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neutral010 琴線に触れる利他行


 個人主義とは誰でもが主人公であると云っているに等しいのだろう(実際には政治的な概念で社会の基盤である個人を尊重する立場)。反対に日本人は誰でもが主役ではない脇役であると思って来た。では誰が主役なのか、或いは主役は居ないと云っているのだろうか……。
 貴族が支配していた平安時代は天皇にせよ、天皇をも操れる有力貴族にせよ、血脈が被支配者を納得させていただろう。皇室は今でも選挙権はない。日本人の範疇に入れて良いのかは分からない。超越者として含まれない故にメタレベルな主役と成れる条件は揃っている。民主主義の現代もそれ以前も日本人はトップに立てていない。頂点には常に天皇が居たからである。脇役とはそういう意味で使っている。誰でも成れる可能性のある大統領とは違い謙虚さの根拠にもなっているだろう。征夷大将軍であったとしても。
 日本は戦後個人主義を是とする教育を施して来た。が脇役としての伝統も残っていたが為に逡巡したとしても至極当然の話で(ニートや引き篭り)、折り合いを上手く付けて乗り切って来た学生たち、それが日本的な合理性(rational)を身に付けた役人根性という奇形だったりしたのかもしれない。
「一泡吹かせよう」と意気込んでいたような(ある意味マトモな)若者は個人主義を歓迎していた。日本人は明治期の夏目漱石の時代からずっと西洋人(すなわち理性を持った自己同一性)に憧れ、なろうという使命をもって生きて来たような、良い悪いは別にして、問題意識としてあったと思う。特に知識人やそう呼ばれたい予備軍の若者たちは。欧米人はむしろ日本人をそのままで擁護するような発言ばかり記憶している。英語を話せればアメリカ人になれるはずも無いが日本嫌いで個人主義が生き易いと思っていた若者は英語に精進していただろう。ヨーロッパでは英語を単にコミュニケーションのツールとして位置付けて身に付けている。そこに淡い夢などの余地はない。日本人にとって英語はそれ以上の変身のツールに位置付けているようであり、期待値が大き過ぎるという危うさがある。
 語学以外の文化全般の理解が無ければネイティブの国では通用せず戸惑うばかりだろう。
 個人主義の国ではあり得ないようなシチュエーション。ミステリードラマでは良く身代わり、犯罪を無実のまま肩代わりしてしまうケースがある。騙されて説得されてそうさせられるのはハリウッドでもあるかもしれないが……。
 一部の報道にあるように大谷翔平選手の疑惑に金銭の肩代わりの有無がある。日本人の文脈では大谷翔平は全く知らなかったとしても、男気を出して金銭だけ、身代わりになっても良かっただろうと思われても仕方がない。が、それでは野球が万事休すで、そうも行かなかった。メジャーから追放、もしくは出場停止で自分の存在意義さえ保ち得ない立場に立たされる。苦悩はここにも入り込んでいて、つまり彼の地アメリカでは日本人らしさが発揮できない、という窮地。記者発表での大谷翔平の主張がすべてそのまま受け取られ、結果大谷翔平側の事件性はこちらの主張どおりすべて解決し、解消したとしても、かつての相棒を救えなかったこと(利他行を発揮できなかったこと)のこころの傷はいかばかりか残って行くだろう。薔薇色の理想的な結婚報告であったが、新しい伴侶である夫人には心身を支える役割も生じてしまった。手を取り合ってメジャーリーガーを貫き、大役だが頑張って欲しい。
 さて、愛する人(女性)の為に身代わりで殺人罪を引き受けて服役する。そして釈放後も女性を想い、一切関わらぬように自分の夢は捨て去り、覚悟を決めてひっそりと底辺の仕事に精を出す暮らしを続ける。しかも冤罪の被害者の家族を経済的に援助してもいる。スカスカの生活環境だと云える。この利他行が日本人の琴線をくすぐるのである。ドラマでは被害者の家族がその後難病にかかってしまいピンチを迎える。愛する女性とは医学部の学生どうしだった。女性は難病を救える医学界の権威に出世していた。避けていた関わりが出来てしまった。政略結婚だった仮面夫婦を精算しようとして女医は新たな事件を引き起こしてしまう。探偵役の主人公に過去と現在の二つの事件(どちらも正当防衛に値するのだが)を暴かれて二人ともお縄になる。だが、二人は40年の時を経て漸く正面から向き合い、愛を確かめ、未来を約束する。罪を背負い分かち合う熟年どうしとなる。このようなパターンは現代劇よりも時代劇に多く見られる。利他行の温床であるニュートラル、「誰でもない自分」から発する考え方は時代劇の人情話の脚本に多く登場している。ドラマ、ストーリーはフィクションだが、あり得そうな物語でないと視聴者は納得しない。絵空事でないと思わせる核心が必要になって来る……。日本人にとって利他行は無理強いではないのだ。


 大谷翔平陣営に完全に見捨てられた立場に立たされた元通訳の水原一平は、大谷翔平の将来を今まで通り優先し、罪を素直に認め、二転三転した発言を全面的に撤回し、大谷翔平への疑念を晴らしてくれるのだろうか。真実を言うことがそのまま利他行になるのが最良のケースだが、利己主義に陥り自利行に嵌り裁判に持ち込むのかどうか、出方は不明、大谷翔平ファンはヤキモキしている。依然として予断は許されないのだ。裁判、そうなった場合、彼は正真正銘のアメリカ育ち、外見に似合わず中身はやはり個人主義のアメリカ人だったのかと思わざるを得ないのだ。(続く)
 2024/04/01


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