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あなたは映画派?小説派?【読書記録*そして、バトンは渡された】


出会いは、たしか飛行機の中だった。

ただ、私の席にモニターがあって、その中の邦画の一つに、『そして、バトンは渡された』があったのだ。

あ、田中圭でてるんか。じゃあ観てみようかな。
それで暇つぶしがてら、この映画を初めて観たのだ。

そんな気持ちで見始めたものの、最後には涙で視界がぼやけてしまう始末だ。機内でボロ泣きなんて、CAさんも驚きだ。


それからしばらく経って、kindleのおすすめで突然に現れた『そして、バトンは渡された』。最初はあのボロ泣き映画の原作だとは気づかなかった。

そして、読んでみたのである。

※以下、ネタバレを含みます※



3行要約

  • 主人公(優子)には父が3人、母が2人で幼い頃から家族が違うが、本人は「私はちっともかわいそうではない」と感じている【親は違っても幸せ】

  • 森宮さん(今の父親)と優子の食卓を囲む会話に、血の繋がらない家族の不思議な関係はあるものの、愛情が感じられる【森宮さんのキャラクターが引き立つ】

  • 映画と原作には多少の内容の違いがある【脚本とストーリー構成が異なる】


気づきと考察

映画と原作の比較

映画は梨花(石原さとみ)と優子(永野芽郁)がメインである。梨花は何度も結婚と離婚を繰り返し、優子を振り回すが、最後は病気で亡くなる。映画では、彼女が病気ということを隠し、最後に「まじか、だからそういう振る舞いをしていたのね」という衝撃と、自分の本当の娘ではなくても、母親としての愛情を注ぐ姿に感動する。

一方小説では、森宮さんと優子の日常と高校生活がメインに描かれている。優子の気持ちや森宮さんの行動がメインである。梨花は登場しているが、その振る舞いの詳細については映画と比べると少なく感じられた。また、最後に病気であることは変わりないが、亡くなることはなかった。

すなわち、脚本家によって、ストーリーやキャラクターの性格が一部変更されている。

原作
ここでは、読書記録ということもあり、原作の方の考察を。

原作では特に、家族の在り方について再考させられる。
優子と血の繋がった本当の家族ではないが、様々なお父さん、お母さんがそれぞれの形で娘に愛情を注いでいる。
原作では特に森宮さんの行動と心情が印象的である。
実の父親でなくても優子を一番大切にしていることはその行動から分かる。毎日の愛情こもった料理やグランドピアノを買ってあげようとするなど”だって父親だから”と奮闘する様子に、心から応援したくなる。森宮さんの「良い人」というキャラクターが引き立っているのが原作である。

本作では「食卓」というのも一つのキーワードになると考えている。
森宮さんはいつも料理をする。優子のために。
テスト当日の朝はカツ丼を作り、元気のない日にはニンニク入りの餃子。受験勉強を頑張る夜食にうどん。
どんなに食欲がなくても、優子は必ず食卓に来るし、食べる。
”森宮さんの料理は食欲がなくても、食べてしまう。”と家族の愛情入りの食べ物には普通のそれとは格別のパワーがあるのであろう。

優子が放課後に行ったカフェのお土産にケーキを2つ買ってきて食後に食べる場面、結婚の話をしに婚約者が来たときに”君にお父さんと言われると食事が不味くなる”といいながらおかわりをする森宮さん。食事と絡めた場面たちが記憶に残る。

高校生の優子は、森宮さんに悩んでいることを100%伝えられていないときも多かった。しかし、食卓を囲む中で、「食」が二人の家族としての距離を縮めていると感じられた。そんな食事中のなんともないように思える日々のやり取りが、まさにこのストーリーを面白くさせているのであろう。

映画(脚本)

映画と原作で内容が異なると述べたが、ここで、脚本のことについての考察もしておこう。

良きです。


観た人の印象深く残る感動的な映画となるように、「梨花の秘密」に焦点を当てたのだと考えている。

映画では、起用した俳優陣がすごすぎる。というか石原さとみの演技がもう半端ない。それと、登場人物とマッチングしすぎてすごすぎる(私の場合は映画から原作の流れであったため、原作から映画を観た人は異なる意見かもしれない)。
たしかに、優子の高校生活、特に友達関係ではなんとなく「あれれ?」の部分があった。ここが改善できるならば、私にとって100点満点だ。しかし、映画を作るにも予算や時間やいろいろあるため、素人の私が語れることではない。それでも、私はこの映画が好きだ。

まとめ

家族の在り方、親子の愛情がメインテーマだと思われる「そして、バトンは渡された」。人によっては、映画と原作で、気づきや好きな場面も異なると思われる。それぞれの登場人物の行動・心情を意識してストーリーを追うと、また新たな発見があるかもしれない。

書籍情報

そしてバトンは渡された, 瀬尾まいこ, 文藝春秋, 2018



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