『模倣犯』(2)~よかった表現について~

『模倣犯』~よかった表現について~
2001年出版(日本)
著作、宮部みゆき  

 高校生の塚田真一は、犬の散歩の途中、公園で人間の片腕を発見する。そこから明らかになる連続誘拐殺人事件。失踪したと思われていた女性たちは殺されていた――。片腕とは別に発見されたハンドバックの持ち主・鞠子の祖父、義男。事件のルポを書くライター、前畑滋子。犯人を追いかける警察、武上・秋津・篠崎……そして犯人たち。
 マスコミにかかってきたキイキイ声の電話による犯行声明から、事件は動きだす。

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※ネタバレあり

~笑った表現~

 宮部みゆきさんは真面目な小説を書かれるのですがところどころ面白い表現があります。

 一番笑ったのは「BCIA(ババア中央情報局)」。
 主人公の一人・前畑滋子が近所の主婦のことを呼称したものです。
 
 栗橋浩美の幽霊と高井和明のサイボーグ。
 
 カズの妹(由美子)が、豹変したヒロミと、いつもと様子の違うカズに対して思った表現。これも面白かったです。
 アタマガイカレテルノダ

 ヒロミくんが両親を指した言葉。カタカナが面白いです。実生活で使ってみたい言い回しナンバーワン←

 自尊心肥大症

 ヒロミくんやピースについて繰り返し使われる単語。非常に秀逸で面白いです。宮部みゆきさんの造語なのか気になります。

 義男はこの電話が大嫌いだった。

 留守番電話の機会音声に対する義男の心情。「大嫌い」というこの上なくわかりやすい表現が面白いです。

 覚悟はしていたなんて言い方をするときに限って、本当の覚悟などできていないものなのだ。

 真理だと思いました。

 なぜ家庭内における公共の場所に設置されないのか。

「家庭内における公共の場所」という表現に笑いました。

 物書きは物書き同士で寄り集まって人生をおくる

「寄り集まって」というところとか、表現がツボにはまりました。また、世の中から見た物書きの印章ってこんな感じなのだなあと(笑)。

~「おおっ」となったシーン~

 内容をほとんど忘れてしまっていたので、電話もピースが当然かけていると思っていたんですね。犯人が主犯がピース、相棒がヒロミなことだけ覚えていたので。
 しかし、

「何で僕がタバコ吸うことを知っているんだ?」

 ここを見たとき、「これはヒロミくんだ!」とひらめいたのが個人的に快感でした。
 こんな怒り方をするのはピースじゃない、ヒロミくんだよな、と。
 キャラクターだけ覚えていて内容を忘れている人間ならではの楽しみだなと思いました。

~ぐっと来たシーン~

 日高千秋(女子高生)の「ゾウさんの滑り台」のエピソードはぐっときました。
 反抗期で、母親に嫌な態度ばかり取る援助交際女子高生。
 それでも、母親すら忘れていた、幼いころの思い出を覚えていたというところが根底的な親子の絆や母親への気持ちがわかってよかったです。
 宮部みゆきさんは人間の心の感情の機微を描くのがとてもうまい作家さんだと思います。

 有馬義男(被害者・鞠子の祖父)が自分を「弱々しいじじい」と自嘲したときに、刑事が言った台詞もよかったです。

「奴が私を気に入っているのは、私が弱々しいじじいだからでしょう」
「あなたは弱々しいじじいですか?」
「確かに犯人は、あなたを見くびっているようだ。しかしそれは、それだけこちらが有利だということです。犯人には、好きなだけあなたを弱々しいじじいだと思い込ませておけばいい。そしてそれを利用するんです。そのためには、あなたはけっして弱々しいじじいであってはならない」

 読んでいるこちらの気持ちも奮い立たされるような台詞です。

 犯人の電話を切った後に、義男が「鞠子はもういない」と顔を抑えてばれないように泣くシーンも胸に来ます。
 行方不明とはいえ、どこかで生きていると信じていた。しかし、犯人とのやりとりの中で、鞠子が死んでいるであろうことを悟ってしまうのです。
 犯人心理を読み解き、鞠子の死を察する義男の洞察力にも感心します。

 細かい情報がたくさん書かれているので感情移入がしやすいのも魅力です。
 脇役でも生活スタイルや性格を細かく描写してくれるので、リアリティを感じます。

 まやかしの希望は絶望よりも邪悪である。

 至言だと思いました。

 人間は見たいものしか見ないし、信じたいものしか信じない。

 これは『ソロモンの偽証』の映画でも同じような台詞があった気がします。

 共に鞠子の夢を見た。

 真知子(鞠子の母)は、娘の失踪により心を病み、閉ざしてしまっている状態です。
 真知子は意識がはっきりしていないと描写されている中で、ここだけは断定的に書かれているのが胸に来ます。
 たとい、義男の想像だったとしても、です。

「彼女が見ていたのは現実ではなく、そうあってほしい夢の形ばかりだった。」
「子供は後先を考えずに嘘をつく――それで大人を騙せると思っている。」

 この辺の言葉がすごく物語全体を象徴しているなと思いました。被害者だけでなく、加害者も。加害者もピースだけではなくてヒロミとか途中のロリコンとか含めてみんなこんな感じ。

 天使の幽霊

 とても美しい比喩表現だと思いました。

 慈子が犯人の心理を「わかっている」ように描く。だから義男には届かない。というのは文章を書く人間としてもハッとします。
 義男には犯人の気持ちを想像できないから。なぜわかったふうに描けるのかがわからないというのです。
 ジャーナリズムって誰のものなの? と考えてしまいます。

「夫は今でも娘はどこかで生きていると信じている」

 行方不明になった娘が死んで見つかった後の夫妻の話に出てきます。
 一度そう思ったら、その考えを修正したくない。現実を見たくない。何とも言えない哀れを感じました。

 高井は栗橋を守りたかった。助けたかった。なるべく傷の浅い形で彼を現実に引き戻したかったんだ。

 ピースの告白を待たずしても、カズの気持ちを警察はわかってくれているところに、救いを感じました。
 死んでいったカズがどんな気持ちでヒロミくんに接していたか、誰にも理解してもらえないままでは悲しすぎます。

 あの二匹のけだものが死んで

 ヒロミくんとカズが車で遺体で発見された後の、義男の心情として書かれます。
 普段、冷静沈着な義男の激情がわかる文章でとてもよいです。さらりとごく自然にこの言葉がチョイスされているところが特に。

 →その2(物語の流れ・ピース・ヒロミについて)へ(つづく) 


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島田つき

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