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子どもの傷つきに気付くには

私が小学校4年とか5年とかの時、父が胃潰瘍で倒れました。当時42歳とか、そのあたり。今でいう所の「責任世代」ってやつです(by救心製薬)。

偶然にも私の目の前で血を吐いて倒れたので、そりゃもうびっくり。
父親が死ぬかもしれないという恐怖よりは、それまで勝手に父親というものを無敵ヒーローのように思い込んでいたから、父親が人間だったのだという現実を目の当たりにした驚きの方が強かった気がします。

そんな父も何か月かの入院治療と療養で完全復活。お酒とたばこも解禁。
普通の生活が戻ったある日、私は父にこんなことを言いました。

「お酒とたばこ、辞めないの?死んじゃうよ」

胃潰瘍の原因を、母は仕事のストレスとタバコとお酒だと言っており、私なりに父のことを気遣っての言葉のつもりでした。

しかしそれを聞いた父は突然顔を赤くして、大きな声で「酒とたばこで死ねるなら本望じゃ!!!」と言い放ったのです。

この言葉を聞いた時の私の衝撃ったらなかった。“衝撃が走る”とはこのことです。
小学生の私は何も言えずに、ただ黙るしか出来きませんでした。泣きたくなるのをこらえて、私はその場を離れました。

でもそれからしばらく経って、ふと怒りがこみ上げてきたんです。
『何を言っておるんだ、あの父親は。娘のことが可愛くないのか。娘のために長生きしようとは思わないのか』

でもそんな気持ちを誰に相談したら良いのかが分からず、私はその気持ちをそっと心の奥にしまい込みました。


私ももうアラサー。結婚して、まだ子どもはいないけれど、一人の大人として、子どもと関わる仕事もしています。
そんな今だから父の当時の気持ちが少し想像つきます。
父はきっと、10歳やそこらの娘に身体の心配をされたことに戸惑ったのでしょう。もしかしたら恥ずかしいという思いもあったかもしれない。正当なことを言われて反射的に苛立ったのかもしれない。
きっと感情に任せて発した言葉があれだったんです。

そして今だからこそ、思うことがあります。
私がもし同じような状況になってしまったとしたら、冷静になった時にちゃんと子どもに弁解しよう。
「あの後、ゆっくり考えてみた。心配してくれたんだよね。ありがとう。あんな風に言って、悲しい思いをさせてしまってごめんね」
そんな風に言える大人になりたい。

大人だって失敗する。でも、大人なりに挽回したい。

残念ながら、父はあの一件で私が傷ついていたなんて知る由もないでしょう。
なぜなら私が、この件を誰にも相談しなかったからです。
母や祖母に相談をしても良かったのかもしれないけれど、当時は出来ませんでした。母は父のことが好きじゃないって思い込んでいたから、こんな話をしたら余計に父のことを嫌いになってしまうって思ったんです。

子どもが何かに傷ついた時、落ち込んだ時、そのことを話してくれるような、そんな環境づくりが大切です。
話すだけでも随分心の整理が出来るし、もしかしたら他に展開があるかもしれないから。「大人の挽回」を見れるかもしれない。

あなたの周りには、あなたを思っている人がこんなにたくさんいるんだよ。
そんなことを感じてもらえたら良いなぁと思いながら、臨床心理士の仕事をしています。

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