ひっくり返る前夜


ぜんぜん褒められた話じゃないんだけれど…

若い頃、よく徹夜で仕事をした。
次の日の朝に提出するデザインが
なかなか完成しない…
なかなか思うような、これだ!というものに
到達しなくて。

きっとこうすれば素敵になるだろう…
という青写真を試してみたが
ぜんぜん良くなかった。
これでいける!と思っていたのに
急にノーアイディア状態。
さぁ、どうする?
という不安と共に夜が更けていく。

例えば、翌日の朝10時に提出として
「さぁどうする?」が夕方5時くらい。
寝なければ12時間以上あるので
なんとかはなるだろうけれど
アイディアから練りなさなければならない。


見えていないと不安になる…。

他の仕事を進めたり
徹夜に備えて夕飯を食べたり
なんだりかんだりして
ようやっと、その仕事に集中できるのが
夜の10時くらい。

タイムリミットは12時間。
実制作にかかる時間を考えると
アイディアを固める時間は限られてる。
時間という焦りと
作るものが見えていない不安。

やることが見えていたら
こんなには不安にならない。
がむしゃらにやるだけだ。
でも、がむしゃらを向ける対象がない。
気持ちはあっても、何もできない。

こんな不安な夜を
いくつも過ごした。
武勇伝でもなんでもなく
ただただ恥ずかしい話で
そういう状態にならないように
仕事を進めればいいのだけれど
僕にはそれができなかった。


不安のピークは深夜1時や2時が
多かったように思う。
日付が変わり時間が迫る。
眠気も出てきて
判断力も落ちる。
外は真っ暗闇。

あぁ、間に合わないかも。
もう、思いつかない。
眠い、もうダメだ。
諦めちゃおうかな。
僕の気持ちも闇夜に包まれて
どん底になる。。


でも、
これも誇れることじゃないんだけれど
いくつもこの夜を越えてきたので
今がピークだ…、ということもわかるようになった。
今が一番深いところだ。
これを越えればひっくり返る。
あと一歩。もう一歩。

アイディアが見えて
形にしていく。
だんだんと目に見えるようになってくると
安心感が出てくる。
そして、その前に凹んでいた分
急激な高揚感と共に
ひっくり返る瞬間がくる。

あ、いいぞ!いいぞ!
いける!いける!
これ、すごい!すごい!
アドレナリンがドバドバと出てきて
数時間前のどん底の気持ちが嘘のように
気持ちよくなってくる。

形になるデザインに
素敵なものを提案できる喜びに
自分は天才なんじゃないか!って
勘違いもしたりする。
ギリギリでこのアイディアが出るって
すげぇ!なんて。

そもそもギリギリでやってるのが
すごくないんだけれど。


これは躁鬱の一種だと思うし
こんな仕事の仕方は良くないと思う。
決して、他の人や若い人にやってほしくない。
でも、そうした「ひっくり返る」瞬間を
何度も何度も経験してきた。
だから、しんどい時や
調子の悪い時は
今が底だな、というのもわかるし
「ひっくり返る」前、というのもわかる。


まさに、今の僕が
「ひっくり返る」前の状態なんだろうと思う。
色々と考えてしまったり
不安になったり
変化をしている。
何にエネルギーを注ぐのかが
見えなくなってしまっている。
でも、これはいつか「ひっくり返る」。

おそらくもう少しで。
こうした状況の時にも
「ひっくり返る」未来を
疑わず確信を持って信じられること。

若い時に過ごした
たくさんの不安な夜が
僕を支えてくれているのも
事実だと思う。


ただ、こんな乱暴な仕事で
成長する必要もないし
精神を壊す可能性も多分にあるから
これを美談や武勇伝にはしたくない。

あ、そもそもならないか。。



もう少しで
ひっくり返りそうなんだ。。。

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