見出し画像

当店オリジナル“極上フルーツタルト”第3弾〈タルト オ ミルティーユ〉。開業から9年。この商品を作るにあたり、遅れ馳せながら〈地産地消〉を考える

シェフの進藤です。
まず最初に。
この記事が先日とある週の〈#至福のスイーツ〉投稿作品の中で特に〈スキ〉を集めたとの報告が!
ありがとうございます!
これを励みに、今後もコツコツと書いていきますので。

では、本題に。
1980年代から既にあったとされる〈地産地消〉という言葉。ですが、私が初めてその言葉を聞いたのは、今から約20年前。約2年間過ごしたフランスから帰国し、製菓専門学校教員になってすぐの頃。〈海外長期滞在からの帰国あるある〉なのですが、私がフランスにいた約2年の間にも、日本では〈新しいブーム〉〈新しい生活様式〉そして〈新しい日本語〉が生まれており、フランスから帰って来たばかりの私は、その時ちょっとした〈浦島太郎状態〉になっていました。その為、初めて耳にする〈単語・語句〉にかなり敏感になっていた事も重なり、同僚教員とのふとした会話の中「進藤先生、これからは〈地産地消〉の時代だよね」

と彼が何気なくその言葉を発した瞬間、私の心の〈知らない言葉アラーム〉が素早く鳴動し、〈ん?地産地消?なに?〉と思ったのを今でもハッキリ覚えています。何故かその場はなんとなく知っている感じで取り繕ってしまい、その後、慌ててネットで調べたりして(笑)。

今回この投稿を書くにあたって、約20年ぶりに〈地産地消〉について色々と調べ、その〈メリット・デメリット〉も含めて以下にまとめてみました。

〈地産地消〉とは
“地域生産・地域消費”の略語で、その地域で生産された様々な農産物(資源)をその地域で消費する事。また、その地域の農業関係者と消費者を結びつける試みを指す。
具体的な取り組み例としては、直売所やスーパーなどで地域の農産物を販売したり、学校給食・病院や老人福祉施設の食事などに、積極的に地域の農産物を利用したりすることが挙げられる。

〈地産地消のメリット〉
消費者にとってのメリットは、①鮮度の高い農産物を食べられる② 消費者自らが生産者を確認でき、安心感を得られる③地域の農産物に触れる事で、それらの理解を深める機会になる④長距離輸送には多くのエネルギーが消費され、多くのCO2が発生するが、それを削減する事で環境負荷を軽減できるetc…
生産者にとってのメリットは、①消費者の反応や評価が直接届く事で、地域の消費者ニーズを的確にとらえた効率的な生産を行うことができる②比較的利益率が高い③生産者が直接販売することにより、自ら価格を設定する事ができ、また〈少量な産品・加工品・不揃い品・規格外品〉も販売する事ができるetc…

〈地産地消のデメリット〉
生産者にとっては、出荷に際した梱包や販売・宣伝活動など、農産物の生産以外の能力が求められ、その労力が負担になる②売れ残った食品ロスが生産者の負担になる事がある③学校給食等への出荷には、ある一定量の安定供給が必要④不揃い品による調理者への負担etc…

今年の3月末、ホワイトデーが終わってひと息ついた頃、以前から構想のあった「1年間リレー形式で、色々なフルーツタルトを販売する!」という事に挑戦すべく、その開発に着手しました。そして現在までに、〈金柑のタルト〉〈いちごのタルト〉の2種類を販売。しかし、残念ながら上記の2商品で使ったフルーツは、地元小金井産の物ではありません。ちなみに金柑は熊本。苺は静岡・埼玉・福島・秋田の物を使用しました。でも、その間も〈地産地消〉の事は頭の片隅にはあって。

「地元に美味しいフルーツがあるなら、それを使いたい」

そして先日重い腰を上げ、ネットで色々と調べてみると、当店のある小金井市では小規模ですがブルーベリーの栽培が行われているとのこと。丁度今の時期がその最盛期らしく(8月末には終了)。ちょっと前に〈いちごのタルト〉が終売になり「次は何にしようか?」と思案している所だったので、これはいわゆる〈渡りに船〉。使わない手はありません。
早速、リサーチを開始。まず、常連様に農業関係の方がいらっしゃったので「この辺りのブルーベリー農家でお知り合いの方はいらっしゃいますか?」と伺うと、「幾つか知り合いはいるけど、ファーマーズマーケットに行けば複数の農家の小売りパックを購入できるので、ご自身で美味しいと思うブルーベリー農家を選んでみてはいかが?」とアドバイスを頂きました。
一旦動き始めれば、そこからは早い私。善は急げとばかりに〈ムーちゃん広場〉なるファーマーズマーケットに行くと、伺った通り複数農家の直売ブルーベリーが!
早速それらのブルーベリーを購入→試食し、私が1番気に入ったのは〈よこきファーム〉さんの物。以前〈苺のタルト〉の時にも書きましたが、フルーツをケーキに使う際に私が重要視しているのが、〈甘味〉も然ることながら〈酸味と香り〉。フルーツにもよりますが、生食用・ケーキ用・加工用と〈用途別〉ってあると考えます。生食用は糖度の高さがとっても重要。ですがケーキ用に使うフルーツには、私は〈甘味〉より(甘味はタルトやクリーム等他の部分にしっかりと入っているので)、それ以外の〈豊潤な香り〉と〈爽やかな酸味〉が欲しいんです。〈よこきファーム〉さんのブルーベリーはその点をしっかりとクリア。やはり食べ比べてみると、各農家さんのブルーベリーそれぞれに少なからず個性があることが分かり、併せて、いつも使っているアメリカ産の物にあまり個性が無いことも分かってしまいました(勿論、1年を通しての安定供給には敬意を払います)。
そして満を持して一週間前、仕事の合間に時間を作り、自転車に乗って〈よこきファームさん〉を訪問してきました!
思っていた通り、そこにはたくさんの種類の新鮮な野菜やフルーツが販売されており、その中にお目当ての〈ブルーベリー〉も!

ブルーベリーの木にたくさんの実が!


ネットごしにもわかるプリップリのブルーベリー

たまたまその時は、代表の横山さんにお会いする事はできなかったのですが、農作業員兼販売員の方に色々と伺いました。
今の時期の栽培フルーツは〈ブルーベリー〉〈ブラックベリー〉〈マクワウリ〉〈小玉スイカ〉との事。
〈マクワウリ〉は、私の父が北海道出身ということもあり、親戚からよく送られてきた馴染みのあるフルーツで、言うなれば“安価なメロン”。ちなみにうちの両親は別名の〈マッカ〉と呼んでいました(笑)。
〈ブラックベリー〉はフランスでよく使ったフルーツ。フランスでは〈ミュール〉と呼ばれています。実物を見るのはとっても久しぶり。フランス以来です。黒い粒々な見た目が特徴的で、ブルーベリーのような?ラズベリーのような?ブドウのような?味の美味しいベリー(笑)。実際に購入して試食しましたが、とっても美味しかったです。もしかしたら、種の歯触りが苦手な人がいるかも?  なフルーツですが、私にとっては懐かしの味。ブルーベリー目的で伺って、思わぬ再会に興奮してしまいましたが、今回は当初の予定通り、使うのはブルーベリーで(笑)。

黒々艶々ブラックベリー。こちらも美味しい!

話をブルーベリーに戻すと、販売されていたブルーベリー〈大〉パックのお値段は、グラム換算で1g約¥2.5。普段買っているアメリカ産の物がだいたい1g約¥3.8なので、安い。安いぶん1つのケーキに使える粒数が増える事を考えると、新鮮で美味しい上にたくさんタルトに乗せられるとなれば、こりゃ言うこと無しです。早速購入させて頂きました。

1.今回ブルーベリーを購入した〈よこきファーム〉さん。場所は下記マップ① 
小金井農業マップ
出展 一般社団法人 小金井市観光まちおこし協会 かわら版 まろん通信 VOL.13

ようやく話を本筋に。
新作〈タルト オ ミルティーユ〉の説明を。
まずは名前から。前回の〈いちごのタルト〉に続き、第一候補は単純明快に〈ブルーベリーのタルト〉を考えましたが、今回は第2候補のフランス語〈タルト オ ミルティーユ〉に。
何故か?答えは簡単、ただ単に英語の〈ブルーベリー〉よりフランス語の〈ミルティーユ〉の響きの方が昔から好きなのです(笑)。タルトとミルティーユの間の〈オ〉も実は重要で、この〈オ〉は前置詞『à』が『aux』に変化したもの。その『à』には色々な意味がありますが、その一つに『~の』『~入りの』といった所属を表すものがあり、なのでこの場合は『aux』〈オ〉があって初めて〈ブルーベリー“の”タルト〉になる訳です。若い頃、一生懸命フランス語の習得に励んだ者として、日本にいても出来るだけちゃんとしたフランス語を使いたいな~って思っています。すみませんがお付き合い下さい(笑)。ちなみに少し脱線してしまいますが、最近気になった事として、パン屋さんの店名にフランス語っぽい〈ブーランジェリー〉と付けているお店がたくさんあります。それは実は間違いで、フランス人には通じないもの。正解は〈ブーランジュリー〉 (リアルな発音は“ブーロンジュリ”ですが…)。小さな『ェ』と小さな『ュ』の、いわゆるケアレスミス程度の“小さな間違い”ですが、フランス語的には“大きな間違い”。私的には〈パン屋さん〉と〈パン屋もん〉くらい違うので、違和感が半端ないです(笑)。たぶん〈パン職人〉を表すフランス語〈ブーランジェ〉に引っ張られての間違いかと。周りにあるパン屋さんの屋号をご確認下さい。この間違いで溢れています(笑)。やはり大事な〈店名〉なので、間違ったフランス語使いはとっても残念でなりません。


話を戻します。
上記写真にある新作〈タルト オ ミルティーユ〉の構成は、下から、はったい粉のパートシュクレ(クッキー)、接着用バニラのバタークリーム、はったい粉のクレムダマンド(アーモンドスポンジ)、自家製ブルーベリージャム、進藤特製タルト用バタークリーム、〈よこきファーム〉さんのブルーベリー、粉糖+金粉になります。

勿論いつも通り、そのパーツ1つ1つに〈こだわり〉があります。
〈オリジナリティ溢れるタルトの土台部分〉は、〈タルト〉とは言いながら、作る工程を考えれば〈タルト〉と呼んで良いのかも疑問な物ですが…。まずはそっちの説明から。
まず、一緒に焼くのが通例のパートシュクレ(クッキー)とクレムダマンド(アーモンドスポンジ)は、あえて別々に焼きます。パートシュクレは円形に抜いてシルパン(穴開きシルパット。焼成中、底面からも水分が抜ける優れ物)で焼き、クレムダマンドの方はセルクルに流し、しっとりと湯煎焼きに。冷めた後に、両者をバニラ風味のバタークリームで接着します。この手法は、時間の経過と共に〈底のクッキー生地が湿気る問題〉をどうにか解消したいと考え、そして辿り着いた私の〈最適解〉。具体的には、クレムダマンドから下りてくる水分や油分を、冷蔵される事により固体になったバタークリームがブロックし、その下のパートシュクレ(クッキー)に移行しない様にする。この面倒な手間によって、数日はクッキーのサクサクをキープできる様になりました(とはいえ、勿論、購入したケーキはその日のうちに食べて下さい!)。
そして更に味の一捻りとして、パートシュクレとクレムダマンドの両方に香ばしい風味の〈はったい粉(大麦焙煎粉)〉を加え、味に奥行きを持たせています。

〈自家製ブルーベリージャム〉に使うブルーベリーは、勿論〈よこきファーム〉さんの物。旨味を引き出す為に2日に分けて水分を抽出し、じっくりコトコト煮込んで濃厚なジャムに。こちらにもしっかりとした酸味が欲しいので、そこは少しのレモン果汁で補って。フランス修業の際にお世話になった師曰く「フルーツは生のまま使うだけでは二流。コンポートやジャム等、その加工技術に長けてこそ一流のパティシエ」との事。今でもその教えを守り、当店のタルトを作る際には味の補強を兼ねてフルーツの加工パーツを1つ、必ず入れる事にしています。味のバランスを考えると、その方が絶対に美味しい。

〈進藤オリジナルのバタークリーム〉について。〈タルトにはカスタードクリーム〉が常識とされている不思議。タルトに合わせるカスタードクリームは、滑らかさ・旨味こそ評価するものの、接着剤としての機能には大いに疑問があり。その問題を解消する〈答え〉を長年探していました。そして辿り着いたわたしなりの〈最適解〉は、進藤特性のバタークリーム。バターが主体なら冷蔵で固まる為、しっかりフルーツをホールドする事が可能に。更に、カスタードクリームに負けない最高の〈旨味・口溶け〉を目指し、限界までクレムアングレーズ(バニラアイスの素)を加えたバタークリーム。作る前からしっかりとしたイメージができていたので、今年の3月に思い立って試作に取りかかってから、4~5回であっさりと理想の物が完成しました。できる限り多くの水分を乳化させるために、普通の倍量の卵黄でクレムアングレーズを焚く事がレシピの肝に。もちろん、進藤洋菓子店こだわりのタヒチバニラもたっぷりと使用しています。この〈進藤特製バタークリーム〉の完成によって、今後のタルトの商品化とバリエーション化が可能になったと言っても過言ではありません。いや~、流石に形になった時は興奮しました(笑)。

最後に、厳選した小金井市〈よこきファーム〉さんのブルーベリーを盛り盛りに。これにより、今回のテーマである〈地産地消の推進〉もクリア。先程も述べましたが、甘味・酸味・香り共に均整のとれたブルーベリーです。本当に美味しい。新鮮なのでプチプチと弾ける食感も楽しいです。シャインマスカット然り、さくらんぼ然り、ブルーベリー然り。口の中で粒が弾けるフルーツって良くないですか?  私的には、皮が破れて中からジュースがジュワ~っと溢れ出すと、大地の恵みを頂いている感じが強くして。
そして食べ手の咀嚼によって出てきたそのジュースと、タルトを構成する他の素材とが混ざりあった時に完成する、魅惑の口内調理。是非とも体験して頂きたいです。

今回の新作〈タルト オ ミルティーユ〉も、味のバランス(一体感)・食感・糖度等、細部にまでこだわった1品。なので、こちらのケーキも〈違いの分かる大人向き〉になります。
文中にもありましたが8月末には今年のブルーベリー収穫が終了との事なので、あと3~4週間後には終売予定。〈お見逃し〉ならぬ〈お食べ逃し〉の無いよう、気になった方はどうぞお早めに!

では、いつも通り〈論より証拠〉。
ご来店をお待ちしております。



この記事が参加している募集

至福のスイーツ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?