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西風 《詩》

「西風」

僕等は空白を埋める為に話し続けた 

ただ話し続けていた 

お互いの仕事の事や身の上話し

過去にあった色々な事柄


僕はどれだけ孤独で 

どれほどのものを失って来たか  

全てを君に知って欲しかった


其れは逆に 

誰かを傷つけて 大切な何かを

僕自身が奪って来た
経過でもある事を僕はわかっていた


それでも 全てを知って欲しかった

彼女もまた同じだった 

僕は彼女の話しを黙って聞いていた

かつて其処にあったはずのものを

今は思い出せない 

記憶の影が形を変えてゆく


僕は不鮮明な視界の中に居た 


庭の木々の葉が揺れる音が聞こえた

風は西に向けて吹き抜けてゆく


彼女の静かな語りは僕を飲み込んで
別の世界へと連れ去る

時々浮かべる 

何かを上手く言いだしかねる

そんな表情の君を見ていた

僕は沈黙の中に自分の言葉を沈めて

君の話しの続きを待っていた

君の描いた風景画は 

現実とは
異なる世界の形と色をしていた


僕の書き残した散文には

現実とは異なる
世界の物語が綴られていた


西風に霧が揺らいだ 

その小さな変化に気がついたのは

君と僕のふたりだけだった

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