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"歴史" 系 note まとめ

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#歴史総合

新科目「歴史総合」入門(5)参考になるもの

さて、ここからは「近代化」「国際秩序の転換と大衆化」「グローバル化」のそれぞれについて順を追ってみていく前に、参考となる書籍をちょっとだけ紹介しておきたいと思います。 よみやすいもの 個別のテーマや歴史学、歴史教育について、どのような問題意識があるのかをつかむには、これがおすすめ。1冊120ページ程度で、読みやすいです。山川出版社のリブレットは高校生向けのつくりではないので、この清水書院のシリーズのレベル感で間口をひろげたシリーズがあればいいなあと思います。 観やすいも

新科目「歴史総合」入門(6)1つ目のしくみ:近代化

■「近代化」の時代の大前提 では、ここからは各論です。 まずは、1つ目のしくみである「近代化」について見ていきましょう。 これまでの日本史の教科書では、近代という時代のはじまりは「開国」に設定されていました。 ところが、世界史の教科書では、産業革命が近代のはじまりとなっています。 歴史総合では、「近代」という時代がいつ始まったのか明示されているわけではありませんが、産業革命が大きな意味を担っていることはたしかです。 ではどうして産業革命が、そんなに重要なできごとだと言

【目次】 新科目「歴史総合」入門

「歴史総合」の重点は、定型的な知識を教授することよりも、生徒が歴史を使える(歴史する=doing history)力を育てるところにあります。  ひとりだけで授業を受け持つのではなく、チームで担当する現場も多いはずですが、それを新科目でやるのですから、やはり共通前提、目線合わせが肝心になると思います。  得意な人や苦手な人もいる中で、教員の側も協働しながら、問いを喚起する授業をどうやって組み立てていけばよいか、考えながらすすめていきたいと思います。 2023/04/01 公

歴史総合入門(12)3つ目のしくみ:グローバル化 1970年代〜

■1970年代の地殻変動  高度経済成長をむかえた先進国とは反対に、途上国ではなかなか思うように経済成長がはじまりませんでした。  どうしてそうなってしまうのか?  それは途上国から先進国が富を吸い取っているからじゃないか?  そんな問題意識から、途上国が団結して、先進国を中心とする世界のしくみを変えていこうという動きが生まれます。  この動きが盛り上がるきっかけとなったのは、1970年代の石油危機。  石油を産出する産油国が欧米諸国に反旗をひるがえし、先進国の高度成長

歴史総合入門(10)2つ目のしくみ:冷戦の開始

■冷戦の開始  第一次世界大戦とともに現れた「大衆」を戦争に動員するしくみは、世界に第二次世界大戦という破局をもたらしました。  しかし戦争の終結とともに、新たなしくみが出現します。  「大衆」を経済成長のために動員するしくみでした。  これはまったく新しい代物ではなく、前者の体制の多くが引き継がれていたという視点が重要です。  戦争への動員を可能にする総力戦体制では、戦場で傷を追った軍人や、のこされた遺族を救うために、厚生労働省が中心となってさまざまな年金制度が整えら

歴史総合入門(9)2つ目のしくみ:世界恐慌と第二次世界大戦

■世界恐慌と「大きな政府」  このように第一次世界大戦は、国際秩序を大きく転換させましたが、1929年に世界経済の中心地に躍り出ていたアメリカで世界恐慌という史上最悪の不景気が勃発すると、世界各地で不穏な空気が立ち込めます。    中学校でも習うように、植民地などの勢力圏をたくさん持っていた国(持てる国)は、比較的はやく立ち直っていきました。けれども持っていない国(持たざる国)の状況はなかなか苦しい。  「こんなひどい状況になったのは、第一次世界大戦の戦勝国のせいだ」「みん

歴史総合入門(8)2つ目のしくみ : アメリカとソ連と日本の台頭

■アメリカとソ連、そして日本  「イギリスとフランスよ。委任統治領とかいって、やってることは植民地と大差ないじゃないか」「これじゃあ、あいかわらずだよ」とクレームをつけたのが、当時としては新興国であったアメリカ合衆国とソ連です。  2か国は、言ってみれば20世紀の2大役者。  しかし、なんでもかんでも西ヨーロッパに中心の置かれていた当時の世界においては、アメリカもソ連も伝統に挑む ”異端児” 的存在です。  今後の両国は新しい国際秩序の主導権をにぎろうと、20世紀を通して

歴史総合入門(7)2つ目のしくみ : 戦争が変わり、社会や国際秩序が変わる

■国際秩序の転換と大衆化 20世紀の初めからは、2つ目の「しくみ」がうごきだします。 18世紀後半にイギリスではじまり、次第に世界中にひろがっていった「近代化」のしくみも、同時進行で存続しますが、ある3つの変化をきっかけに、2つ目のしくみ(国際秩序の転換と大衆化)が作動する、というイメージです。 ■変化① 総力戦 1つ目の変化は、総力戦という、第一次世界大戦(1914〜1918年)にはじまるまったく新しい戦争の形です。 どのような点が新しかったのでしょうか? そも

新科目「歴史総合」入門(4)グローバル化

■3つ目のしくみ「グローバル化」 いよいよ最後、3つ目のしくみは「グローバル化」があらわれる20世紀半ばの時代をみていきましょう。 前回みたように、戦争が終わると、今度はアメリカとソ連の2つの世界に引き裂かれましたが、2度の世界大戦を通して縮小していた貿易や交流は、以前と比べれば回復に向かいます。 ソ連とアメリカは、それぞれの掲げるイデオロギーのもとで、世界をひとつにまとめようとします。 人々は、生活水準を高める憧れを抱き、どちらかの陣営に参加し、よりよい人生をおくる

新科目「歴史総合」入門(3)新しい国際秩序と大衆化

20世紀初め、1つ目のしくみである「近代化」に、さらに2つ目のしくみ「新しい国際秩序」と「大衆化」が加わります(注)。 この転換のきっかけとなった第一次世界大戦は、先ほどの帝国主義がエスカレートしたことにより起きた総力戦でした。 総力戦とは、国が国内のすべてのヒト、モノ、カネを動員しなければ勝つことのできなくなった、まったく新しい形の戦争のこと。 1つ目のしくみが持っていた「ひとつにまとめようとする力」がアップデートされ、人々が”自発的”に参加しようとする仕掛けが、いろ

新科目「歴史総合」入門(1)

■歴史総合ってどんな科目? 2021年、高校に新しい科目が加わりました。 「歴史総合」です。 日本史と世界史をあわせた科目。 日本史と世界史を同時に学ぶ科目。 世界史的な視野で日本史を学ぶ科目。 よくそんなふうに説明されますよね。 また、そもそも『学習指導要領』では、科目の目標がつぎのように説明されています。 ほかにも、資料を読み解き、比較やつながりなどに注目しながら「概念」を用いて考察、議論をしたり、課題を見つけ解決したりする、といったことが挙げられていますね。

対話とはこうすることなんだーミニ読書感想「世界史の考え方」(小川幸司さん・成田龍一さん編)

今春から高校で始まった新科目「歴史総合」への向き合い方をまとめた「世界史の考え方」(岩波新書)が面白かった。難しいけど面白い。歴史研究、歴史授業の専門家である小川幸司さんと成田龍一さんの編著。お二人が各回ゲストを招き語らう対話形式で、「対話というのはこうやってやるんだ」というのを実践して見せてくれる。読む対話だった。 歴史総合は、近代から現代にかけての世界史と日本史を一体的に学ぶ新科目だ。この二つの歴史を架橋することは、言うは易し行うは難し。本書は、そもそも世界史と日本史を

「ロック」と対比したものは「クラシック」ではないよ

少し前のこちらの記事↓ について、以下のような感想を目にしました。 これについて、残念ながら僕の意図が伝わっていなかったのかな、と思った点を反論してみようと思います。 それは、 あの記事で僕がロックと対比させたのは「クラシック」ではない。 ということです。 僕が対比させたのは、「アンサンブル的な"ポップス"」と「泥臭いルーツミュージック的なギターサウンド」であって。 単純にそれを「クラシック vs ロック」と読まれてしまうと、僕がnoteで書いてきたことが全く伝

音楽の学問における「西洋視点の反省」。正しいはずなのに、どこか感じる違和感の正体。

音楽における最新の"正当な学問的分野" では、19~20世紀に正しいとされてきた「音楽 = 西洋音楽のこと」「正しい音楽 = 西洋音楽理論に則ったもの」という態度を反省する流れにあり、既存の西洋音楽理論で説明できない非西洋の民族音楽に注目したり、既存の音楽理論の正解を否定するような実験が推奨されています。 狭義のクラシック音楽の美学は19世紀ヨーロッパのブルジョワ階級による視点であり、帝国主義の植民地支配に深く関係するものであったことは間違いありません。これまでの史観では民