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「神様の御用人」 浅葉なつ

「おまえさんなら、立派に役目を果たせるだろうよ。」



「神様の御用人」 浅葉なつ


良彦は、京都に生まれ育った20代なかばのフリーター。


小学生から野球少年で、高校時代には甲子園に1度だけ出場。大学にも推薦で進み、卒業後は社会人野球部に在籍していました。


しかし


練習中にチームメイトと接触したことで、右ひざの半月板を痛めて手術することになったのです。


時を同じく、会社の経営悪化で野球部が廃止。


「不幸って重なるよな……」


ある日アルバイトを終え、自宅へと歩いているときのこと


歩道から地下へと降りる階段の脇に、一人のお年寄りがうずくまっていました。


「大丈夫ですか!?」


良彦は、お年寄りに声を掛けます。


お年寄りは、呼吸ができていない状況。


良彦は平手で背中を何度か叩きます。


すると、のどに詰まっていた豆もちがでてきました。


お年寄りは良彦にお礼を言ったあと、
とても謎めいたことを言い出すのです。


「敏益は、いい孫をもったもんじゃの」


敏益は、一年前に亡くなった良彦のおじいちゃん。


良彦におじいちゃんから預かったものがあると言い、緑色の冊子を渡すのでした。


なんか、謎めいてます。
このあと続く物語になにかあるのかもしれません。


「おまえさんなら、立派に役目を果たせるだろうよ。あとのことは狐に聞いてくれ」


ひじょーに、意味深なことを行って立ち去ります。


翌日


閉じた状態で机の上に置いていた緑色の冊子のページが、開いた状態になっていました。


そこにはなにか文字が書かれています。


「・・・・・・方・位・神・・・・・・」


良彦の自宅から10分ほどの場所に、大主神社があります。


その神社には、良彦の同級生の孝太郎が奉職していました。2人は高校時代から、ほぼ毎日顔を合わせている仲。


孝太郎に訊いた方が早いと、この冊子を持って行きました。


「あ、ちなみにこの方位神って、どこにいんの?」


孝太郎は、指をさして


「二の鳥居をくぐってすぐだよ。
境内から階段下りて、右手側」


良彦が、その社に行くと


「お前が御用人か」


としゃべる狐がいたのです。
あの謎の老人が言っていた狐なのか?


狐は黄金(こがね)という名前で、その冊子は宣之言書(のりとごとのしょ)というそうです。


宣之言書には、御用がある神様の名前が浮かび上がるのだそうです。


この宣之言書を手にした者が神様の御用を終えると、神様から御朱印をもらって御用聞きが終了するというシステムになっているといいます。


黄金は良彦に


「宣之言書を手にした者は、力を削がれた神に代わって、その御用を聞き届けるのが役目だ」


と良彦に言いました。


良彦のおじいちゃんがその役目をしていたのですが、亡くなってしまったので、代わりの御用人が必要になり、宣之言書が良彦の元へと届けられたのです。


そうして


良彦は御用人となり、狐がお世話役?執事?のような関係となり、神様の難題を解決してゆくことに。


方位を司る狐の神様・黄金の御用は、「神に畏怖と敬いを持つように取り計る」でしたが、なにか様子がおかしいです。


良彦は、賽銭箱の後ろに落ちていた1冊の雑誌を拾います。


雑誌を開いて見てみると、辻利(宇治茶の老舗・抹茶パフェが一番人気)が経営するお店のページにやたら肉球が!


「食べたいんだ? 抹茶パフェ……」

「ち、違う! それはたまたま前足が
当たっただけで、決して食べてみたいなど━━」


すると、宣之言書が淡く光ったのでした。


甘いものが好きな狐の神様の本当の願い事は、『抹茶パフェ』が食べたかったんですね。


こんな風に、良彦と黄金の読んでいて楽しくなる会話がたくさんあり、神様がとても身近に感じられました。


神様も人間と同じように悩んでいるのですね。


抹茶パフェに目がない方位神

パソコン・ゲームオタクな神様

1000年の恋をひきずる神様

自治会のおじさんの神様


なんだか神様が、人間みたいに感じませんか?


最後に、良彦のおじいさんの想いが心をあたたかく包んでくれました!


ワンポイント神様講座では、知らなかった神様のこと、神社のこと、神道のことが学べます。


今すぐにでも、神社に行きたくなる小説でありました。



【出典】

「神様の御用人」 浅葉なつ アスキー・メディアワークス


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