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"歴史" 系 note まとめ

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#音楽

音楽関連書紹介「世界史リブレット 植物と市民の文化」(川島昭夫著 山川出版社)

※インターネットラジオOTTAVAで11/10(金)にご紹介した本の覚書です。 イギリスのガーデニングが、イギリス音楽のみならずイギリスの芸術全般とどう関係があるのかずっと気になっていた。本書では、世界帝国となったイギリスが、海外からの膨大な植物を集めることによって、その生活文化や美学をどう変容させていったかを伝えてくれる。 本書は冒頭から単刀直入に本質に入ってくる。 「イギリスのガーデニングの特徴は、多種多様の植物の形、色、大きさ、それらを巧みに交えて配しながら、空間に

歴史の扉 No.17 「K-POP」の世界史

コロナ禍1年目、波が一瞬収束したそのタイミングで、たのしい遠足だというのに、生徒たちは「バス車内は静かに」との注意を行儀よく内面化していた。その座席から、つつましくささやく「Dynamite」が聞こえたとき、コロナ禍の鬱々がぱっと晴れるような心持ちがした。2020年、BTSの楽曲「Dynamite」が、アメリカ・ビルボードの総合チャート「ホット100」で初登場1位となった、ちょうどそのころである。いまだに高校生の間でもなかなかの人気であるが、世代の差もあって、それ以前のK-P

読書日記『天皇の音楽史 古代・中世の帝王学』(豊永聡美、吉川弘文館)

古代から室町時代の後花園天皇まで、歴代天皇の音楽との関わりをまとめた本。面白かった! 帝王学の一環として音楽の嗜みが求められていた、前近代の天皇。 琴、琵琶、笙、箏、笛……。 天皇はどんな楽器を主に演奏するのか、時代によって変わっていったそう。 嫡流のみ演奏する楽器、大覚寺統と持明院統ではそれぞれ別の楽器、室町幕府との関わりから足利将軍も演奏していた笙を選択など、当時の家系意識や政治状況が反映されています。 ううむ、単に天皇個人の好みで楽器を選択したのではないんだね。 とこ

ヒップホップ生誕50周年の温故知新~MEGA-G × Genaktion『インディラップ・アーカイヴ』重版記念対談

『インディラップ・アーカイヴ もうひとつのヒップホップ史:1991-2020』の重版出来を記念した特別対談をお届けします。  対談ゲストには、ラップの解読を日課とする著者Genaktionさんをして「リリックに対して並外れたこだわりをもつ」と言わしめるラッパーのMEGA-Gさんをお招きしました。 『Illumatic』でのデビューからもうすぐはや30年が経つも、衰えるどころかその存在感は増すばかりのNasのラップにかける想い、インディラップ・シーン随一のパンチライン・ラッパ

【分野別音楽史】#01-4「クラシック史」 (捉えなおし・後編)

『分野別音楽史』のシリーズです。第一回は一般常識的な『クラシック正史』を追い、その後「捉えなおし編」として 前編(第二回)、中編(第三回) を書いてきました。今回は後編になります。 ◉ロマン派、次段階へ(1848~1870) ◆オペレッタの発生 19世紀半ばのパリではオペラをより庶民的に楽しめるようにした喜劇中心の小さいオペラという意味の「オペレッタ」が確立。ウィーンにも飛び火し、19世紀後半を通じて半世紀にわたりヨーロッパで流行します。オッフェンバック、ヨハン・シュトラ

「ロック」と対比したものは「クラシック」ではないよ

少し前のこちらの記事↓ について、以下のような感想を目にしました。 これについて、残念ながら僕の意図が伝わっていなかったのかな、と思った点を反論してみようと思います。 それは、 あの記事で僕がロックと対比させたのは「クラシック」ではない。 ということです。 僕が対比させたのは、「アンサンブル的な"ポップス"」と「泥臭いルーツミュージック的なギターサウンド」であって。 単純にそれを「クラシック vs ロック」と読まれてしまうと、僕がnoteで書いてきたことが全く伝

音楽の学問における「西洋視点の反省」。正しいはずなのに、どこか感じる違和感の正体。

音楽における最新の"正当な学問的分野" では、19~20世紀に正しいとされてきた「音楽 = 西洋音楽のこと」「正しい音楽 = 西洋音楽理論に則ったもの」という態度を反省する流れにあり、既存の西洋音楽理論で説明できない非西洋の民族音楽に注目したり、既存の音楽理論の正解を否定するような実験が推奨されています。 狭義のクラシック音楽の美学は19世紀ヨーロッパのブルジョワ階級による視点であり、帝国主義の植民地支配に深く関係するものであったことは間違いありません。これまでの史観では民

オーケストラ、給与体系の歴史

 大学を卒業してから、お仕事で「首席奏者」を弾かせていただく機会が徐々に増えてきた。「首席」で弾くと「首席手当」がもらえる。すなわち、他の人よりもギャラが少し高い。確かに管楽器の首席奏者たちはソロが多く、弦楽器の首席奏者はボウイングを決めなければならず、或いは音楽のイニシアティブを取るために曲をより理解しなくてはいけないから、他の奏者よりも準備に時間がかかる。とはいえ、例えば同じ「1番オーボエ」でも、まるで協奏曲のようなソロがある楽曲もあれば、ひとつもソロがない楽曲もある。そ

2022年、第64回グラミー賞のクラシック音楽部門を解説し、歴史的な視点で解きほぐしてみる。

この投稿は、TBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演した際の補足資料です。お時間がある方は、「radikoのタイムフリー(※5月17日まで&放送エリア外は、有料のエリアフリーに契約が必要)」もしくは「ポッドキャスト(著作権の都合で、放送中に流れていた音楽は聴けません)」と合わせてお読みください。 【導入】グラミー賞、受賞回数ランキング(2022年時点)第1位:31回……ゲオルグ・ショルティ(1912〜97) 第2位:28回……クインシー・ジョーンズ(1933〜 )  

「Jazzのあのリズムはどこで生まれたのか?Jazz誕生の起源について」

TBSラジオで毎週金曜日8時30分~午後1時まで放送の「金曜ボイスログ」 シンガーソングライターの臼井ミトンがパーソナリティを務める番組です。 このnote.では番組内の人気コーナー 「臼井ミトンのミュージックログ」の内容を書き起こし。 ちなみにyoutube版では動画も公開しているのでそちらも是非。 本日のテーマは… 「Jazzのあのリズムはどこで生まれたのか?Jazz誕生の起源について」 どの書籍にも文献にものっていないピアニストだけが知る起源について。 ニュー

【音楽史の目次】クラシック史+ポピュラー史の記事一覧

僕のnoteでは、クラシック音楽史とポピュラー音楽史を並行して書いてみる試みをやってきました。こちらのマガジンにもまとめていますが、ここにも記事一覧・目次としてまとめてみましたので、お好きな時代の記事に飛んでみてください。 (序章) (音楽史) また、流れとアーティスト名をギュっとまとめた図解年表も作成し、最新版をPDFとして以下の記事に公開してますので併せて是非ダウンロードしてみてください。

歴史の扉② 吹奏楽の世界史

 ほとんどの学校に設けられている吹奏楽部。その系譜を、世界史にクロスオーバーさせてみよう。 *** オスマン帝国の軍楽隊  吹奏楽の起源は、一般にオスマン帝国の軍楽隊(メフテル)にもとめられる。兵隊とともに移動し、攻撃のタイミングを知らせて味方を鼓舞したり、相手を威嚇したりするために用いられた。  演奏に用いられた楽器は、古来北アフリカから西南アジアにかけて普及していた管楽器や打楽器だ。オスマン帝国の軍楽隊も、それ以前からあった軍楽隊の様式を完成させたものとみたほうがよ

歴史の扉① ストリートダンスの世界史

 現在の高校生は、ダンスが体育の授業のなかに当たり前に組み込まれている世代である。  しかし、ストリート系のダンス(「ヒップホップ」)や「B系」と呼ばれるような文化のルーツが、アメリカ合衆国のアフリカ系アメリカ人たちにあるという事実について知らない高校生のほうが、当然のことながら多いだろう。  次のような話題を用意し、紹介してもよいかもしれない。 ***  1950〜1960年代には、アフリカ系アメリカ人(黒人)が、白人に対して公民権(市民権)を求める運動が盛り上がった。

バズって感じたこと。音楽好きの人々は「音楽史」に何を求める?

昨年末、「クラシック音楽史とポピュラー音楽史を繋げてみた」というツイートを図解年表付きで投稿したところ、ありがたいことに1万RT/4万いいねを超えるバズをいただきました。 その後、図表は何度か改訂いたしまして、現在、下記の記事で最新版PDFを更新・配布しています。 このツイートが広まったおかげで様々なコメントや引用RTも頂き、興味深く拝見いたしました。今回は、そのような様々な反応から感じたことや気づきを綴りつつ、改めて僕がこのような図を作った意図・問題意識と、それが達成で