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最後のお弁当【5分で読める短編小説(ショートショート)】

離乳、オムツ、おしゃぶり・・・

子育てをしていると、何度も「最後」の瞬間が訪れ、その度に息子の成長を実感し、嬉しい反面、寂しさがこみ上げてくる。

ずっと私たち両親のことを「パパ」「ママ」と呼んでいた息子が、小学校3年生の時、なんの前触れもなく、ある日突然「お父さん」「お母さん」と呼びだした。

嬉しい反面、ちょっとだけ寂しく、気恥ずかしさを感じたのを覚えている。

そして、気が付いたら自分の事を「ボク」ではなく「オレ」と言うようになり、徐々に成長していった。

息子が最後に人前で涙を流したのはいつだろう?「人前で泣くこと」をいつしか卒業し、気が付くと、いつのまにか男になっていた。

そして、高校3年生になる息子に、また最後の瞬間が訪れた。

給食も食堂もない高校に進学した息子。そんな息子のため、日曜日以外の3年間、ほぼ毎日、朝5時に起きてお弁当を作った。

そのひとつひとつに思い出がある。

息子が大好きなカレーをタッパーに入れた日は、帰宅するなり『弁当にカレー入れんじゃねーよ!』と怒られ、良かれと思ってキャラ弁を作った日も『ガキじゃねーんだから勘弁してくれよ』と言われケンカになり、一週間、日の丸弁当しか作らなかったこともある。

翌週、息子が謝って来たので、久々に気合を入れてお重を作ったら『運動会じゃあるまいし、あんなにたくさん食べきれないよ!』と文句を言われた。

そんな息子への想いと思い出が詰まったお弁当箱。

明日は、息子へそんなお弁当を作る最後の日。何を作ろうか迷った挙句、一度も文句を言われたことがない定番の『唐揚げ&のり弁』に決めた。

翌朝、5時に起き、キッチンへ行くと息子のお弁当箱がテーブルに置いてあり、手紙が添えてあった。

『お母さん、3年間、毎日お弁当を作ってくれてありがとう。感謝を込めてお弁当を作りました。朝ごはんに食べてください。そして、自分で作ってみて『これを毎日やってくれていたんだ』と実感しました。3年間、本当にごちそう様でした。召し上がれ~。P.S お母さんのお弁当で一番好きなメニューにしました。 僕にとってのおふくろの味です。』

思わず涙が零れ、朝から胸がいっぱいになった。

お弁当箱を開けると、『唐揚げ&のり弁』だった。








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