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横溢するイメージの集積体として描き出される様は圧倒的な迫力と緊迫感をもって迫って来る…★劇評★【舞台=歯車(2018)】

 芥川龍之介が生前序章だけを雑誌に発表し、自死した後に発見された遺稿によって全体像が明らかになった晩年の最高傑作「歯車」には、主人公が陥る不吉な予感のループが最後にはそのままらせん状に精神を深くえぐっていくさまが壮絶な描写で描かれている。それがそのまま芥川のはまった落とし穴であるとは思わないが、精神の変容の構造はぞっとするほど生々しい。劇団「東京デスロック」の主宰で、埼玉県富士見市の市民会館「キラリ☆ふじみ」で芸術監督を務めている多田淳之介が、演出家宮城聰が芸術総監督を務めるSPAC-静岡県舞台芸術センターとともにこの問題小説を舞台化。11月から12月にかけて静岡市の静岡芸術劇場で上演している。ストーリーはほぼ忠実に追いながらも、芝居そのものは解体され、音楽や光、俳優の身体表現などさまざまなものによって同時発生的に構成される横溢するイメージの集積体として描き出される様は、圧倒的な迫力と緊迫感をもって私たちに迫って来る。それはまるで、光と電気物質によって意思を体中に伝えていることと似せて説明される人間の脳内での神経伝達物質の仕組みを舞台上に映し出しているかのような激烈な美しさを伴っていた。構成・演出は多田淳之介。
 舞台「歯車」は12月1日、2日、8日、9日、15日に静岡市の静岡芸術劇場で上演される。11月24日、25日の静岡での公演は終了しています。

★舞台「歯車」公演情報=SPAC公式サイト

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