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世界史のまとめ × SDGs 第9回 平等を求める闘いと交流圏の拡大(前200年~紀元前後)

Q. 人々はどのようにして「平等」な社会を目指したのだろうか?

SDGs 目標10.4 税制、賃金、社会保障政策をはじめとする政策を導入し、平等の拡大を漸進的に達成する。

そもそも「国」って、なんなんでしょうか?

歴史:「国」って言葉、イメージしづらいよね。

 ある範囲にある物や土地をコントロールし、言うことを聞かせることができる人は昔からいた。

 初期のころは土地から得られる物の生産量は限られていたから、メンバー内部の格差はそこまで大きくない。
 初期の人間は、メンバー同士が比較的平等な関係にある群れを形成していたようだ。

 霊長類学者・山極壽一さんは、「アフリカの森でゴリラと暮らして考えた!〜類人猿の視点から人類家族の起源に挑む〜」の中で次のように話している。

「食物の分配共食」は、その共同保育を進める上で大いに貢献した人類特有の能力です。人類は、気前よくみんなで食物を分配して平等に食べるということをしながら、相手の食欲を自分のものにすることで共感能力を発達させていった。サルは一緒に食事をするということをしません。ゴリラやチンパンジーはときどき食物を分配しますが、食物を仲間のもとへ運んで一緒に食べるということはありません。食糧が豊かで安全な場所では、食物を運ぶ必要がないのです。
対面で一緒に食べるという経験を共有する。それによって、人類の祖先はほかの類人猿よりもかなり複雑で大きな社会を運営できるようになったのではないかと考えています。(*太字は筆者)

 その後、農業と牧畜が始まって食料の生産量が飛躍的にアップすると、その経済力を背景に多くの人を従え、生産物を徴収する強力な「支配者」が現れるようになっていく

 集団を構成するメンバー数も増えるので、必ずしも「顔見知り」の人ばかりではなくなり、人々の間の格差が「身分」とか「家柄」、それに「名誉」(めいよ)などといった、抽象的な概念(=言葉)によって表されるようになっていくよ。

 支配「する」側に立った人々は、せっかく手にした支配が長持ちするように、いろんなシステムをつくっていく。

どんなシステムですか?

歴史:まず、ある一定の「設定」に基づいて外部とは区別された空間が必要だ。
 で、支配「する」側に立った人々が、軍事力や「納得」させるなんらかの力を用いて、生産に関わる大多数の人々から、食料や労働力などを奪うことができるようにしていく。

地理:ちなみに現在では国とは、特定の「領域」を持っていて、その領域内ではほかの勢力に「口出し」されることのないパワー(注:主権)を持ち、メンバーである「国民」をコントロールすることができる存在とされている。
 「支配者」がなくなってしまっても、「国」の組織が残るよう、さまざまな制度が編み出されているよ。

特定の「支配者」が死んでしまったら支配が終わってしまうようじゃ、後任の人たちは困りますもんね。

歴史:だから、たとえ今の支配者がいなくなっても、支配のシステムだけは残るようにしていったんだ。
 ただ、国っていうのは「単独の支配者」だけではなくて、いろんな気持ちや事情を持った「複数の人間たち」によって構成されているよね。

 支配者の家来の、そのまた家来だっているわけだ。

 これら「支配者グループ」が、その他大勢の「支配される人たち」をコントロールしようとしているわけだけど、「支配される人たち」だってバカじゃないからね。
 支配されないようにいろんなことを考え、行動しようとするわけだ。一度きりの人生だから。

 そんな中で、いろんな立場の人のことを考えつつ、どうすれば支配者が甘い蜜を吸い続けることができるのか?
 逆にいえば、どうすればそういう支配者が現れないようにすることができるのか? どんな支配が理想的なのか?

 「国」について、今まで多くの人がいろんなことを考え、実験が重ねられてきたのだともいえる。

国が大きくなったからといって、初めからうまくいくとは限らないってことですね。

歴史:そうそう。

たとえば国はどうやってメンバーをまとめようとしたんですか?

歴史:国っていうのは「人工的」な組織だよね。
 自然とは切り離された「都市」を中心に置いていることが多い。

 つまり、そんな人工的な都市の中では、「自然界のパワー」ではなくて「人間界」の中で圧倒的なパワーを持つ存在(=王様)が、とっても「えらい」んだってことをメンバーに伝えることができれば、メンバーも納得だ。

 そのために例えば「国王は「都市の神様」によって選ばれた存在だ」とか「国王は「自然界の神様」の生まれ変わりだ」っていう「設定」(ストーリー)を演出する。
 その権威によって、国王は各地からさまざまな物や人を徴収することに成功したんだ。もちろん、徴収してばかりだと「格好がつかない」(=気前がよくない)から、ある程度は各地で言うことを聞いていた人々にキャッシュバックされる。

でも、そんなことをしていたら、支配エリアやそこにいる人が増えたら、だんだん大変になってきませんか?

歴史:その通り。
 「平等」を求める人々による反乱も起きている。

 例えば地中海のシチリア島という島では、何度も奴隷の反乱が起きた(注:シチリア島の奴隷反乱)。

 また「国による支配」や「お金のしがらみ」から逃れ、「助け合い」のために小さなコミュニティをつくろうとする人々も現れている。
 例えばパレスチナのある宗教的グループは、「お金による交換」ではなく、「財産の共有」に基づく生活が営まれていたことがわかっている(注:クムラン教団)。


Q. 人間は戦争について、どんなふうに考えてきたのだろうか?

16.1 あらゆる場所において、すべての形態の暴力および暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる。

戦争で人が亡くなるのも、つらいですよね。

歴史:ほんとにね。
 群れが大きくなりすぎると、自分の属する家族とか地域を超えた「道徳」や「名誉」が求められるようになって、その狭間で悩んでしまうことも出てくるわけだ。

 たとえば、インドでこの時期までに成立し、現在にいたるまでインドの人々の価値観に絶大な影響を与え続けた聖なる書物『バガヴァッド・ギーター』(『マハーバーラタ』に収められている)にはこんな一節がある。

(大戦争の最中、敵の中に親族がいるのを見て、主人公が親友にこう打ち明ける)
 「戦おうとして立ちならぶこれらの親族を見て、私の四肢は沈み込み、口は干からび、私の身体は震え、総毛だつ。
 弓は手から落ち、皮膚は焼かれるようだ。
 私は立っていることができない。
 私の心はさまようかのようだ。
 私はまた不吉な兆を見る。
 そして友よ、戦いにおいて親族を殺せば、良い結果にはなるまい。
 友よ、私は勝利を望まない。
 王国や幸福をも望まない。
 ……
 ああ、われわれはなんという大罪を犯そうと決意したことか。
 王権の幸せをむさぼり求めて、親族を殺そうと企てるとは。
(上村勝彦、下掲、p.38(一部筆者改変))

戦争に反対する考え(反戦思想)もあったんですね。

歴史:なんだか古い時代の歴史をみていると、人類は戦いばっかりやっていたように思えるかもしれない。
 もちろん「生きるので精一杯」「生活が不安定」っていう事情もあったわけだけど、どの人も「戦争が大好きでたまらなかった」って考えるのはちょっと違うね。

 上の『バガヴァッド・ギーター』の主人公は、”兵士にとって「戦うこと」は自分に与えられた当然の義務なんだっていう価値観” を前に、またそこで悩むんだ。


 そういう悩みを解消する思想として、インドでは「欲をコントロールすることで、小さな悩みにとらわれない思考法」が発達していくことになるよ。「どんな人にも、悩みから解決する力がもとから備わっているんだ」っていう前向きな考え方だ(注:梵我一如(ぼんがいちにょ))。


 

Q.遠距離を結ぶネットワークはどのように発展していったのだろうか?

SDGs目標9.1 質が高く信頼できる持続可能かつレジリエントな地域・越境インフラなどのインフラを開発し、すべての人々の安価なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援する。

陸海のネットワークが、地域と地域を結びつけていく

歴史:この時期にはあちこちに大きな国ができるけど、この時代の支配者は国を豊かにするにはできるだけ広い土地をゲットすることだと考えていた。

 「価値ある物」を各地から集めることが重要視されていたんだ。

 そうでなければ「ごほうび」を部下たちにあげることもできないし、みずからの権威を示すこともできないしね。

 だから、うまみのある土地は周辺の国どうしの取り合いになった。

どんなところが「うまみのある土地」なんですか?

歴史:たとえばユーラシア大陸の内陸にある砂漠地帯だね。

え、砂漠のどこが良いんでしょうか…

歴史:たしかに砂漠で生活するのは大変だ。
 でもその周りの農業ができるエリアには、大きな国がいくつも生まれていた。
 大きな国は、国を豊かにするために珍しい品物を求めたり、自分の特産物を遠くで売りたかったわけだけど、そのためには砂漠をまたがなければいけなかったんだ。
 ユーラシア大陸の気候の分布が、そういうふうな配置になっているわけ。

 そこで砂漠には各国の商人が集まってオアシスという水場に町ができ、その富や交通をコントロールする支配者も現れるようになった。稼ぎの多いところではオアシスの国に発展した町もあるよ。

 オアシスの国々には東から中国のシルクが西へ流れ、西のローマからはガラスや宝石が東へ流れた。この貿易ルートのことをシルクロードというんだ。

貿易は陸のルートだけですか?

歴史:この時代には海のルートも開拓されるよ。
 ユーラシア大陸の南の方では季節によって風向きが変わるんだけれど、これを航海に応用すれば、船を漕ぐ必要がないことが発見されたんだ。
 この季節風を利用した交易の通り道になったのが、南アジアや東南アジアだ。
 このへんには中国やインドからビジネスマンがひっきりなしに訪れるようになって、その輸出入品をコントロールした支配者が、主要な港町に現れた。港町をいくつも支配して国に発展するケースも出てくるよ(注:港市国家という)。



国っていうのは、ビジネスによっても誕生するものなんですね。

歴史:そう、なんらかの形で経済的なリソースをコントロールするやつが現れると、そこに「支配する/される」関係が生まれてくるわけ。

    そもそも「交易ルートがある」っていっても、それは現在の「道路」みたいな実体のあるものというわけではなくて、人づてになんとかたどっていくことができるようなものだとイメージしておいたほうがいい。

 貿易が盛んになっていくと、オアシスの国には「遊牧民の建てた国」も支配エリアを広げようとして、農耕エリアの国と頻繁に争いが繰り広げられることとなるよ。


 
 特にこの時代には中国が積極的にオアシス地帯の人や物の流れをコントロール下に置こうとして、遊牧民と争っている。

 また、中国南部から南の海に抜ける陸のルートも重要だ。
 その通り道にあった現在のタイの北方(現在の中国の南西部)は、当時大きな国家が栄えていた。この時代には中国の皇帝の支配下に置かれ、その証拠として日本で見つかっている金印と同様のものが、この国家の王に授けられていた。

貿易が盛んだったのはユーラシア大陸だけですか?

歴史:アメリカ大陸でももちろん貿易は行われていたけど、「季節風の利用」ができないこともあって、ユーラシア大陸ほど遠距離の貿易は盛んになっていない。

インド洋では、遠洋航海が可能な「ダウ船」が建造されるようになっていく。

 一方、アフリカ大陸では東部(北を上にして右の方)のエチオピアというところに、貿易で栄えた国があるよ。インドや地中海との貿易ビジネスに成功し、いろんな民族が集まるインターナショナルな国だったんだ。

エチオピアってどこにあるんですか?

地理:ナイル川をさかのぼっていくと、現在のスーダンあたりで2つの支流が合流しているのがわかる。
 そのうちの「青ナイル」と呼ばれるほうをさかのぼっていくと、高原地帯にある源流(注:タナ湖)に達する。そこがエチオピア高原だ。

エジプトはどんな状況ですか?

歴史:ギリシャ人の支配者の国(注:プトレマイオス朝)が空前の繁栄を遂げていたよね。
 この時期には、急成長したローマに支配されることとなり、引き続き繁栄は続いていく。

 最後の女王はローマの政治家にSOSを求めたけど、結局そのライバルの政治家によって倒されてしまったんだ。悲劇の最後はのちに劇や映画のテーマにもなっている。

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