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竜とそばかすの姫

監督、脚本、原作 細田守
キャスト 中村佳穂、成田凌、染谷将太、玉城ティナ

竜とそばかすの姫を鑑賞しました。

細田監督の作品は、「時をかける少女」「サマーウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪」「バケモノの子」は観ています。
上記だとおおかみこどもの雨と雪が好きでした。こどもたちのそれぞれのラストの決断とか。狼という動物への愛情を感じるところとか。

さて、「竜とそばかすの姫」について。

As(実際の自分の本質を反映したアバター)を借りてUという仮想世界を楽しめる世界。
主人公は、過去のトラウマが原因で大好きなのに歌が歌えなくなっています。しかしAsの姿(Bellと名乗っています)では歌うことができます。
Uの中で絶大な人気を誇る歌姫になりました。

クジラが雄大に泳いでいたり、Uの世界はワクワクしました。
Bellのデザインもすごくかわいい。
現実世界ではさえない生活をしていても、仮想世界では華やかな別の人生を生きられる。誰もが憧れる世界です。
その理想であったはずの仮想世界が、だんだん現実と変わらない窮屈なものに変わっていくのは皮肉です。

現実世界での主人公の苦悩も丁寧に描かれていました。

他の方のレビューで多く指摘されているのが「ネットリンチの扱い」「虐待の扱い」

ネットリンチや、個人情報を探る過程はリアルに感じました。関係ない人まで釈明の為に秘密を話さなくてはいけなくなったり。
主人公たちは何でそんなに竜の素性を探るの? 自分だって探られたくないんじゃない? そうやって大勢と一緒になって探った結果、いろいろな人が傷ついたよね? 
起こったことに対する代償として、主人公が顔を晒すという選択を取るのは自分はアリな展開でした。
(ネットリテラシーを考えるなら、別の方法で償いと本気度を見せるのも良かったかもしれませんが)

しかししのぶ君。すずに顔を晒せなんて言うなら、自分も一緒に顔出しするくらいのリスクは背負ってみたらどうなんだい
周りの大人たちや友達も、全員で一緒に顔出しすればすずに向けられる負担も分散できたのではないか? 
この仲間たちは、竜と弟の秘密を覗き見ながら、リスクを背負わず傍観するだけなのか……という気持ちにはなりました。

竜から見た時、すずは一人で自分に向き合ってほしい。だから物語としてこの方が良い、かもしれないのですが。
顔を晒させたり一人で虐待を止めに向かわせたり、かなりのリスクをすずに背負わせておいて、「やっと対等に付き合えそう」って、ずいぶん上からやないか……? すず、その男やめとき……? 

クライマックス、竜と弟のところに行く場面。
あれだけ遠くて時間がかかっていたら、児相を待っていても同じなのでは? と思ったり(笑)。まあそこは物語なのでOKです。
個人的に思うのは、すず一人で行かず、父親も一緒に行った方がよかったのではないかということです。一人で駆け出したすずと、追いかけてきた父が合流する。

その方が

・父子関係の改善
・竜と弟の父との対比(それにより竜と弟が実父への情の見切りをつけ、施設に保護してもらう決意につながるとか)
・大人が一緒に行き責任をもって今後も交渉することで解決につなげる(その過程で竜の父側にとってもシングルファザー同士、闇から脱出する機会にできるかも)
・一人で助けに行き亡くなった母と、周りの助けを得て生還した娘の対比(母親の気持ちを理解する+過去からもう一歩進んだ選択を得る)

など、テーマへの回収がわかりやすくなった気がします。

本当の強さって言うのは、何でも自分でやろうとすることじゃない。必要な時には必要な助けを求めてもいいんだよ。


もしかしたら監督は、そんな都合の良いことはない。虐待は簡単に解決しない、ただそれでも、Bellの歌というよすがを持って耐えていくんだと言いたかったのでしょうか?
それが今作時点での、監督の中の答えなのでしょうか。
「今の日本はそういう世界なんだ」と伝えたいのでしょうか。たしかに、そういう世界なのかもしれません。
諸々をすべて飲み込んだうえでこの展開なら、それを受け止めて考えます。


物語で起こる苦しみの解決が、あくまで傷ついた子供であるすず一人に委ねられていて、誰も本質的には助けてくれない。すずは一人でがんばる。そこに意義がある。というのことを、何とも悲しく感じるのは、私が子供を見守る側になってしまったからかもしれませんね。
ターゲット層であろう10代の子たちには勇気づけられるお話となっていたら良いのではないでしょうか。


細田監督の作品は、親子関係の問題や、ティーンの学校生活の苦しさを描いたものが多いです。
きっと追求していきたいものがあるのだと思います。その追求の先にある、救いや答えを知りたいです。
その道程で生まれるひとつひとつの作品を楽しみにしています。

この作品には美女と野獣のオマージュと思われるシーンが多く観られます。
私も美女と野獣が好きなので、わかる~いいよね~と思いながら観られたのは楽しかったです。

カヌー部の男子と美少女のラブコメとか、ああいう軽いシーンも好きです。

一つ気になったのは、正義のふるまいをしているキャラクターは、なぜ運営が持っているのと同じ能力を持っていたのでしょうか?
そこはよくわかりませんでした。

【追記】
他の方の感想を観ていて、「ジャスティス=竜の父」かもしれないことがわかりました。
そうだとするといろいろ腑に落ちます。

私はこの後、竜たちはどうなったのか。恥をかかされ逆上した父親に下手したら殺されてしまうのでは? という心配をしていたのですが。
すずにBellを見、さらに竜たちを守る姿に失った妻を重ねたなら。
竜の正体が自分の子だとも知ったなら。
あの後心境の変化があったかもしれません。
息子がBellの歌に、母を失った悲しみで共鳴したように、父親もまた、妻を失った悲しみを、やり場のない怒りを、Bellの歌に救われる未来があるのかもしれません。

個人的には、父子は別々で暮らしたほうがよいと思います。父親の心のケアは子供にさせることではない。そして虐待の代償は背負わなければなりません。
再構築できるラインは越えていると感じるので、子どもたちは優しかったころの思い出だけ抱えて、いや、それすらも捨てていいから、別の温かい場所に行ってほしいです。
大人になったころには、分かり合える時が来ても良いと思いますが、今は距離を空けた方が良い関係になれるのではと思いました。
竜と弟の気持ちは、本人たちにしかわからないので、言い切ることはできませんが……。


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