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FOREIGN AFFAIRS 1月号

資本主義の衝突

 執筆者はニューヨーク市立大大学院の経済学者ブランコ・ミラノヴィッチである。彼は「大不平等――エレファントカーブが予測する未来」の著者として知られ、各国の格差問題などを論じている。

 グローバル経済の未来を左右するのは、資本主義と他の経済システムの競争ではなく、資本主義内の二つのモデル、つまり、「リベラルで能力的資本主義」と「政治的資本主義」へ進化し、拡大する格差問題にうまく対処せない限り、欧米のシステムは、社会主義ではなく、中国型の政治的資本主義に近づき、金権政治になっていくだろう。

 日本に暮らす人々であれば、米中対立を身近に感じるだろう。ブランコ・ミラノヴィッチは、こういった対立の殆どが旧来にあったような資本主義と社会主義といった対立ではなく、資本主義内部の対立であると述べる。

 歴史的に一つのシステムや宗教の勝利後、短期間のうちに同じ信条をめぐる分裂に向かう。キリスト教は東方と西方に分かれ、イスラム教も同じようスンナ派とシーア派に分かれ、共産主義もソビエト派と毛沢東派に分かれた。この現象は資本主義も例外ではない。

 「リベラルで能力主義的な資本主義」と呼ばれるのは、いわゆる旧西側諸国の経済体制である。生産能力の多くを民間が所有し、(提示されたルールの下で)才能が評価されれば様々な機会の保証されるからだ。

 一方で「政治的資本主義」はなにか。これらは旧東側諸国を主に、高度な経済成長を政治的権利や市民権よりも優先する(私自身は旧東側諸国が過剰なだけで、旧西側諸国もそういった個人への制限を行ったように感じる)体制である。

 1978年当時の中国における経済生産のほぼ100%は公的部門によるものだったが、現在は20%を下回る。民間所有が大多数を占める点は旧西側諸国と大して変わらない。

「リベラルで能力的資本主義」と「政治的資本主義」の異なる点とは?

 政治エリートの存在が鍵となる。一党独裁制度下における官僚主義の肥大化は、この記事を読む層で知らない人はいないだろう。

 ブランコ・ミラノヴィッチは、旧西側諸国が固定化した資本家階級(所得や文化資本の継承)、旧東側諸国が豊にはなっても政治的パワーを行使しない資本家階級と国家を運営する官僚と支配層を明確にした。

 中国では旧西側諸国のような資本主義エリートは誕生したものの、ほとんどが資本家や知的労働者家庭出身ではなく、むしろ農民か肉体労働者出身である。この事自体は、文明のリセットとも言える文化大革命のおかげ?であり、資本主義初期によくある現象の一つだ。しかし、そこにブランコ・ミラノヴィッチは、中国の歴史的背景を付け加える。中央集権体制が歴史的に強く、13世紀の宋王朝の商人たちも中央政府の牽制により共有利益階級を形作れなかったことを指摘した。反対に商人階級が栄えたイタリアの都市国家、オランダを含むネーデルランドは大きく商人階級を構築した。

 優れた社会を作るには、富や所得よりも基本的自由を絶対的に優先しなければならない。 正義論

 また、一帯一路構想のような中国融資による国境を股にかけたインフラ投資は、欧米による資本家階級の先導型の経済開発への中国政府によるイデオロギー的挑戦と主張する。同時にリベラリズムの優れた思想家ジョン・ロールズは以上にように述べていたが、そのような制度の構築よりも物理的なモノを優先する中国政府は、対照的に感じられる。

 香港での法律の恣意的運用への反発は激しさを増す反面、ブランコ・ミラノヴィッチはより大きな所得のためなら、民主的権利を引き換えにする多くの人の存在を論じつつ、ジャック・エリュールの「技術と民主主義は水と油だ」を引用する。これらの論理や引用は以上の政治的資本主義の経済領域への管理能力がソーシャルダーウィニズム(社会進化論)的な優位性を持つのでは?と疑問を呈した。

「リベラルで能力的資本主義」への指摘

 旧西側諸国の持つ民主主義と法の支配は、旧東側諸国のような寡頭制下の属人的決定を排除する。これはプロパガンダでも使われた有名なお題目だ。気になるのはそこからの一つの指摘である。「資本主義体制と民主主義は必然的な繋がりがある」という旧西側諸国のイデオロギーの中心部が、旧東側諸国の発展により損なわれつつあるということだ。

「政治的資本主義」への指摘

 カール・マルクスが描いた資本主義の道筋のように、経済パワーの政治的独立が中国の資本家階級でも行われるか否かである。資本家階級は自分たちの権利がいつ制限されるかわからない環境に甘んじるのかだ。

感想

 リベラル系の学者であるが、文明の歴史的背景まで資料に使ったのは驚いた。また、必ずしも民主主義が人類の発展に沿ったものでないという指摘に意外性を感じる。実際問題、資本家階級が政党や政治家を支配するアメリカが、もはや政治的資本主義(≒金権政治的体質)に近いといったことにも、納得する。


数年前にトルコに渡航していました。現在はオルタナティブ系スペースを運営しています。夢はお腹いっぱいになることです。