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「話上手で心をつかめ」 浜村淳



「軽妙」「軽快」は、人を楽しませる。「軽薄」「軽挙」は、人を傷つける。まだまだわが国では、この違いがわかる人は少ない。」




「話上手で心をつかめ」 浜村淳



さて、みなさん。


ラジオの深夜放送は、よくお聴きでしょうか?


僕の学生時代はラジオの深夜放送が全盛で、ヤングタウン ・ ヤングリクエスト(関西圏)・ オールナイトニッポンなどをよく聴いていました。 


現在40~50代の方なら、深夜にこれらの番組をよく聴いていたのではないでしょうか。


そんな中でも


関西の深夜放送としては少し異色で、格調の高い番組がありました。


ラジオ大阪で毎週土曜日の深夜に放送されていた「サタデーバチョン」


DJは、浜村淳さん。


浜村さんと言えば、朝の「ありがとう浜村淳です」 という長寿番組が有名ですが、この深夜番組も当時若者の間で人気がありました。僕も毎週楽しみにしていた番組でした。


映画の解説はもちろん、本や歴史の話(浜村さんは、とくに古代史に定評が
ありました。)、社会・世相の話、またアニメソングも頻繁にリクエストでかかっていました。


深夜にしっとり、浜村節 が耳に心地よく響きました。難しい社会の問題などもわかりやすく、おもしろく採りあげ、話そのものに興味が湧く浜村さんの「喋り」に、ひたすら酔っていました。


この本は、そのラジオ番組を髣髴とさせる映画のお話、会話を織り交ぜながら「話し上手」「会話術」について流暢に語っています。


こんな感じで

会話もまた「軽妙」「軽快」であるべく、磨かねばならないだろう。そこで、映画の中に、このテーマにふさわしい作品を探してみた。「ある愛の詩」があった。

(中略)


オリバー・パレットは、大金持ちの
息子で、ハーバード大学の学生である。


曽祖父が学校に大講堂を寄贈し、その
建物がバレット講堂と呼ばれている。


(中略)


試験が近いある日、となりのラドクリフ
女子大の図書館へ歴史の本を借りに行く。


貸し出し係として座っていたのは、ここの
女子大生でアルバイトのジェニファである。


美しいが、なまいきそうで、メガネをかけている。


「見るからに頭の弱そうな、甘ったれ坊やが
来たわ」と、彼女はキメつける。


「違うよ」と、オリバーはウソをつく。


「ボクは貧しい家庭の秀才なんだ」


「あら、貧しい家庭の秀才というのは

私のことで、あなたはボンヤリなのよ」


初対面の女の子に、こうまでからかわれて、
オリバーが本気で怒らなかったのは、
やっぱり彼女がかわいらしかったからだ。


「どうして君が秀才で、ぼくが
ボンヤリなんて言えるんだ」


「だって私、あなたみたいな人に、
お茶に誘われても、行ったりしないもの」


「冗談じゃない、ぼくは君を
お茶に誘うつもりなんか、まったくないよ」


「だからあなたはボンヤリなのよ」


快調なすべり出しである。
二人は、レストランへ行った。
彼は誇らしげに名のる。


「ぼくはオリバー・パレットだよ。
大学に講堂を寄付したひとの、ひ孫だ!」


「まあ!そして三代目で落ち目というわけね」


「おい、いいかげんにしろよ。
ぼくが落ち目というのなら、
どうして、ここの支払いをさせるんだ」


「あなたはカッコイイから  ━ 」

ジェニファは、父ひとり子ひとりの
貧しいイタリア移民の菓子屋の娘だった。


オリバーは、もうすぐホッケーの
試合を控えている。
ジェニファは応援に行く約束をした。


試合の日、オリバーは彼女が見ている
というので、ハリキリすぎて、
たびたび反則をした。
彼女は途中で帰ってしまう。


試合が終わったら夜になっていた。
オリバーがさびしい思いで彼女の
姿を探したら、スカーフで顔を
つつんだジェニファが、茂みから
飛び出して来た。


「ここよ!寒くて死んじゃいそうよ!」


「ジェニー!」


うれしさのあまり、彼は彼女の額に
思わずキスをする。


「あたし、いいって言った?」


「えっ?」


「キスしてもいいって言った?」


「ごめんよ、夢中だったもんで」


「あたしは夢中じゃないわ」


このナマイキが、たまらなく
いとおしくて、彼ははっきりと、
彼女の唇に長いキスをしてしまう。


終わってから彼女が言う。


「イヤだわ」


「なにが?」


「キスの好きなあたしが、イヤだわ」


やがて、二人は結ばれる。
そのあと、彼が聞く。


「ジェニー、ぼくを愛しているかい?」


「あなたはどう思っているの?」


「愛していると思うよ。きっと ━」


「オリバー、あたし、あなたのことを、
愛してなんかいないわ」


彼は驚く。
そしてがっかりする。


そこへ彼女の言葉がとびこんでくる。


「愛している、なんてもんじゃないもの。
ものすごく愛しているのよ、ものすごく。
オリバー」


映画 「ある愛の詩」は、会話がとてもしゃれていた。


軽妙にして軽快、テンポの速さも快く楽しい。こんな感じの浜村さん特有の名調子でラストシーンまで語り上げます。


結局ジェニファは、オリバーの両親に結婚を認められませんでした。


両親とケンカ別れしたオリバーは、学費も生活費も打ち切られました。


オリバーはアルバイトに精を出し、働き・働き・働きます。汗まみれになって働く日が続きます。


でも


つらいと思ったことはありませんでした。


なぜなら、愛に満ちた二人の暮らしがあったからです。


そして


オリバーは、優秀な成績で法学部を卒業! 弁護士となったのでした。


幸せをつかんだオリバーとジェニファ。


しかし


幸せは束の間だったんですね。


二人の間には子どもがなかなかできず、病院で調べてもらっているときに、信じられない  事実・事実・事実 を知らされるのです。

「奥様は白血病に犯されていらっしゃいます。
あと、どれくらいのお命か、見当がつきません。」


・・・・・・

「お願いがあるんだけど。
わたしを、きつく抱いてちょうだい」


とジェニファは、オリバーに言いました。

「ありがとう、オリ・・・・・・」


これが、ジェニファの最後の言葉になってしまいました。


オリバーは悲しみの中、病院を出ます。


すると


オリバーの父親が事情を知って、病院に現れました。

「何か、私にしてやれることはないかい?」


と父親はオリバー言いました。

「お父さん、愛とは決して後悔しないことです。」


とオリバーは父親に言いました。


浜村さんは、真心を込めたこの言葉について最後にこう締めくくりました。

ひとを愛するということは、相手をいたわり、思いやり、ついには、相手の身がわりとなって死んでも後悔しないことをいう。

「愛とは後悔しないこと」という言葉には、そのような意味がある。

主人公二人の、そのような純粋で激しい愛を、小説も映画も、真心こめていたわりつつ描きあげたから、世界中の人々の胸を打ったのである。


言葉は生き物だと思います。


素敵な言葉に真心が加われば、これに勝るものはないでしょう。



【出典】

「話上手で心をつかめ」 浜村淳 ひかりのくに



P.S.

今回は、浜村さんが語られているたくさんのお話から映画「ある愛の詩」をご紹介しました。「サタデーバチョン」と浜村さんの語りを意識してこの記事を書いてみました。

僕は浜村さんのこのラジオ番組が本当に好きでした。今、記事を書く上でも、かなり影響を受けているような気がしています。

本書のラストでは浜村さんによるチャップリンの映画と、チャップリン愛を感じる長い長いお話がありました。

また機会がありましたら、ご紹介できたらと思います。

過去の浜村淳さんの本の記事です。


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