本当の翻訳の話をしよう

書影

他に読んでいる小説があったのだけれど、ちらっと読みだすと最後まで読んでしもうた。

途中の柴田さんの翻訳史の解説は学術的というか難解なところはあったけれど、概ねは「村上柴田翻訳堂」シリーズ(全10冊)のそれぞれのお二方の対談がまとめられている。いや、増補版というだけあって他にも盛りだくさんだ。

僕もこのシリーズから数冊は既に読んでいるけれど、特に読んでみたい!と思ったのは、

・呪われた腕 ハーディ傑作選 トマス・ハーディ著 河野一郎訳
・アリバイ・アイク ラードナー傑作選 リング・ラードナー著 加島祥造訳
・宇宙ヴァンパイアー コリン・ウィルソン著 中村保男訳

知らない外国の作家さんの名前がたくさん出てきて驚いた。あと、村上さんと柴田さんの仲というか、「同志感」がとても伝わってきて感激した。

意外な発見が、「読みとばす」「流し読み」といったことをされていること。もちろん翻訳は究極の精読であるためそれができないわけだけれど。それなりに自由に読んだらええやんな、ということは改めて感じた。しかし読み返してみるといずれも村上さんが読みとばすのは「チャンドラーによる執拗なほどの描写」であった(笑)

特にリング・ラードナーについて語る二人がおもしろくて、例えば文庫版のP.289

柴田 「金婚旅行」だとか「チャンピオン」なんかはけっこう暗い話ですよね。こういう作品を取り上げて、ラードナーはただのコメディアンではなかったんだと評価することも可能なんですが、何よりもまず声でぐいぐい持たせることができたということを評価すべきなのかなと思います。この声の勢いを翻訳するのはけっこう至難の技で、さすが加島祥造さんだと思います。このだべっている感じを再現するのはかなりむずかしい。知的なギャグは、ルビだとか漢字とカタカナの使い分けの処理などで再現できるんですが、綴りや文法のまちがいで笑いをとるような、あまり知性を感じさせない、コミカルな文章を翻訳するのはけっこうむずかしいですから。

とか。

これだけ読むと、どういう翻訳になっているのかはサッパリなわけですが、何より少なくとも柴田さんが声でぐいぐい持たせているのがオーケー、そういうことです。

あと最後の方に「村上文学のリファレンスみたいな感じで読む」というのがあって、例にもれず僕もそうなんだけど、やっぱり僕は村上春樹っていう人がまだまだ気になっているし大好きなので、翻訳されたものも全部よむつもりで引き続き永遠の読書ライフを堪能してまいります。いろいろ寄り道もしながら、ですね。

【著書紹介文】
“翻訳は塩せんべいで、小説はチョコレート。交互に食べて、あとは猫がいれば、いくらでも時間が過ぎちゃう”という「翻訳家」村上春樹が、盟友・柴田元幸とともに語り合った対話全14本。海外文学から多くのものを受けとった二人が、翻訳という仕事の喜びを語りつつ、意外とも思える饒舌さで「作家」村上春樹の創作の秘密が明かされる必読の対話集。7本の対話を追加した「増補決定版」。

(書影と著書紹介文は https://www.shinchosha.co.jp より拝借いたしました)

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