびに「感動」と「発見」に満ちているのかもしれない。だから気づいた瞬間に私や夫に報告したくなるのかも。はたまた、好奇心が声から音となって出てしまっているのか…?

とにかく小さな指を必死に向ける姿は信じられないくらい可愛いし、愛おしい。「そうだね、電気だね」「電車が来たね」「わんわんだね」そんなふうに相槌を打つと息子は満足そうに指を下ろす。

一方、大人の私は忙しいという言葉にかまけて、ぼんやりとしたフィルター越しに世界を眺めている。

きちんと観察すれば面白い発見や忘れたくない感動はたくさんあるはずなのに、それらは必要な記憶メモリからいつの間にか外され、脳みそというドライブから削除されていく。

このままでは、おそらくまたあっという間に一年が過ぎていくだろう。日々を丁寧に観察することを忘れないとともに、最近うれしかったことや感動したことをつらつらと残しておきたい。他者にとっては取るに足らない、私だけの喜びをまとめておくのだ。

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最近うれしかった & 感動したことメモ

・マンションの5階から綺麗な夕日を息子と見たこと(私の住む階では建物のせいで綺麗に見えないのでわざわざエレベーターで上がった)

・暖房をつけても寒いと言っていたら夫が昔ペルーで買った手編みのセーターを着せてくれて熱いお茶を渡してくれたこと(夫の優しさに乾杯)

・クリスマスに行ったジブリ美術館で、落としたフィルム型のチケットが誰かに拾われ受付に戻ってきたこと。

・アメリカに旅行へ行った両親がたくさんのお土産を買ってきてくれたこと。とくに私が学生時代に好きだった雑誌まで覚えていて買ってきたのには驚いたし感動した。

・息子に「ちょうだい」というとご飯やお菓子を食べさせようとしてくれること。大変尊い。美味しそうに食べるフリをすると喜んでくれるのも嬉しい。

・イラストレーターをしている友人が私たち家族のイラストを描いてくれたこと。早く額縁に入れて部屋に飾りたい。

・息子と出かけると街で見知らぬ誰かとスモールトークが生まれること。息子と2人は孤独を感じる日もあるので人と話せるだけで嬉しい。

・いつも同じものを頼んでしまうスタバで店員さんにおすすめを聞いたら好みを聞いてくれた上でカスタムした一杯を作ってくれたこと(オーダー内容を忘れてしまったので二度と頼めないが…)

・電車やレジの店員さんに対して息子がバイバイすること。たまにタイミングがずれて店員さんには気づいてもらえない。愛おしい小さなバイバイ。

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育児をしていると日々は同じように過ぎていく……。

そう感じる日が幾度となくある。息子にご飯をあげて家事をしたら午前中が過ぎ去り、逃げる尻を追いかけオムツを変え、遊んで抱っこして寝かせたらもう夕方、の繰り返しだ。もちろんお出かけもしているが、大体似たようなルーティーンで過ごしている。

だが、同じ日なんて1日たりともないのだ。当たり前なのに忘れていた。大人になった私は「取るに足らない」ことがそこらじゅうにあるように感じてしまう。しかしそんなところにこそ変化や感動は眠っているのかもしれない。

今日も大きく「うー!」と言いながら息子は指を指す。
そこにどんな感情のスパークが起きたのかは分からない。けれど彼の純粋な感動を、驚きを親という特等席で見せてもらえて嬉しい。

子育ては子だけではなく自分を育てるものだと聞いていたけれど、本当にそのとおりだと思う。私は彼からたくさんのことを教えてもらっている。

取るに足らないことをもっと大切にしよう。
せわしない日々の隙間にそんなことを思うのだ。

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