見出し画像

同時に学べる!世界史と地理 Vol.26(最終回)1979年~現在の世界

中心のいくつもある世界へ―世界拡張人間果て

歴史:この時代には、ソ連がすすめてきた社会主義の国づくりが崩壊し、ソ連グループ自体も「解散」を迎える。

じゃあ、アメリカの「一人勝ち」ですか?

歴史:みんな一瞬はそう思ったんだけど、そうはいかなかった。

 たしかにアメリカは世界中に軍事力を持っている。

アメリカ軍の世界展開wikimedia青色・水色は兵隊のいるところ。オレンジは基地を利用しているところ。

イギリス軍のいるところに、米軍あり。イギリス軍の世界展開(青は駐留しているところ、赤は軍を展開しているところ)。

なんだか軍の展開しているところ、島が多くないですか?

地理:あからさまに「植民地」ってくくりで支配することはできなくなっているけど、まだまだアメリカ合衆国と西ヨーロッパ諸国の手放していない地域は、小さな島を中心に世界中に散らばっているんだよ。「海外領土」と言われることが多いね。

それぞれの場所に、それぞれの場所の「世界の歴史」との関わりがあるwikimediaより)


「植民地だらけの世界」の名残ですね。

歴史:ソ連型の社会主義が失敗して、地球上「どこでもビジネス」ができる時代がやってきたことから、経済的に力を付ける国はアメリカのみならず世界中に現れことになるんだ。


インターネットの登場で、取引も速くなりそうですね。

歴史:国の垣根(かきね)を超えるお金の取引も、カンタンにリアルタイムでできるようになるよね(注:電子取引)。

 陸、海、空と活動範囲を広げて行った人類は、ついに「目には見えない空間」(注:サイバー空間)にまで活躍の場を広げていったわけだ。テクノロジーは、ますます人間の「日常」へとなじんでいくだろう。
 また、「人間の代わりに、人間のように考え、人間のように動いてくれる機械」の開発も猛スピードで進んでいく。

 「人間の体の設計図」(注:DNA)に関する研究もすすんでいる。
 体のパーツの取り替えや設計図のデザインもできるようになるかもしれない。そうすると、何も手を加えられていない「人間以上の存在」が生まれないとも限らない。

 世界全体で生活水準が上がり、発展途上国でも高齢化が進んでいる(注:グローバル・エイジング)ことから、「寿命」や「障害」という壁を今後どう乗り越えていくか、クローズアップされている。

今まで考えられなかったようなことが、次々に実現可能になるかもしれないんですね。
国と国とのやりとりが活発になると、国ごとにルールが違うと面倒ではないでしょうか。

歴史:たしかに世界をまたにかけてお金もうけをするには、国ごとにルールが違うとやりにくいよね。
 でも、国別に決まっているルールをいきなり変えるのはさすがに難しい。また、ある国だけに都合のいいルールを他国に押し付けるのも「不公平」だ。

 だから、まずは地域ごとにグループをつくって「まとまり」をつくろうとする動きも活発になる。
 ヨーロッパ、東アジア、南アジア、西アジアの石油産出国、ユーラシア大陸、太平洋の島々、北アメリカ、南アメリカなどなど。

でも、政治家は今までどおり各国で選ばれるわけですよね?

歴史:国を超えた連邦国家のようなものが出来ない限りはそうだね。
 だから、政治家は自分の国に住んでいる人のことを考えて動かないと、自分に投票してもらえなくなってしまうよね。
 でも自分の国に住んでいる人っていっても、国をまたいで活動しているような人も一部存在する。彼らはその資金力から、政治家に対する影響力も大きい。

 だから政治家は、国民向けには「人気取り」の政策をアピールし、政治家になったらなったで国境を超えてビジネスを展開するお金持ちの喜ぶような政策をとりがちだ。

人気をとるためにどんな政策を打ち出すんでしょうか?

歴史:国民をまとめるためには「共通の敵」を設定するのが一番カンタンだ。
 ターゲットになりやすいのは、外国人だね。

 この時代になると競争が世界規模になる。
 より安い製品をつくるには給料を安くするしかない。
 だから先進国は、給料が安くても働いてくれる外国から来た人たちを雇いたがる。

交通手段の発達によって人の移動がますます手軽になっていますよね。

地理:そうだね。
 大きな目で見てみると、アジアでは地域の中で「出稼ぎ」「留学」などの一時的な移住をする場合が多く、「移民」の受け入れは活発ではない。

2010~2015年の人の流れを可視化したもの。


 一方、移民の受け入れが盛んなのは、西ヨーロッパ(東ヨーロッパや北アフリカから)やアメリカ合衆国(ヨーロッパやアジア、中南米から)、オーストラリア(ヨーロッパや東南アジアから)だ。
 
 でも、そうなるといろんな文化を持つ人が増え、不安に感じる人も増える。
 政治家はその心理を「票集め」に利用しがちだ。

つまり、外からの「移民」をシャットアウトしようっていうことになりそうですね。

歴史:そういう流れになりがちだ。
 でも、国内の労働力では追いつかないわけだから、移民の力を頼らざるを得ない。
 経営者としては移民を入れてほしいということになる。
 仕事や安全を求めて他国に移住したいという人もいるしね。



なんだか、「国」っていう基本単位では考えられなくなってしまってますよね、政治も。

歴史:まさにジレンマだ。



 誰もが片手でインターネットができる時代が訪れると、政治家は自分に都合のいい情報を届けようと必死になる。
 流れる情報の量が多すぎて、われわれも「一体何が正しいか」判断できなくなってしまいがちだ(注:もう一つの事実)。

なんだかどんどん複雑になってきていますね。

歴史:世界規模のお金の自由な移動が「解禁」されたわけだから、今まで社会主義をとっていた国の中にも、表面上は社会主義の「看板」を付けたまま、お金もうけを許可する国も増えていく。

 その代表格は中国だ(注:改革開放政策)。

 お金持ちは、さらにお金持ちに。
 貧しい人は、さらに貧しい人に。
 この流れがどんどん進んでいると指摘する研究者もいるよ。

今まで貧しかった国々には変化はありませんか?

歴史:アフリカやアジア、南アメリカといった地域のことだよね。
 こうした地域の国々は、せっかく植民地から独立したのだけど、国の運営がうまくいかない国が多い。

どうしてですか?

歴史:植民地時代の「親分」であるヨーロッパの国々や、ソ連とかアメリカ合衆国との関係から抜けきれていないんだ。

 「お金がないなら貸してやる。だから資源をよこせ」

 先進国は植民地を失ってからも、植民地支配の「延長戦」を続けようとしてくる。
 これではいつまでたっても自立できやしない。

なんだかひとつの国だけでは解決できなさそうな問題ですね。

地理:だよね。
 平和じゃない地域は、アフリカのサハラ砂漠よりも南の国々(注:サブサハラ)、中東などが多い。
 こうした国からは、政治的な事情で国内に安全にとどまることができなくなった人たちが「難民」として国を脱出しようとするケースが急増。
 でも、国外に出られず「国内避難民」として国内にとどまらざるを得ない人たちも紛争地帯には多い。

図1 日本の外務省による海外危険情報。そのほとんどが、かつて西ヨーロッパやアメリカの植民地であったところと一致する。

図2 低所得国のほとんどが、かつて西ヨーロッパやアメリカの植民地であったところと一致する。

図3 中国の主導する一帯一路構想には、かつて西ヨーロッパやアメリカの植民地であった国々や、旧ソ連グループの多くが参加する産経ニュースより)。中国の主導する大規模な銀行プロジェクトには、ヨーロッパ諸国も強力している(図4)。

図4 AIIB(アジアインフラ投資銀行)の関係国(wikimediaより)


* * *


 ヨーロッパやアメリカはこうした増え続ける「難民」の一部を受け入れてきたけど、「難民を受け入れると、国内が混乱するじゃないか」という不安から、最近ではシャットアウトする動きも活発になっている。

図6 難民発生国(2007年,wikimedia)。現在はこれにシリアやミャンマーの難民が加わる。アフリカは、難民の発生国であるとともに、受入国でもある(図7)。

図7 難民の登録数の多い国(2015年)。ヨーロッパ諸国やアメリカ合衆国が移民を本格的にシャットアウトした場合、アフリカや西アジアで発生した難民の向かう先は?


どうすればいいんでしょうか?

歴史:国際連合が動けばよさそうだけど、国連も所詮は「国の集まり」。完全に「国の損得」を離れたところからの活動はできない。

 そもそも国連の予算は大国が出しているからね(注:国連分担金。アメリカ、中国、日本、ドイツ、フランス、イギリス、ブラジルなどが中心)。
 「国や国連にできないのならば」ということで、国の「損得」を超えて動くことのできる組織(注:NGO)の大切さが、認識されはじめているよ。

環境問題も「ひとつの国だけで解決できない問題」ですよね。

地理:地球上に降り注ぐ紫外線から「生き物」を守る働きをするオゾン層の破壊。
 工場や車の内燃機関から排出される煙に含まれる有害物質が、雨となって降り注ぐ被害(注:酸性雨)。
 地球を温める効果のある物質を排出することにより、地球の気候が変わってしまう問題(注:地球温暖化)。

 それに人口の爆発的な増加(注:人口爆発)も心配事のひとつだね。現在は毎年なんと7000万~8000万人ずつ増えている状況だ。

いったいどれぐらいまで増えるんでしょうか?

地理:30年以内に 90億人を突破するという予測もある。

 人類も「生き物」だから、「生き物」としてやっていけるだけの「環境条件」が損なわれてしまえば、今までのように活動するのは不可能になってしまうだろう。
 人間の住むところができる場所(注:エクメーネ)には限りがある(下図の赤がエクメーネ(wikimedia))。

 技術の進歩によって、住むことができなかった場所(注:アネクメーネ)に住む必要が出てくるかもしれないし、地球外への植民の計画もマジメに考えている人もいる

地球の限界ってどれくらいなんですか?

地理:地球が養うことのできる人間の個体数(注:人口)は、約60億~160億といわれている。
 「機械・農薬肥料バイオテクノロジー」により食料の生産技術が進歩したことにより、土地あたりで養うことのできる人間の個体数(注:人口支持力)は上がっている。

だから、今のところはなんとかなっているということですか?

地理:いや。問題は、それだけ十分な量の食べ物が生産できているはずなのに、その分配が不平等だってことだ。

 よく食料不足とか飢えがアフリカで起きているって聞くと思うけど、実際には地球上にじゅうぶんな食料はあるはずなんだ。

どこにあるんですか?

地理:日本人の台所のゴミ箱の中にあるかもね。

________________________________________

●1979年~現在のアメリカ

歴史:アメリカ合衆国はライバルだったソ連を崩壊させると、まるで「世界の警察官」のような状況となった。それとともに、「アメリカ」の技術は「アメリカ」的な考えとともに広められ、「アメリカ的なビジネスの方式」も広まっていった。


地理:アメリカでは「生き物を思うように作り替える技術」(注:バイオテクノロジー)により作物の遺伝子を組み替えて、害虫や病気に強い品種も開発されるようになっている(注:遺伝子組換作物(GMO))。

 とくにアメリカのトウモロコシは「ウシのエサ」として世界中に輸出されているし、燃料(注:バイオエタノール)としても注目されている。
 最近では有機栽培も注目されているけどね。 

 ウシもまるで工場のようなところで太らせて(注:フィードロット)機械的に「お肉」に河口され、世界中に輸出されている。降水量の少ないところで地下水を利用してウシを育てたり、小麦を育てたりする(注:企業的穀物農業、企業的放牧業)のが盛んで、「世界の穀物倉庫」とも呼ばれているよ。
 育てた穀物やお肉を加工して製品にするところまでを支配する大きな会社は「穀物メジャー」ともいわれ、世界の穀物ビジネスのトップに君臨している。こういうビジネスを「アグリビジネス」(注:農業ビジネス)という。

なんだか、まさに人間が自然界の「トップ」に立っているって言っても過言ではない状況ですね。


インターネットの技術もアメリカが開発していますね。

地理:マイクロソフトやアップル、Yahoo!やGoogle、Facebook やTwitter。全部アメリカの会社だね。西海岸のシリコンバレーといわれる地区やアメリカの南部一帯(注:サンベルト)では、最先端の技術を扱う会社が立ち並ぶようになる。
 IT技術でのし上がった会社は、ほかの業種にもチャレンジするようになる。

 たとえば、商品の販売だ。

 もともとこの時代にはすでに、24時間営業のコンビニエンスストアや、郊外のショッピングセンターが、チェーン店方式(注:1つの会社が、一度に複数の店を経営するビジネス方式)を展開することで急激に拡大し、買い物客の情報を大量に集めていた。
 

 でも、インターネット技術を使えば、お店を構える必要はない。
 事務所や倉庫を郊外にかまえて、「お店のないお店」を展開するようになったところもあるよ。

卸売(おろしうり)業者をお店(注:小売店)を通さずに直接商品を仕入れたり、陸・の自前の輸送手段を確保したりすることで、従来「商品の販売」を牛耳っていた卸売・小売業界や、「の交通」「の交通」を牛耳っていた物流業界をおびやかすようになっている。

歴史:でも、こうしたアメリカ合衆国の会社を中心とした「強引」なやりかたに対しては、ローカルの側からの反発も生まれるよ。

 特に、「ソ連グループ」(注:ソ連)が解散した後で自由なビジネスが許可されたロシアや、自由なビジネスを事実上許可していった中国(注:改革・開放政策)が、アメリカ合衆国との間に熾烈(しれつ)な争いを繰り広げるようになる。

 特に中国は国が強力にバックアップする形で、自前のインターネット技術を次々に発展させ巨大企業を成長させている。
 これだけ情報通信技術(ICT)が広まっていくと、国や地域、人によって情報格差が生まれることも心配されているよ。


ロシアや中国、それにアメリカは、また世界中に「植民地」を探し求めるようになっちゃうんでしょうか?

歴史:いや、それはさすがにもう無理だよね。

 あからさまにやったら白い目で見られる。

 だから、いろんな口実や理由を見つけては、「勢力範囲」を広げるために国外に軍隊を派遣していくんだ。
 でも、あんまり「あからさま」にやってしまうと批判されるから、うま~くやるわけだけど。
 例えば、「問題があるのは、その土地の人たちだ」「アメリカ合衆国は、混乱が自分の国に飛び火しないように、混乱を解決してあげるためにやっているんだ」というようにね。

「問題」のある人たちってイメージをつくっていくわけですね。

歴史:そうそう。
 例えば、「○○人は極悪非道の怖い奴ら」とか、「○○教徒はコミュニケーション不能なとんでもないテロリスト」っていうイメージだ。

 本当は「宗教」の争いではなく、お金や損得がからんでいることが多いのだけれど、問題が「宗教」や「文明」の違いにすり替えられていくことも少なくない(注:文明の衝突論)。でも、そのへんを読み取ることは、とっても難しくなっていっている。

 アメリカではほかに黒人などへの人種差別の問題も引き続き深刻だ。大規模なハリケーンがアメリカ南部を襲ったときにも、被害者の多くが対応の遅れた黒人だった。

中央アメリカや南アメリカはどんな状況ですか?

歴史:資源が豊富なこのエリアでは、アメリカ合衆国の影響力は継続中だ。
 お金を借りすぎて、経済が大混乱に陥った国もあるよ。

 まあ、アメリカ合衆国にとってはこのエリアに、国民の強い支持を受けた強力なリーダーが現れるよりは、バラバラの状態のほうが得だと考えているふしもある。

「反動」も起きそうですね。

歴史:そうだね。アメリカ合衆国に対して「NO!」とタテ付くリーダーも現れている。

地理:近年では鉄の原料 (注:鉄鉱石、大地の年齢が古いところ(注:安定陸塊)にクオリティの高いものが多く分布する(茶色>濃赤>薄赤の順に多い,下図(wikimediaより))) をはじめとする資源の豊富なブラジルが急成長している。

要するに、古くからある大地(=安定陸塊)の広さの大きい国にたくさん分布する。

 ブラジルでは石油があまりとれなかったんだけど、沿岸部の海底油田の開発もすすんで、今では100%自給を達成している。
 アマゾン川の流域の北のほうではマンガンや、アルミニウムの原料になるボーキサイトもとれる。
 アマゾン川をつっきることのできる自動車専用道路(注:アマゾン横断道路)も建設された。


そういうことが積み重なって、ブラジルは新興国(BRICs)の一員へとのしあがっていったわけですね。

地理:そうそう。
 鉄鋼を材料にいろんなものをつくる工業も盛んだ。
 日本の会社もそこに目を付け、ブラジルの製鉄会社とタッグ(注:合弁)を組んでいる。

電力はどうやってまかなっているんですか?

地理:ブラジルには大きな川がたくさん流れているでしょ。
 熱帯雨林気候のところがあるからね。
 だから水力発電が全体の7割だ。
 おとなりパラグアイとの国境には、世界最大規模の水力発電所(注:イタイプーダム)もあるよ。

歴史:だけど、国民の経済格差は大きく、真っ向からアメリカと勝負しても勝てないことから「闇ビジネス」も広がりやすい。
 職を得るためにアメリカに向かう人も多いけど、アメリカではそれに反発する意見もある。

でも、資源は豊富なのに。

地理:ペルーの銅、鉛、亜鉛、。ボリビアのすず、石油、天然ガス。チリののように、南アメリカはたしかに資源が豊富だ。

どうしてそんなに豊富なんですか?

地理:大地が今でも激しく動いているところ(注:新期造山帯)では、グニャグニャになった地面の、地面側に突き出した部分に、海の生物の死骸に由来する石油・天然ガスが溜まりやすい。

 だから石油がたくさん出てくる。
 南アメリカの西側の山エリア(注:アンデス山脈)がそれに当たる。

 ほかの部分は、大昔に地面の活動が活発だったところで、長い年月をかけて削られて平らになったエリアだ。
 こういうところでは、金・銀・銅・すず・亜鉛といった鉄以外の金属(注:非鉄金属)がたくさんみつかる。

資源の話ばかりになってしまいますけど、ブラジルで鉄がたくさん見つかるのはなぜですか?

地理:ブラジルの地面が大昔(注:先カンブリア時代)、まだ海底だったころ、そのころの海水にはたくさんの鉄分がとけていたんだ。


 で、そのころの海中には「酸素」を出すバクテリアが大量発生するようになっていて、その酸素と鉄分が結びつくことで酸化鉄ができた(注:そのころの地層を縞状鉄鉱層という)。

 それで海底に鉄が降り積もり、それが今のブラジルの陸地になっているというわけだ。

* * *

 でも、そういう鉱産資源に頼りすぎるものアンバランスだし、先進国からの借金が増えまくって困る国も出ているよ。

歴史:ベネズエラのように石油産業が盛んな国もあるけど、コロンビアやエクアドルのように石油が産出される国が必ずしも豊かになるとは限らない。

 アメリカのすぐ南のメキシコは、銀や石油を産出して工業化に向かっているけど、「メキシコはアメリカの経済に頼りすぎ」というところが不安要因だ。

________________________________________

●1979年~現在のオセアニア

歴史:この時代になって、オセアニアはようやく「独立」への道を歩み始めるよ。

かなり時間がかかりましたね。

歴史:オセアニアの「海」は、アメリカとアジアの間にある重要なポイントととらえていたようだ。
 でもヨーロッパ諸国の側にも支配する余裕はなくなっていったし、何より「まだ植民地なんて持ってるのか!?」っていう批判も強まっていた。

でも「独立」っていったって、小さな島が多いから大変ですよね。

歴史:その通り。
 広い範囲にちらばっているから、どこかひとつの島に機能が集中しやすい。
 定期便も整備されていないような状況で国民をまとめるのも難しい。

時差なんて大変じゃないですか?

地理キリバスっていうところはイギリスから独立したんだけど、きわめて広い範囲に散らばっていたので大変。


 日付変更線という、「世界標準時間」(注:グリニッジ標準時(GMT)。のちにより精度の高い協定世界時(UTC)が決められている)を決めるためにもうけられた便宜的な線が領域を二分していたので、「同じ国なのに日付が違う」っていう大変めんどうな事態が起きていた。

えっ、今もですか?

地理:さすがに面倒だということで、日付変更線を東のほうに移動させたから今は日付は変わらない。

 日付変更線のを東にまたぐと一日前に戻るっていうルールになっているので、このときに移動させたキリバスの日付変更線のある地点が、「地球上でもっとも早く日付が変わるところ」ってことになった。
 

ヨーロッパ諸国の都合で国の単位が決められたことでいろんな不都合が生じているんですね。

歴史:いまに宇宙との時差が問題になる時代も来るかもね。
 話を戻そう。
 サンゴ礁でできた小さな島はそのままでは農業もろくにできないし大変だ。気候の激変による影響も受けつつある。
 「みんなで問題を解決しよう」「世界に発信しよう」ということから、島国が集まってサミットを開催するようにもなっているよ。

地理:最近では、環境の悪化によって「ふるさと」を離れざるをえなくなった人たちを「環境難民」として保護するべきだという考えも出されている。
 また国際的に認められているわけではないけど、例えば、南太平洋のツバルというところでは、すでに教育や仕事を求めてフィジーやニュージーランドなど、近隣の国への移住をしている人も少なくない。

オーストラリアはどんな感じですか?

歴史:オーストラリアはこの時期、政策を大きく転換する。
 今までは先住民のアボリジニーの人たちの文化を壊し、「白人中心のオーストラリア」をつくろうと必死だったよね。
 でも、「それは間違いだった」と認めたんだ。

 この時代、オーストラリアに限らず、先住民族の文化をつぶそうとして「ごめんなさい」という風潮は、世界中に広がっていくよ。

________________________________________

●1979年~現在の中央ユーラシア

歴史:この時代にソ連が解散したことから、中央アジアの国々はある程度「自由」になる。
 しかし、ソ連の主導権を握っていたロシア人は、それでも中央アジアに眠る資源を手放すまいと、元・ソ連の「同窓会」的グループ(注:CIS)を結成しキープしようとしている。
 最近では中央アジアに中国も目を付けているよ(注:上海条約機構)。

遊牧民たちの暮らしはまだ続いていますか?

地理:遊牧民の人口は年々減少傾向にあって、都会に働きに出たり、定住生活をする人も増えている。
 最近では意識的に自分たちの文化を守ろうという人たちも増えているけど、国の政策によって遊牧をやめざるをえなくなっているケースもあるよ。

________________________________________

●1979年~現在のアジア

○1979年~現在の東アジア

中国の経済成長がすごいスピードで進んでいますね。これっていつからなんですか?

歴史:中国が変わったのは、国内のゴタゴタ(注:プロレタリア文化大革命)がおさまってから後の時代以降のことだよ。

 憲法には「中国は社会主義の国である」って書いてあるんだけど、その「目的達成」のために、現実的な政策をとるようになった。
 つまり、「個人的にお金もうけをすること」を部分的に認めたんだ。
 次第にユーラシア大陸全域を「ビジネスの場」に加えようという動きも活発化している(下図 (上)現代の一帯一路構想、(中)唐の時代のシルクロード、(下)明の時代のインド洋遠征(南海大遠征))。


日本はどうなっていますか?

歴史:東アジアの中でもトップをひた走っていた日本も、従来の政策を転換していく。
 今までは、競争の行き過ぎで会社がつぶれないように、失敗した国民が貧しくならないように、国が国民のためにたくさん「おせっかい」をしていた(注:護送船団方式)。
 日本人みんなが、だいたい平等な暮らしができるように、たくさんのお金が注ぎ込まれていたんだ。

地理:でも、それにも限界が来る。
 きっかけは石油危機によって、「ハイスピードな経済成長」が終わりを告げたことだ。石油依存から脱却するために、産業の省エネ化が図られた。

同じような状況にアメリカも直面していますよね?

歴史:そうだね。
 こんな状況じゃ、国内でのビジネスはうまくいかない。
 会社のビジネスがうまくいかなければ税金も集まらないから、国は国民のためにあれこれ「おせっかい」する余力もなくなるね。
 また、もはや同じ国民相手にビジネスするのではなく、国境を超えて「お金を出してくれる人」なら誰とでもビジネスしたほうが利益も上がる。

 そこで先進国を中心とする各国の政府はいろんな規制をなくして、国境を超えて自由にビジネスできる環境を整えていったんだ。


「規制をなくす」っていうのは良いことじゃないんですか?

歴史:自由にビジネスができるようになるわけだから、効果も見込める。
 でも、従来は「規制」によって外国との競争から守られていたことが、その撤廃によって、急に熾烈な競争にさらされる恐れもある。
 一方、国としては、あれこれ手助けする必要もないし、「競争したほうが、みんなが生き残りをかけて頑張るから、社会の活力はアップする」っていう考えがあった。


競争が激しくなれば、日本国内のビジネスの環境も変わらざるをえませんね。

歴史:そうだね。だから日本でも外国がらみの会社がどんどん増えていくし、「生き残り」をかけて会社どうしの合併も加速していった。

地理:アメリカの会社の経営する巨大ショッピングモールも次々に郊外の「道路沿い」に進出し、伝統的な「駅前」の商店街・百貨店といった小売店が廃れる原因となっていった。店舗面積の制限も撤廃され、超巨大ショッピングモールも出現している。

 国境を超えた「安売り競争」もエスカレートし、できる限り値段を安くするために、給料が安くても働いてくれる人を探し求めて、日本の会社が工場を海外に移すようにもなっていく(注:産業の空洞化)。
 国際会議(注:プラザ合意)で、アメリカが自国の商品を安くするために円との交換比率を安く設定させたため、逆に日本の製品がアメリカ側で割高になってしまったことも大きかった(注:円高ドル安)。
 その移転先となったのは、韓国、台湾、香港、シンガポールなどに始まり、東南アジアや南アジアの国々にも広がっている。

 その後の日本は大不況に見舞われ、次第に正社員ではない日本人の数が増やされていった。また、日本では出入国管理法という法律が改正によって、徐々に外国人の労働者の導入へと踏み切っている。


韓国はどうなっていますか?

歴史:北朝鮮と韓国とのにらみ合いはずっと続いている。
 でもソ連が消滅してサポートしてくれる国が減ると、北朝鮮は困って、核兵器をつくったりミサイルを飛ばしたりと、「過激な手段」をとることで「生き残り」をはかるようになていく。
 一方、南の韓国では長らく続いていた軍人による政権が終わって、民間人がトップに就任するようになった。
 首都のソウルは中国の香港(最近までイギリス領だった)とならんで、アジアとヨーロッパ、アメリカの路線をつなぐ拠点空港(注:ハブ空港)として「空の交通」の中心地になるところも出てきている。

北アメリカ、ヨーロッパ、アジアに路線が集中している。地域を超えるときには、飛行機をいったんハブ空港に集め、そこから地域外に放出する。



 経済成長が続くけど、途中に深刻な不況(注:韓国通貨危機)を経験する。韓国の企業は同族経営の傾向が日本よりもはるかに強い。外国の会社の進出を強く受ける中、日本や中国との競争にもさらされているよ。



○1979年~現在の東南アジア

東南アジアはまだ貧しいままなんでしょうか?

歴史:この時代には貧しさから抜け出すために、さまざまな「国家プロジェクト」が実行される。
 前の時代から続いていた農業の効率アップ(たくさんとれる品種の開発)も進んでいる(注:緑の革命)。

 社会主義国だったベトナムでは、中国と同じように「自由に競争する経済のしくみ」(注:市場経済)が部分的に導入され、最近では実質的に個人的にお金儲けすることも認められている(注:社会主義市場経済)。

 また、タイやインドネシア、マレーシアやシンガポールでは、「アメリカ寄り」の政策をとって強力なリーダーシップを発揮する国の指導者が、無理やり経済を発展するために外国の会社を誘致するなどの政策をとったよ。


どうして外国の会社を呼ぶんですか?

地理:どうやって製造しているか勉強できるし、雇用の促進にもなる。
 で、外国の会社と一緒に出資して工場をつくって、それを輸出してもうければ、「ゼロから始めるよりよっぽど効率的でしょ。
 進出してくれる先進国の会社にとってもメリットになるように、税金や関税を優遇するエリア(注:輸出加工区)を設けたんだ。
 これを積み重ねていけば、やがては高いクオリティの製品を外国に輸出する工業(注:輸出指向工業)でもうけることもできるようになる。
 今までのように、輸入品を代わりに自分の国でつくる工業(注:輸入代替工業)じゃあ、売り上げにも限りがあるし、世界で勝負できないからね。

自由にビジネスをするための取り決めづくりが着々とすすむ経済産業省資料より)


 でも「経済を急に発展させるには、いろんな人の意見を聞いていては時間がなくなる」というわけで、「自由に意見を言える権利」や「政治に自由に参加できる権利」は二の次になりがちだ。それによる問題も最近は各地で出はじめている。

 ミャンマーのように軍人による独裁政権が倒された国もあるけど、その後のミャンマーでは国内での少数民族問題をめぐって深刻な対立が起きている。もともといろんな民族がいるところで、「ヨーロッパのような国づくり」(領域をガッチリ囲んで、ひとつの国民による国をつくるプラン)をおこなおうとしたことの矛盾ともいえる。


工業化を実現させる国が増えて、アジアの存在感がアップしているのは事実ですよね。

歴史:そうだね。

 とくにシンガポールのように、アジアとヨーロッパ、アメリカの路線をつなぐ拠点空港(注:ハブ空港)として「空の交通」の中心地になるところも出てきている。

この盛り上がりを背景として、アジアの国どうしで「まとまろう」という話も出ているよ(注:東南アジア諸国連合、ASEAN)。
 アメリカやソ連が対立しているときには、アメリカ寄りのグループとソ連寄りのグループで対立もあったけれど、それが終わると今度はアメリカや中国が東南アジアを「ビジネスの拠点」と見て接近するようになる。
 最近では、中国が東南アジアの海へと進出し、莫大な資金を背景にして「中国中心の経済エリア」をユーラシア大陸全体につくろうとする動きもあるくらいだ(注:一帯一路)。


東南アジアでは大きな戦争は起きていませんか?

歴史:カンボジアでは、国の運営方法をめぐって悲惨な内戦(注:カンボジア内戦)が起き、国内が「地雷だらけ」という結果になってしまった。その後は強い権力を持つ政府によって経済復興が続いている。

 また、この時代の初めに中国と戦争(注:中越戦争)したベトナムは、その後も中国が海を通って南に下がってくることに対して対立を続けているよ(注:中国の海洋進出)。昔から続く対立といえるね。


○1979年~現在のアジア  南アジア

インドも急速に発展していますよね。

歴史:世界第一位だった中国を人口で追い抜く勢いだよね。
 “お隣”の中国が、北の山南の海から進出してくることが心配だけど、この時期のインドは「国がなんでもかんでも決める方式の経済」をやめて、「誰でも自由にビジネスができる方式の経済」へとチェンジし、経済力をアップさせていくよ。
 ただでさえ資源が豊富なインドだけど、数学(学校で19×19まで暗記する)と英語(イギリスの植民地だったから)ができないわけではないという国民性から、IT産業で世界中からも注目されているよ。

イギリスの植民地だった国は英語ができる傾向にあるEPIのサイトより)


アメリカの企業でも活躍しているんですよね。

地理:アメリカ西海岸のシリコンバレーでは多くのインド人が働いているし、近年ではインド南部のバンガロールというIT産業の盛んなところでは、時差の違いを利用して、シリコンバレーのエンジニアの勤務時間終了後のタスクを、インドのエンジニアが引き継いでいる。
 英語が話せるから、英語圏のコールセンター業務の引受先としても有力だ。


インドの周りの国はどうですか?

歴史:近くのスリランカでは、インドの介入もあってインド系の住民と仏教徒との内戦(注:スリランカ内戦)がひどくなるけど、最近平和になったばかりで復興に向かっている

 インドの西どなりにある、イスラーム教徒中心のパキスタンという国は、アメリカの支援を受けて発展を目指した。
 だけど、国の中で支配が行き届かないエリアができてしまい、そこを政府のいうことを聞かない人たちが隣のアフガニスタンとまたぐ形で活動拠点にしてしまい、混乱が続いている。


○1979年~現在のアジア  西アジア

地域をまたぎますが、どうしてパキスタンの国内には、言うことを聞かない人たちが出てくるようになってしまったんですか?

歴史:一番の原因は、経済的な「貧しさ」だ。

どうして「貧しい」んですか?

歴史:その理由は、この地域だけを見ていてはわからないよ。
 
 世界全体を見渡してみると、今の世界というのは、少数の「豊かな国」と「貧しい国」の2つに分かれると考えることができる。

 豊かな国は、たいてい安全でもある。
 だから「豊かで安全な国」と呼ぼう。歴史的に早い段階で「工業化」を達成することができた国々だ。

  「貧しい国」というのはその逆で、「工業化」の達成が遅れてしまった国。つまり、植民地として支配を受けた国がほとんどだ。


なるほど。パキスタンもたしかにイギリスの植民地支配を受けた地域でしたね。

歴史:もともと植民地支配をしていた国は、独立した後も元・植民地を「原料の調達地」や「商品の売り場」としてできればキープしておきたいというのが本音だ。「植民地」っていう扱いではなくなったとしても、そういう「上下関係」は依然として残ってしまいがちだ。

 で、「貧しい地域」の中には、警察などのサービスが手薄となって、治安の守れない「貧しくて危険な地域」が生まれやすい。
 こういう地域が、かつて植民地だった地域にたくさん見られるんだ。


でも、なんとか工業化できないもんですかねえ?

歴史:そもそも工業化っていっても、最初の「元手」がなければ着手すらできない。

 その「元手」というのはたいてい農業や鉱業で稼ぐことになるわけだけど、その値段だって先進国の会社が決めるわけだしね。

 先進国にお金を援助してもらって工場をつくるにしても、その借金返済やらなんやらで、完全に自由とはいえないし。

 で、気づいたら外国製品が有利な条件でドバっと入ってきて、「手間ひまかけてつくった地元の製品」が売れなくなるってことも起こるわけ。
 国内の資源も先進国の会社が持ってってしまうし、若者は先進国の「軽いノリ」の文化に染まってしまうし。

 そんな中、この時代にはアメリカやソ連(のちロシア)が自国の勢力を広げるために、「なりふり構わぬ行動」をとる情報も広まっていく。


つまり、それが「反アメリカ」「反ロシア」の感情につながっていくわけですね?

歴史:そういうこと。

 西アジアはイスラーム教徒の人口が多いし、アメリカを追い出そうという動きはイスラーム教徒が唱えることも多かった。

 「西洋化によって壊された「伝統」を元通りにして、みんなが平等な暮らしを取り戻そう」という活動を行うイスラーム教のグループも出てくる。

 そんな中、この時代の初めにはイランでイスラーム教による、アメリカとベッタリな国王(注:パフレヴィー朝)を追い出してイスラーム教の国をつくろうとする運動がエスカレートし、イスラム教の学者を中心に国王を追い出すことに成功した。で、イスラーム教に基づく民主主義の国が建設されることになったんだ(注:イラン革命)。


アメリカはどう反応したんですか?

歴史:イランのライバルだった西隣のイラクを新しいパートナーにするよ。
 でも、そのイラクがのちのちアメリカの言うことを聞かなくなると、今度はアメリカはイラクに攻め入って、自分の言うことの聞く新しい指導者に交替させている。
 そのことがさらにこの地域の「反アメリカ感情」の火に油を注いていくことになるんだ。

 アメリカの指導者は、「世界を混乱させているのは「イスラーム教徒のテロリストだ」」と主張し、「イスラーム教徒の全体」のイメージはどんどん悪くなる一方だ。


この地域の国づくりって、どうしてこんなにうまくいかないんでしょうか?

歴史:ひとつには、ヨーロッパ的な「国づくり」の欠陥ともいえるかもしれない。
 国境をガッチリ区切って、内側にいる住民を「ひとつの国民」としてまとめあげるタイプの国づくりのことだ。
 最近ではトルコとイランとサウジアラビアという歴史的にみればルーツはそんなに古くない国々が、この地域の主導権をめぐって争う構図が続いているけど、強い権力をふりかざさないとに国内をまとめることも難しい状況だ。

 二つ目には、この地域が長い間ヨーロッパによる「資源目当て」の支配を受け続けていることも挙げられる。
 資源があまりないところでは工業化が遅れて「貧しさ」から抜け出せずに困っている国も多いけど、下手に資源を持っていても今度は先進国に目を付けられ「争いの元」にもなりかねない。資源を持っている国では、その利権を握った独裁者がヨーロッパとベッタリくっついて長きにわたって君臨する例も珍しくないよ。
 最近では「独裁者に対抗する動き」(注:シリア内戦)も起きたけど、それが「内戦に発展したシリア」と、「アメリカが首を突っ込んで国がめちゃくちゃになったイラク」をまたぐ地域では、両国の政府が「コントロール不能となるエリア」ができてしまい、そこに暴力的なグループが国(注:イスラーム国)を建設し、「100年前にイギリスやフランスの設定した国境線」を否定する言説をネットにアップして仲間を募集。そこへロシアやアメリカ、周辺のイランやトルコが介入して、シリアの難民がヨーロッパにまで溢れ出し大混乱に陥る状況も続いているよ(注:ヨーロッパ難民危機)。

 三つ目としては、イスラエルという国をめぐる対立や、アメリカで起きたイスラーム教徒によるテロ事件をきっかけとして、「イスラーム教徒 対 キリスト教徒・ユダヤ教徒」とか、「イスラーム文明  ヨーロッパ文明」みたいに、とんでもないスケールの対立へと論点がすり替えられ、それが「ほんとうに存在する対立であるかのように受け取られてしまっている」面もあるね。

なんだか悪循環ですね。「貧しさ」を解決しても、果たして問題は解消されるんでしょうか。

地理:国と国との対立よりも前に、人と人とのつながりに解決の鍵があるのかもしれないね。

________________________________________

●1979年~現在のアフリカ

アフリカには現在も経済的に貧しいところが多いですよね。

歴史:いまだに植民地だった頃の「古傷」を引きずっているんだ。
 医療技術が進歩して寿命が延びたこともあって、人口が爆発的に増える現象も起きている。

地理:食料が不足する状態で日照りが続くと、特にサハラ砂漠よりも南では飢え死にする人が発生したり(注:栄養不足、飢餓)、無理に農地や牧場を広げて(注:過耕作、過放牧)砂漠が広がる問題も起きたりなどしている(注:砂漠化)。

どうして食料がなくなってしまうんですか?

地理:人口の急増に対応に、従来の技術が追いついていないんだ。
 植民地時代に、「カカオだけ」とか「サトウキビだけ」のように偏った品種のみを栽培していたこと(注:モノカルチャー経済)も影響している。カカオもサトウキビも、それだけでは「お腹いっぱい」にならない。単なる「お金もうけ」のための作物(注:商品作物)だ。本当に必要なのは主食のための作物なんだけどね。

 「貧しさ」や「不平等」が引き金になって、独立後にできた国を倒して新しい国を作ろうとする動きも各地で起きるようになっているよ。

なにか手立てはないんですか?

地理:先進国からの援助が解決策のひとつだ。食料の援助を行う国際的な組織もあるよ(注:国連食糧農業機関、国連世界食糧計画)。
 でも、援助されることに慣れてしまうのも悩ましい問題だ。
 自分たちの力で発展できるように技術を教えることも行われている(注:日本の国際協力機構(JICA)、エンパワーメント)。

歴史:いっぽう「アフリカ人のことは、アフリカ人で解決しよう」(注:アフリカ連合)という組織もできている。
 資源を輸出することに頼る経済が続いているため、「民族」とか「宗教」を旗印にかかげた国境をめぐる紛争も後をたたない。
 先進国も資源欲しさに、争っているグループのいずれかに「肩入れ」することも少なくない。

 紛争が起きているところから資源を輸入しないような仕組みをとりいれたり、先進国が農業や工業の技術を教えたりといった取り組みもおこなわれている。
 そういうことを国がやっちゃうと、どうしても「お金」がからんでしまうから、国とは距離を置いた民間のグループや民間の会社が現地の事情に配慮して、現地のためになる活動を実施する例も増えてきている。

アフリカも変わりつつあるんですね。

歴史:工業化に向けた「第一歩」を踏み出すために悪戦苦闘している状況だ。農業技術を高めることに成功した国と、なかなかうまくいかない国との差も大きい。
 それに一見国の経済が豊かにみえても、掘った石油を独占する一部のグループがその富を独占している例も多いんだ。
 

工業化に向けた「第一歩」って、踏み出すのが難しいですよね。

歴史:アフリカの中でも「優等生」といわれているのは南アフリカだ。
 まるで「ヨーロッパ」のような町並みが広がる理由は、もちろんここがイギリスの植民地として発展したからだ。
 この時代には、一部の白人指導者が大勢の黒人住民を徹底的に差別する制度が廃止され、新たな国づくりが目指されるようになる。
 でも周辺の国々では紛争が絶えず、例えばベルギーの植民地であったルワンダやコンゴ、ポルトガルの植民地であったモザンビークやアンゴラでは、「資源をめぐり国内の複数のグループが、先進国のグループからのサポートを受けて果てしなく争う状況」となってしまった。
 直接手を染めたくない大国が、民間軍事会社に戦争を委託する例すらでてきている。もうめちゃくちゃだ。

どんな資源がとれるんですか?

地理:最近ではレアメタルが注目されている。「鉄以外の金属で、とくに資源の量や流通量が少ないもの」だ。鉄、銅、アルミなどに混ぜて使うと、性能が発揮されることがどんどんわかってきた(注:ステンレスに使われるニッケル、耐熱合金に使われるクロムやコバルト、めちゃめちゃ硬い工具に使われるタングステン、特殊な鋼に使われるモリブデン・マンガン・バナジウム、液晶パネルや太陽電池に使われるインジウム、高性能なバッテリーに使われるリチウム、軽い合金に使われるチタンなどなど)。
 スマホのディスプレイなどに使用される例が増えているけど、偏って分布していることから、国と国の間で問題となりやすい。

フランスの植民地だった西アフリカはどうですか?

歴史:資源をめぐり、国内はなかなかまとまらない状況が続いているね。
 サハラ砂漠の遊牧民はもともと国をまたいで活動していたから、フランスの事情で勝手に引かれた国境線のほうが「不自然」だ。

 南の海岸沿いの熱帯雨林地方では、最近ではガーナが工業化を進めて経済成長しているけど、そもそも歴史的にいろんな民族が小さな国を建てていたエリアだから、なかなかまとまらないところもある。
 ナイジェリアというところでは、石油のとれる地域の指導者が「民族」を旗印に国から独立しようとして大きな内戦が起きていた。

地中海沿岸の北アフリカはどうでしょうか?

歴史:石油がとれるリビアでは、やはり独裁者が現れて「独自の社会主義」を掲げて国内をまとめようとした。アメリカにさえたて付く態度が注目されたけど、最終的に国内で軍隊を中心とする反乱が起き、アメリカ、イギリス、フランスなどを中心とするグループによって独裁者は倒されてしまうよ。

独裁者が倒されたのなら、良いことなんじゃないでしょうか?

歴史:周りからみて「問題がある」とされても、「人の国に介入すること」がどこまで許されるのか?という難しさもある。実際に積極的に介入しようとして余計に悪化してしまう例もあった
 また、その後の流れをみてみると、結局リビアという国はいくつかの勢力に分かれてしまい、先進国が「資源ほしさ」に各勢力をコントロール下に置こうとする構図は変わらない。

 「文字が読める若者」の人口が増える一方で、工業化が追いつかずに職業の数は限られている状況が続き、リビアだけでなくチュニジアやエジプトでも同じように「強い権力を握る指導者」が倒されていった。
 でもその後の流れをみると、新しいの指導者が「ほんとうに国民の意見を代表しているのか?」怪しい面が大きい。それに対して先進国は、「資源欲しさの下心」からいろんな形で批判したり注文をつけたりして、場合によっては軍隊を送って解決しようとする状況が続いている。


エジプトの南のスーダンも、石油がとれるエリアをめぐって争いが続いているというニュースを聞いたことがあります。

歴史:一見すると「民族」とか「宗教」という枠によって、そこに住んでいる人みんなが巻き込まれているように見えてしまうけど、国と国との関係とか、世界レベルの経済のしくみに翻弄(ほんろう)されているという面も大きいんだ。

 こういうさまざまな苦難に対して、先進国を中心とする国際社会がなんとかしようとして介入しても、結局は「資源目当ての下心」によってうまくいかないことも多い。また、ユーラシア大陸やアメリカでうまくいったやりかたを押し付けても、アフリカでうまくいくとも限らない。

 個々のケースをみてみると、このような「高いハードル」の中でも、人々は「よりよいしくみ」をつくるために自分たちの方法で試行錯誤していることがわかる。

 幸せの尺度だって違うし、逆に「教えられる」ことも少なくない。

________________________________________

●1979年~現在のヨーロッパ

ヨーロッパでは最近テロのニュースが多いですよね…

歴史:1979年頃のヨーロッパでは、東のほうでソ連 “子分”のような国がいくつもあって(注:衛星国家)、「ソ連に反対するグループ」(=アメリカ側)とケンカしていた。

 そのときのことを思うと、ヨーロッパの状況はこの数十年で大きく変わったね。

 日本で「平成」が始まるころソ連の“子分”グループがつぶれて、西側のヨーロッパの国々の影響力が東へ東へ拡大していくこととなった(注:NATO東方拡大)。
 西ヨーロッパの国々には「ヨーロッパを一つにしよう」という大きな目標があって、それを東に拡大させていった(注:EUの東方拡大)。

「ヨーロッパ統一の夢」は実現したんですか?

歴史:EU(ヨーロッパ連合)という組織はできたよ。
 国を超えた旅行もしやすくなった。

どうしてですか?

地理:国境を超えるときの許可証(注:ビザ)が不要になる取り決め(注:シェンゲン協定)が結ばれたんだ。
 真冬の北ヨーロッパからは、地中海のビーチにバカンスに(注:フランスのニースのような保養都市が代表的)。
 逆に夏には、暑さを避けてスイスやオーストリアのアルプスへという感じに。飛行機のチケット代も安くなり、情報も手に入りやすくなったから、ヨーロッパには外からの旅行客も急増した。特にスペイン、フランスは観光大国だ

歴史:でも「一つになる」ってことは、それぞれの国が“なくなってしまうんじゃないか”という不安が広がったんだ(注:リスボン条約)。
 21世紀に入ると、東ヨーロッパの国々もEUに参加するんだけど、不況の影響もあって、安い給料でも働く労働者として西ヨーロッパに流れ込んだ。
 もちろん西ヨーロッパの経営者としては安い労働力を使いたいという考えがあったわけだけれど、「外国人に仕事が取られてしまう!」と心配したイギリス人が、EUから抜けることを国民投票で決定するまでになっちゃうんだ(注:イギリスのポーランド人移民)。
 イギリス(Britain=ブリテン)が出口(Exit=イグジット)から抜けるという意味から「ブリグジット」っていうよ。

西ヨーロッパにやって来る外国人はほかにもいますか?

歴史:フランスへは、かつて植民地にしていた北アフリカからはベルベル人の移民が増えている。


○1979年~現在のヨーロッパ  東ヨーロッパ

東ヨーロッパの国々は、ソ連の“子分”になっていますよね

歴史:ソ連という惑星の周りを回っているような国々ということで、衛星国家ともいう。地球の周りを回っている「月」のような国家ということだ。
 すべての指令はソ連から降りてくるから、命令に従わないといけない。すると、現実世界で問題が起きていても、ソ連の命令を無視するのが怖くて何も言えず―。

それじゃあどんどん問題が悪化しますね。

歴史:ソ連は領土をインドの北にあるアフガニスタンに広げて挽回(ばんかい)を目指そうとするけど、これまた失敗。
 これがきっかけてモスクワのオリンピックにはソ連とケンカしていた国々は参加をボイコットしている。

 その後、ソ連ではおじいちゃんの指導者が続くけど、「このままではいけない!」と、改革が始められた(注:ペレストロイカ)。

つまり社会主義をやめたんですか?

歴史:いや、あくまで社会主義を続けるための改革だ。
 改革っていうのは、問題のないときには行われないからね。社会主義の問題を解決するために、自由な売り買いを認めるなどのマイナーチェンジをしたんだ。
 でもそんな中、原子力発電所が大爆発を起こす事故が起きる。

チェルノブイリ発電所ですね?

歴史:その通り!
 史上最悪の事故だったにもかかわらず、ソ連は情報をシャットアウトし隠し続けた。それに対する国民の不満が高まると、ソ連の“子分”国家でもさすがに反発が起きるようになる。
 おさえることができなくなったソ連の政治家は、アメリカの大統領と直接会って「もう冷戦はやめよう」と話した。会場は地中海のド真ん中にあるマルタ島だ。

 しかし国内では、物の価格が自由に決まるようになった影響で、物価が上昇。生活の苦しくなった国民からは、「元の社会主義に戻してほしい」とか「完全に社会主義はやめてほしい」という声もあがる。
 結局、後者のグループが勝って、ソ連は消滅したんだ。

ソ連が「なくなった」ってことはどういうこと?

歴史:ソ連というのは、もともと「グループ名」のことだ。ソ連の中心メンバーであるロシアは、ソ連がなくなっても他のメンバーに対する支配権は持ちたいと考えていた。あちこちに豊富な天然資源があるからね。

 そこで、「元・ソ連」グループをつくるんだ。これがCIS(独立国家共同体)だ。
 もちろんそれに反発する国もいた。

その後はどうなったんですか?

歴史:世の中の常識がひっくり返った元「ソ連グループ」の国々では、国民は不安に駆られた。
 いつの世の中にも混乱に乗っかって利益を独り占めする「成金」(なりきん)はいる。彼らの支持を得た大統領が「強いロシア」を目指して強いリーダーシップを発揮しているよ。
 領土や資源をゲットすることを狙っていて、最近では例えばウクライナという元・ソ連メンバーだったウクライナの一部(クリミア半島というところ)を占領し、ロシアの領土にしている。

なぜウクライナは現在、混乱しているんですか?

歴史:昔、ポーランドという国が強かった時代があって、ウクライナも昔支配を受けていたんだ。
 でも、その前には今のロシアのルーツとなる国が発展したところでもある。
 その影響で東西で文化や意見の違いが生まれていったんだ。
 さらにウクライナは、北のロシアにとっては海への出口にあたるし、さらに石油や天然ガスを運ぶパイプの通り道(注:パイプライン)でもある。

 そこでロシアはウクライナの東部を占領し、力ずくで自分の領土にしてしまったんだ。
 ロシアの南下の問題は、21世紀になっても続いているんだね。

 むりやりソ連の一部にされていたバルト三国では、早くから「ソ連離れ」がすすんでいて、ソ連が崩壊する前に独立が認められているよ。
 その後のバルト三国はロシアの支配に入るのを嫌がって、西ヨーロッパとの関係を大事にしている。

その近くのベラルーシってよくわかりません。

歴史:実は、「ベラルーシ人自身もよくわかっていない」んだ。周りの国の領土だった時代が長く、国民意識は強くない。
 ソ連崩壊後にはロシアと一緒になろうという計画もあったけれども、いまでは下火になっていて、独裁的な政治が長いこと続いている。

地理:最後にモルドバというところをみてみよう。
 これはソ連の南西(北を上にして左下)の端っこに位置する小さな国だ。
 ルーマニアのお隣りに位置するから、ルーマニア人が多い。

 ルーマニア人は、自分たちのことをかつてここに進出していたローマ帝国の兵隊の子孫と考えている。ルーマニア語は言語的にはたしかにイタリア語のほうに近いんだ(注:言語島)。
 
 ソ連がバラバラになったときにモルドバのルーマニア人は独立を宣言したけれど、ここを手放したくないロシア人が“ロシア人のモルドバ”(沿ドニエストル共和国)を建国してしまったのでややこしいことになっているんだよ。

○1979年~現在のヨーロッパ  バルカン半島

歴史:次に、バルカン半島にある国々のようすをみてみよう。
 まずルーマニアでは、ソ連のいうことをきかずに「オリジナル社会主義」をつらぬいていた独裁者が、市民によって倒された。農業中心の国だから、なかなか「貧しさ」から抜け出せずにいる。

 一方、ソ連の「子分」だったブルガリアでも、独裁者が倒されている。


ギリシャはどうですか?
歴史:軍人から民間人による政治に戻っていたギリシャでは、「ヨーロッパの統一グループ」(注:ヨーロッパ共同体。のちのヨーロッパ連合(EU))に参加する道を選んだ。
 でも、競争が激化することを恐れる意見もあって、反対意見が高まっていく中、グループへの参加資格がねつ造されていたことが明らかになった。

どういうことですか?

歴史:ヨーロッパ連合は独自に共通のお金を発行しているんだけど、それが「お金として認められる」には、参加国の経済が「ちゃんとしている」ことが条件となる。お金には「信用」が最重要だからね。でもギリシャは、国が莫大な借金を抱えていたことを少なく公表していた。それがもとで、「ヨーロッパのお金は大丈夫なんだろうか?」という不安が一気に広がり、深刻な不景気となったんだ。

ヨーロッパの文明の「源流」とされているギリシャがこんな状態だなんて、皮肉ですね。

歴史:それにバルカン半島にあった「ユーゴスラビア」という国では、国がバラバラになって大規模な内戦となってしまったよ。

どうしてですか?

歴史:ユーゴスラビアという国は、そもそも第一次世界大戦の終わった後に人工的につくられた国だった。
 “七つの国境,六つの共和国,五つの民族,四つの言語,三つの宗教,二つの文字,一つの国家”を持つといわれるくらいの複雑さだ。長い間オスマン帝国という国に支配されていたことからイスラーム教徒もいるよ。
 ユーゴスラビアでは、実態としてはセルビア人が優遇されていた状況で、ほかの民族たちの「不公平感」がつのり、いっせいに独立に向かっていった。でもそこにアメリカやロシアの思惑も重なって、紛争は泥沼化することになったんだ。結果的には、ロシアと関係が深いセルビアを「悪者」とするアメリカが中心になって、ユーゴスラビアはいくつもの国に分裂していったけど、今でも世界すべての国に認められていない国もあるよ。

 ここでも、まるで「民族」や「宗教」によって人々が争っているようにみえるけど、それだけではわからない大きな国際関係が存在していることがわかるはずだ。もともとは民族・宗教に関係なく「ご近所付き合い」していたようなところでも、急に「民族や宗教のストーリー」がつくられて、対立が創りだされることもあるんだよ。

 「◯◯戦争の歴史は、いまから500年前にさかのぼる宗教の対立で…」なんていう説明をよく聞くけど、「当事者の声」を聞かないとわからないことや、そもそも「当事者さえもよくわからないこと」はたくさんあるといっていい。


○1979年~現在のヨーロッパ  中央ヨーロッパ

歴史:この時代には、今までソ連のいうことを聞いていたポーランド、チェコスロバキア、ハンガリーでいっせいに「自由にビジネスができる社会」「自由に意見がいえる社会」がつくられていくよ。

 また、「東西に分かれていたドイツ」もついに統一し、同じように「自由」な社会に生まれ変わるようになった。ドイツではトルコからの移民を多く受け入れ(注:ガストアルバイター)、イスラーム教徒の人口も増えていくけど、それにうまく対応した社会づくりがうまくつくれているとはいえない状況だ。


○1979年~現在のヨーロッパ  西ヨーロッパ

西ヨーロッパの国々は、かつては世界中に植民地をもっていましたよね。

歴史:それがこの時期になるとほとんどが独立してしまって、明らかに個々の国のパワーが減っていく。
 各国は国民のためにお金を使う額を減らしつつ、ヨーロッパの地域を統一してなんとか危機をしのごうとした。

うまくいったんですか?

歴史:メンバーは順調に増えていったんだけど、参加国の間に「不公平感」が広がり、結束が乱れていくようになる。
 各国に割り振られたヨーロッパの外からの移民に対する「嫌悪感」や、輸入品との競争に対する「反発」も高まり、イギリスのようにグループからの脱退を決定する国も出るようになった。


イギリスはどうしてそうなったんですか?

歴史:この時代のはじめにイギリスは、「国の支出をなるべく減らして民間の経済を活性化させる政策」をとった。

 その結果国民の間で格差が広がってしまったんだ。

 最近では今までの政策の「見直し」もされているけど、イギリスのパワー低下は止まらない。

 イタリアやスペイン、ポルトガルのように、そもそもグループに加入し続ける条件を満たすことができない国も出てきている。

 また、アメリカで大きなテロが起こって以来、「テロを起こす人=イスラーム教徒」という偏見が強まり、ヨーロッパで働いていたイスラーム教徒たちに対する目も冷たくなっていった。そのことが、ヨーロッパで起きているテロの背景にあるともいわれているよ。

 EUは大きな試練に立たされているといっていいね。



○1979年~現在のヨーロッパ  イベリア半島

歴史:スペインでは独裁者が亡くなり、王様が復活した。

「復活」ということは、昔は王様の国だったんですね?

歴史:そうだよ。20世紀初めに倒されるまでは、王様の国だ。
 レアル・マドリードっていうサッカーチームは知ってる?

知らないです…

歴史:そうかあ。王様から「レアル」(“王室の”)という称号をもらった、マドリードという街のチームなんだ。

 せっかく独裁者の支配から解放されたスペインだけど、その後の経済は伸び悩む。ヨーロッパを一つにまとめようとする「ヨーロッパ共同体」というグループに加入するけど、ドイツやフランスとの差は歴然。実質的には“お荷物”状態だ。

 さて、スペインには昔からいろんな民族がいて、今でもまとまり意識が強いんだ。スペインの一部では、独立を目指す運動も起きているよ。サグラダ・ファミリア大聖堂っていう今でも建設途中の現代建築のあるところだ。スペイン政府は認めていないけどね。

歴史:ポルトガルも独裁者の支配が終わると、ヨーロッパを一つにまとめようとする「ヨーロッパ共同体」というグループに加入する。けど、こちらも経済は伸び悩む。

 でも、世界にはポルトガル語の通用する場所って結構あるんだ。

ブラジルですね!

歴史:そうそう。もともとポルトガルの植民地だったもんね。
 ほかにもアフリカにポルトガルの元・植民地があるよ。独立後も“同窓会”のように協力関係を維持しようと、ポルトガル語グループ(注:ポルトガル語諸国共同体)がつくられている。

○1979年~現在のヨーロッパ  北ヨーロッパ

北ヨーロッパ(北欧)は福祉の先進国なんですよね?

歴史:社会保障がすすんでいることで有名だね。
 でも、石油危機の影響を受けた北欧諸国では、今までの政策をいったん見直すようになっているよ。外交教育文化ITなどでオリジナリティを発揮している国も多い。

同時に学べる!世界史と地理」をご購読いただき誠にありがとうございました。
 これで、系統地理を中心に高校地理のほとんどの重要事項をカバーしたことになります。
 以下の帝国書院版の教科書をベースにし、全項目を分解・振分けしました。
 他企画(ゼロからまとめる世界史のまとめ)もございますので、お立ち寄りください。


この記事が参加している募集

推薦図書

このたびはお読みくださり、どうもありがとうございます😊