かたなきず

野武士の一振りで右腕を切断された

開いた断面から鮮血が噴き出す

彼は下卑た笑みを浮かべてこちらを一瞥し

捨て台詞を吐いて去っていった



これが、負けたくないという一心で臨んだ戦いの幕切れだった


蝉のけたたましい声だけが鳴り響いていた

辺り一面に



残された身体と右腕

地面には武士の誇りの欠片


とにかく安全なところを探す 隠れる

間に合わせの応急処置をする


どうなるかわからないが傷が深いことだけは確かだ



そして、三年の時が流れた



何度も確かめる

やはり満足に動かない 右腕が

もう勝てる相手はいないだろう 歳も取った

鈍い痛みを抱えながらただ眠ることしかできない



もう、おしまいだ


町に出ると若き勇士たちの盛んな剣筋をつい目で追ってしまう

逃げるようにその場を離れる 外れで一人になる


蝉のけたたましい声だけが鳴り響いていた

辺り一面に



最後に願ったこと

それは愛されたいということだった

しかし相手に差し出せるものは何もない


なら残された唯一のもの

傷を愛されたいと願った



馬鹿げてる




気持ち悪い




// "喪失"つながり → さようなら、もう帰らぬ私のすべてよ

頂いたサポートは無駄遣いします。 修学旅行先で買って、以後ほこりをかぶっている木刀くらいのものに使いたい。でもその木刀を3年くらい経ってから夜の公園で素振りしてみたい。そしたらまた詩が生まれそうだ。 ツイッター → https://twitter.com/sdw_konoha