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【ドラマで見る女性と時代】その4の弐 『光る君へ』~詮子と遵子~(2024年)

「この世の中に、心から幸せな女なんているのかしら、みんな、男の心に翻弄されて泣いている。
でも、わたしはまだ諦めたくないの」

 帝の子を産んだ以降、もう何年も帝の寵愛を受けることなく過ごしている藤原詮子(吉田羊さん)。
 彼女は、唯一心を許せる弟の道長(柄本佑さん)にそんな胸の内を明かす。


 いつの世も愛されぬ女は淋しく惨めなものなりにけり。
………などと、つい適当な文法の古文でつぶやきたくなる場面。

 しかし、宮中、そして上級貴族の世界しか知らない詮子が思う『 この世の中 』とは狭いもの。

 道長は奔放で豪快に笑うまひろ(紫式部・吉高由里子さん)を見て、楽しそうに生きる女も世の中にはいるのだと知る。
 自分の周りの女は皆、淋しがっていて、
男は皆、出世したがっている。
 彼は自分の身分をまひろにふせたまま、そんなふうにつぶやく。


 今回は、宮中、特に帝の女に注目してみました。

※見出し画像は、京都・廬山寺にある紫式部像です。




いつの世も、女は産んだら女じゃなくなる件


 時の帝・円融天皇(坂東巳之助さん)は、藤原遵子(中村静香さん)を寵愛するばかり。
 その一方で、詮子のことは、帝にとって煙たい存在の右大臣・藤原兼家(段田安則さん)の娘ゆえに遠ざけている。

 しかし、帝のお心を取り戻したい、と詮子は想いを託した歌を帝に贈る。

 その甲斐あってか、帝が詮子の元に訪れる夜がやってきた。

 が、帝は彼女の期待に沿うことなく、立ったまま詮子の前に彼女の歌を投げ捨てる。

 そして、

「 見苦しいことをするな
そなたは懐仁やすひとの母であるぞ、汚らわしい 」

と冷たく言い放つ。

 かつての自分への御寵愛は偽りだったのでございますか?
 そう問いかける詮子を、さらに帝は

「 子をなすことは帝たる者の勤め

朕は真面目に勤めを果たしただけだ

もう、あの頃の事は覚えておらぬ

そなたも忘れよ
そして、母として生きよ

やすひとはわが唯一の皇子みこ
そなたは国母こくもとなるやもしれぬ立場

そのことを忘れるでない 」

と厳格にたしなめる。

 ここで、視聴者の女性の多くが思ったことだろう。

『 は?産んだからもう女として見ないとか、子供作るためだけでしたとか、最悪じゃね?
女を何だと思ってんの? 』


 そういう時代だったと頭では理解しつつも、詮子の味方にならずにはいられない。ひとりで帝に勝手にイラつくわたし。


 それならば、もう東御所(藤原兼家の屋敷・つまり自分の実家)に下がります、と申し述べる詮子。
 それでも構わぬが皇子は置いて行け、自分と遵子で大切に育てる、と冷たく言い捨てて帝は詮子の元から去って行く。

 子供を育てる、といっても、この時代、庶民はともかく高貴な方は、乳母をはじめとする宮中にお仕えの女性達が実質的には育てるはず。
 つまり、24時間気が抜けない現代の子育てとは全然違う。

 女房達から奉られ、帝に愛され、腹を痛めて産んだわけじゃない幼子とたまに戯れることで母親扱いしてもらえる。

 この遵子の立場、最高なんじゃ?とも思ってしまった。



 この最高ポジションの礎は、結局のところ「 帝の愛 」だ。
 この時代、女性は子供を産んでなんぼだろう。
 逆に、子を産んだ女を褒め称え、子を産めぬなら役には立たぬと宮中から追い出されても不思議じゃない感じがする。
 が、この帝の愛はそうじゃない。
 詮子との営みはあくまで世継ぎを残すためのお勤め。
 そして、子を産んだ詮子は母であり、母は、女ではない。

 母体とはならぬままの遵子が、帝にとっての『 女 』なのだ。


 今の時代だって、身分はともかく、こういう男はいるのだろう。
 帝の単なるお勤め、とはちょっと違うだろうけど、母はもう女ではない、みたいな目線。

 結婚するまでは愛情を見せつつ、子供が生まれ妻が家事と子育てに奔走する姿に女としてもはや魅力がないだのとケチをつけたり、出産に立ち会ってみたら女として見るのはもう無理になったとか言い出して、外で浮気をするような男達。
 そんな彼らはきっと、出産経験がなくスタイルが崩れていない女子を愛で続けるのだろう。

 きっと視聴者の男性の中で、こう思った人もいるんじゃないだろうか。

『 ああ………なんか、わかる………帝、わかるわ。
そうなんだよな、なんかさ、母親って生き物って、もう女じゃない、っていうか、さ………ヨメには絶対言えないけど……… 』



 けれど、よくよく考えてみれば、子を産んだからといって歴代の女性のすべてが帝や殿様の愛を失ってきたわけではないはず。

 結局、その辺りは男の愛の都合なのだ
 愛していれば、子供を産むことができようができまいが、産んでいようが産んでがいまいが、愛さえあれば、今のありのままの姿で『 女 』として扱われるのだ

 ……まあ、それは当たり前といえば当たり前のことか。

と、オバチャンの謎のやっかみ全開で帝を含めた男全般のことがうっすら嫌になったり、結局は愛なんだ、そこに愛があるかどうかなんだよなぁ……と微妙になったわたしでした。

 とにかく、愛されてる女はいいよね。幸せなんだよ。
 愛されてない女は、哀しい。淋しい。

 きっと、いつの時代も。

 でも、詮子の言うような、一方的に男の心に翻弄されて泣いてる女ばかりじゃないはずだ、今の世の中の女性は。



恐ろしいほどの色気しかないOP


 今回の大河ドラマは、
『 道長と紫式部はソウルメイトとも言える存在だが、すれ違い続け、身分が違いすぎるゆえ結ばれることはなく、彼に対してずっと思いを抱く紫式部が源氏物語を描く 』
という設定だったと記憶している。。

 脚本は恋愛ドラマの名手・大石静さん。

 このドラマが決まった時に、もろに恋愛的なテーマを主に扱うような大河ドラマ、しかもかなりスピリチュアル的な何かが詰まっており、見えないものを信じる風の時代には良いのだろうけど、果たして大丈夫(?)なのか、と、ど素人の老婆心が渦巻いてやまなかった。

 けれど、そんなわたしのちっぽけな心配なんてまったく不要で、今回も面白かったし、次回が待ち遠しい。

 脚本は面白い、役者さんも抜群に個性的なうえ役のキャラクターにハマりすぎ。それに、衣装などを含めた見た目の映像的な美しさ。
 もしかしたら、合戦シーンのあるような定番の大河ドラマを好む年配の方には不評かもわからないけど、大河ドラマは往年のファンだけのものじゃない。むしろ、今を生きる若い人も夢中になりそうだ。


 夫・藤原宣孝(佐々木蔵之介さん)の死後、淋しさを紛らわすために物語を書き始めたとする説もあるけれど、今回の設定なら、源氏物語を描く紫式部の真の原動力は、道長への深い想いなのだろう。

 それを抽象的に表現したと思われるOP映像。

 黄昏色を基調とするような色使い。
 そこに差し込む光と影にの狭間に見え隠れする『 女 』の様相の数々。

艶やかな女の顔の半面、

一瞬だが深く絡み合い、そして指先の余韻を残しながらそっと離れてゆく男女の手、

はかな気に絡む赤い糸、

虚ろな女の横顔、

しなやかに流れる黒髪、

風に美しく舞う衣、

淋し気な女の立ち姿、

高貴な絹をゆっくり、そっとなぞる指先、

そして、再び求め合うように切なく伸び、
届いて触れるか否かの瀬戸際の男女の指先

 ───── そんな映像が、幻影的に現れては儚く移り変わる。
 場面によっては、夜の逢瀬の床を想像せずにはいられない。

 歴代の大河ドラマ……というほど大河ドラマを知らずに大変恐縮だが、こんなにも女と色気を真っ向から表現したOP映像は初めてじゃないだろうか。
 女性が主人公の『 おんな城主 直虎 』や『 八重の桜 』も、さすがにここまでエロティックに造ってはいないだろう。

 手と手が絡まるという構図は、このOP映像に限らず、男女の絡み合いを比喩あるいは縮小して表現できるものだと前々から思っていた。
 実際、この大河ドラマで道長と紫式部がそういう事に至るのかは不明だけど、ソウルメイトという神秘的な言葉もあって、魂の底に隠された、狂おしいほどに求めて愛し合うような二人の想いを表現しているようにしか見えない。

 うわぁ、NHK、やるなあ……!
 もう一昔前だったら、NHKなのにこんなテーマで作品を作りなさるな、と年配の方がクレームれを入れそうだ。

 でも、今は今。
 令和の時代の大河ドラマは、これでいいのだ。


 詮子は傷心のまま帝の元を去り、泣き寝入りするしかないのだろう(たぶん)。

 まひろ(紫式部)も、史実だと、道長の妻として直接堂々と愛されることはない。

 けれど、まひろは道長への想いを、源氏物語を書くことで昇華してひとり密かに満たしてゆくのかもしれない。
 また、道長はその物語を読むことで、まひろの想いを受け取るのかもしれない。

 今回の話で大人になった二人が再会した際に、好きな人がいるならいい歌を作ってあげるわ、と恋歌の代筆業をしているまひろが道長に告げた。
 しかし、まひろに再び逢えるまで通う所存の道長は、歌はいらぬ、と彼女に返した。

 この頃の若い二人なら、歌など要らなかったのだろう。

 けれど、これからの長い年月の中で因果と絆で結びつくものの、深くは触れ合えぬこの二人。
 その仲を人知れず固く固く結ぶのは、まひろが描く千年の恋物語。

 歌はいらない。
 けれど、歌以上に長く長く綴られる言葉が、二人には必要だった。

 道長の先ほどの台詞が、そんな伏線だったりしたら面白い。



 以上が、第二話
『 めぐりあい 』感想であります。


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