たまご焼き、甘いとしょっぱいどっちで生きる

あー面倒だよーって時期、なにも連絡しないようにするとちょっと回復するライフハック。

行きたくなるような予定を自分に課して出かけた。
自分は冷たい人だ、ひどいやつだ、そう思いながらも でも私も私の気持ちがまだよくわからないから。


深夜まで仕事のことを考えて、朝も早くから準備ができなかったと正直に詫びた。
本当のことだけれど、仕事がなくてもたぶんそこまで早起きはできなかった。
それでも出かけるためにシャワーを浴びなければ、としばらくスマートフォンを放置した。
ドライヤーまで終えて居間に戻ると数通のLINEと不在着信。
もろもろあり、急遽ドライブでも行かないかと言う。

車に罪はないし、どこかのエリアでピックアップしてくれるならそりゃありがたいので向かうことにすると、また諸連絡で着信。
私は通話が苦手なので正直気乗りはしなかったが電話に出る。
電話越しの声が思ったよりも物腰柔らかで、あれ、そういう感じだったか、と思う。
何度も会ってはいるけれども、しばらく会わないと残念ながらすべてを覚えているわけではなくなるから。

電話の声は良くも悪くもその人の印象を変える。なんならその声で相性の良し悪しをわかった気になることもある。
心地の良い声というのはある。相手はそれだった。なぜかそこに安堵した。

合流するとやたらと煌びやかなラウンジに案内され、ウェルカムドリンクをいただき、えーと私はなぜこんなところへと動揺する。
全身GUなんですが。
あるところにはある高待遇にソワソワしながらもドリンクのおいしさに、悪い気はしない(素直)。
その後はやたらと車体も天井も広い大きな車で目的地まで。
こんなに立派な車なんですね…と下世話な感想が漏れそうになるも、結果的に「すごい広くて大きな車でぴかぴかですね」と小学生の感想を伝えた。

「頑張って買っちゃったねえ」

大したことないよこんなの、と答えられるより遥かにいい回答だった。
BGMはズンズン系ではなくてごく普通のトレンドチャートのような感じで、なぜかまた安堵する。
会話の内容も普通。両親がこれまで乗ってきた車の話や学生時代の話や最近の話。
普通とは尊いものなのだ、と思う。

その後は軽く買い物。
某メーカーの家電が好きなことや、長年のロイヤリティ的にメンバーシップ制度がランクアップした瞬間に立ち会う。

ははあ、財力。ここで下世話なワードが頭に飛び交う。
頑張って買ったと言ってはいるけど、謙遜なのでは?
さすがに乗り心地の良い車と買い物をするメーカーから察した。

もしかして、この人が私のどう考えても良いと言えない傍若無人な振る舞いに腹を立てない理由は
余裕、があるってことかな。
お金の余裕は心の余裕と優しさにつながるのかもしれないと、重役的な方の振る舞いを見ていると感じるときがある。

(または収入はともかく純粋な買い物好きの可能性もあるのかもしれないが、まあそうだとしても破産せずひとりで生計立てられているのだからすごいことだろう)


そのような財政事情とは知らず、なんとなく話すようになって間もない頃
ちょっとしたお礼のつもりでお菓子のデジタルギフトを贈ったことがある。
今から考えると確実にそれは相手にとっては10円ぐらいの価値だった可能性があるが(?)
なぜかとても喜んでくれて、「こういうの貰うの初めてです!本当に嬉しいです」と感謝された。
いや、あの、逆になんかごめん。数百円でそんなに喜んでもらえるとは…


近所においしいお店があるんだ、と、しかしもちろん(?)私は家には行かずそのお店だけに連れて行ってもらい、帰った。
まだちょっとそこはよくない気がした。いろいろと。

お店では必ずみんなが頼むだし巻き卵があると言う。卵は好きなので注文する。
ここに来た友人知人もみんなおいしいと絶賛、自分も大好きだと。
その前情報で自分がおいしいと感じられなかったらどうしようと一瞬思うも、運ばれてきた卵を見て「これがおいしくないわけがない」とすぐに不安が打ち消されたのはよかった。ここ、名店だった。

つやつやの黄色。アツアツでふわふわでぷりぷりで、出来立てのだし巻き卵は確かにとてもおいしい。

でも、それはほんのり甘かった。

ああ、そうか。そっちか。

ごめんね。

私が好きなだし巻き卵は
甘いのより、しょっぱいのなんだ。


それが言えなかった。

もちろん嫌いじゃないんだ、とてもおいしかった。
でももっと好きな味があった。

なんだかそんなことばっかりだって?

そんなズレ、これからいくらでも直せる。
家族ですらその程度の好みの違いはある。
でも、家族なら言える。相手にはまだ言えない。

卵のあとも、つくねやきのこ、さまざまなおつまみをいただいた。
そのどれもがとてもおいしかったけれど、
その大半が、微妙に自分の好む味付けと、ほんの少しだけ違っていた。
おいしいのに、少し濃いと感じたり、薄いと感じたり、そういうの。

昼間もそういえばそうだった。
デザートが好きなことは一致しているのに、
私が頼んだのはチョコレートケーキ。
相手が頼んだのはオレンジムース。
私がいちばん選ばないものだった。
レモンケーキも、私はたぶん選ばない。
相手は柑橘系のケーキが好きだった。

ああたぶんどれも少しずつ、好きなものが違うんだろうなあ。
どれも絶対食べられないほど苦手なものではないし、むしろ好きだけれど、
他に好きな味がたくさんあるから選ばない。

それを感情と結びつけるのはやめたい。
家族ですら、そんなズレはあるのだから。


めちゃくちゃいい方なんだと思う。私がなんにもそうしないから、相手もなんにもしてこない。
ただごはんを食べてデザートを食べて、買い物をして、
なんだか飲み友達ができたみたいでこれはこれで楽しいんだけど
ちょいちょい会話の中に「未来」の話が入ってくる。
それを聞くたびに、どういう未来を想像しているんだ?とぼんやりとする。


でもこれだけ自主的に考えているということは、嫌ではないんだよな。
なにかしらこの関係を、持続していきたいと思っているから考えている。
貴重な存在。私が自分の中だけで整理したいときはじっと待っていてくれる。
そんな人いるのだろうか、ほかに。


「まだ好きにはなれないけど関係を進めてみたい相手」と割り切ってもいい、みたいな話をネットで読んだ。
そんなことを認めていいんだったら、大いに認めたい。
なあ、それを認めていいんだったら
やっと名前がつけられるよ。
 

恋愛と生活。好きの持続。
どうせ私の好きは、愛するものにしか続かない。

この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?