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人々の心にたまった滓(おり)のようなものは、そんなに簡単には消えていきやしない…★劇評★【音楽劇=世界は一人(2019)】

 産業が栄えても負の遺産としての廃棄物が海に沈殿することはありがちなこと。浚渫(しゅんせつ)すれば取り除くことは可能だし、海がきれいになるといつかその存在さえあやふやになる。しかし、人々の心にたまった滓(おり)のようなものは、どうだろう。そんなに簡単には消えていきやしない。そんなどんよりした町で、一見楽しそうに見えながらも、みんな何かが足りない、何かに届かない、何かが言い出せない、そうした思いを抱き続けながら子ども時代を過ごし、やがてそれぞれの人生の中で交錯しながら互いの関係を変容させていく。そんな物語が松尾スズキ、松たか子、瑛太という演劇界に鋭い爪痕を刻んできた3人と劇作家・演出家・俳優で劇団ハイバイの主宰でもある現代演劇界の旗手のひとり、岩井秀人によって生み出された。音楽劇「世界は一人」は、大劇場なのに小劇場のようにひそやかで親密で、人間の半径10メートルほどの物語なのに人生や社会、宇宙をも包含する普遍性と哲学性を持つ傑出した仕上がり。前野健太とそのバンドが奏でる揺蕩(たゆた)うようなメロディーと激しい情念のリズムが、観客をその町にいざなっていくのと合わせ、確かな宇宙がそこにはあった。(写真は音楽劇「世界は一人」とは関係ありません)
 音楽劇「世界は一人」は、2月24日~3月17日に東京・池袋の東京芸術劇場プレイハウスで、3月23~24日に長野県上田市のサントミューゼ上田市交流文化芸術センター大ホールで、3月28~31日に大阪市の梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで、4月5~6日に仙台市の電力ホールで、4月9日に三重県津市の三重県文化会館中ホールで、4月13~14日に北九州市の北九州芸術劇場大ホールで上演される。

★音楽劇「世界は一人」特設サイト

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