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中華の日々⑪ 東の男、アナーキー広場を経由して女の子たちから花をもらう

収入面などでは条件を満たしていたので、中国に飛ぶ前ぐらいまでは弱者男性を名乗ってみていたが、どうもしっくりこなかった。中国で買ったギターのブランド名がEastmanだったので、以来「東の男」を名乗ることにした。そんな今日この頃。

行ってみるかと来た深圳の大公園では、当初はギターを弾く気はなかった。というのは、予想していたよりも遥かに穏やかかつ爽やかな雰囲気だったからだ。子連れの家族が非常に多かったが、それ以外も老若男女まんべんなくおり、みな笑顔で晴天の公園をエンジョイしていた。(こりゃあ、和を乱すべきではないよなあ)と思い、まあそれならおとなしく散歩しようということにして歩いた。すると、なんだか穏やかな公園に似つかわしくない大音量が聞こえてきた。


(カラオケかなんかか?)
ベトナム人もそうだったが、中国人も野外カラオケが大好きらしい。それにしても常軌を逸した音量だ。バカでかい公園だというのに、距離を無視するかのごとく鳴り響いてくる。私はそういうのが大好きなので、いそいそと音のする方を目指した。すると広場に行きつき――

このアナーキーなカオスは映像でないと伝わらないとも思ったのだが、どうにもアップがうまくいかないのであきらめた。しかし、とにかくアナーキーなカオスだった。カラオケに興じるグループ、楽器の演奏を楽しむグループ、音楽にあわせて踊るグループ、そのそれぞれが互いに構わず自分たちの音を垂れ流していた。観衆はそれらのうちで自分の見たいものを眺め、かと思えばその観衆のそばではバドミントンに汗を流す人たちもいて、私があっけに取られていると路上に水で文字を書くパフォーマンスを老人が始めた——かと思えば文字を書き終えた老人はさっさとどこかへ去っていって、パフォーマンスではなく「書きたくなったから書いた」だけか?…ひたすらカオスである。

(こりゃあ、いいゾ~)
生来そういうのが大好きな私は満面の笑みで撮影を始め、勝手にその広場を「アナーキー広場」と呼ぶことにしたところ――胡弓を演奏していた車椅子のじいさんが近くで大道芸を始めたグループの観衆に混ざって、しかも大道芸の音楽に合わせて胡弓を演奏し始めたではないか。しかも、周囲の誰もまったく気にしていない……なんという無秩序な自由か。ごていねいにも音量測定計が近くに設置されており、眺めたところ70デシベルを超えていた。

アナーキー広場を後にした私は、静かなところに移動してから、自分もギターを弾くことにした。とはいっても遠慮がちに、怪しくない感じ(当者比)のギターを弾くことにしたのだが、弾くうちにエキサイトしていつも通りの勢いになってしまった。

そんな時に、小さな女の子たちが、摘んだのだろう手にしていた花をくれたのだった。さすがの私もギターを弾く手を止め、「謝謝、謝謝」と口にした。女の子たちは、はにかみながら走り去り、残された私は…とりあえず、いただいた花をギターに載せて写真を撮り、それから自分の頭に活けてみた。ちゃんと活けられた。剣山というよりも鳥の巣みたいなものなので、活けるというよりモジャモジャに絡みついたみたいになったが。

ともあれ私は浮かれて上機嫌になり、また女の子たちがいなくなったこともあって、それからは心置きなく不穏さを含んだメロディーを弾き倒したのだった。

帰宅して鏡を見ると、まだ花は頭に活けられたままだった。この先もクソみたいなことはクソみたいにあるだろう。しかし、この花だけで、私は死ぬまで世界一の過報者であると断言できる(果報者ではなく)。

というのが先週の土曜日の事。さて今日は何が起こるか。現在北京時刻10:05。快晴。秋の涼しさ。さあ出かけよう。ギターを背負って。


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