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家族とファミリー【5分で読める短編小説(ショートショート)】

今日、僕は親になり、かけがえのない「家族」が増えた。


僕は高校を卒業するまで施設で育った。

施設内には様々な理由で親元を離れて生活をする子どもたちがたくさんいたが、「親が誰なのかすら分からない」のは僕だけだった。

それもそのはず、僕はまだ新生児だった時、へその緒がまだ付いた状態で「赤ちゃんポスト」に置き去りにされていたらしい。

戸籍も名前すらもない状態で「捨てられた」僕は一体、誰なんだろう?自分で自分が誰だか分からなかった。正確には今も自分が誰なのか分からない。

だから僕には血の繋がった家族が一人もいない。もちろん、施設で育った仲間たちは友達以上の存在であり、「ファミリー」という意識はある。

しかし、うまく言葉で伝えることはできないがそれは「ファミリー」であって「家族」ではない。

たぶん、皆も同じだろう。皆は親や兄弟のことが「家族」で、僕ら施設仲間を「ファミリー」と思っている。その違いである。

とは言え、僕には元々「家族」がいないのでそれすらも皆とは若干感覚がずれているかもしれない。

「ファミリー」の強い絆もいいが、やはり「家族」の血の繋がりも欲しいと思う。せめて母親の苗字だけでも分かれば・・・

そんな僕にもう直ぐ家族ができる。

高校を卒業後、しばらく職を転々としていたが、今の職場(ガソリンスタンド)で出会った5つ年下の女性と結婚を前提にお付き合いしている。

高校の時からバイトで入った彼女は現在19歳。来年、彼女が二十歳になったら籍を入れようと話している。

ただ、僕には親も兄妹も親戚すらもおらず、呼べる人も限られるので式は挙げず籍だけ入れることにしている。

徐々に彼女の誕生日が近づき、新居となる物件も二人で探したり、新婚旅行に行く場所などを探している時は本当に楽しくて、その時が待ち遠しかった。

血が繋がっていなくても僕にも「家族」ができると思うとそれだけでウキウキと心が躍った。

そして、将来、二人の間に子どもが出来たら、血の繋がった家族が初めてできることになる。

少々、気が早いが「子どもは3人欲しいね」など話している時が本当に幸せだった。

でも、ひとつだけ引っかかっていることがある。

それは、彼女のお母さんに結婚の挨拶に行った時の事、初めてあったのに「どこか懐かしい」という感情を覚えた。

そして、何故か胸騒ぎがした。

僕は胸騒ぎの原因を彼女に話、念のため、結婚前に二人でDNA鑑定をすることにした。

その結果、99.9%、僕と彼女は兄妹という結果が出た。

結果を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。

あれほど欲しかった「血の繋がった家族」だったのに・・・

法律的には他人であり、結婚することもできる。もちろん、子どもを作ることさえ可能だ。でも、僕たちは話し合った結果、「特別養子縁組」制度で子どもを育てることにした。

ちなみに、縁組成立のためには、養子となる子を6ヵ月以上監護していることが必要となり、その監護状況等を考慮して、家庭裁判所が特別養子縁組の成立を決定する。

そして、今日、家庭裁判所から正式に養子縁組が認められた。

血の繋がりなど関係ない。この子は大事な僕の「家族」だ。

神様などいないと思い続け、いるなら何故僕だけこんな目に合うんだと運命を恨んだこともあるが、今はこの子の親に、そして家族になれた運命に心から感謝している。










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