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自部門へのコミュニケーションにもマーケティングを取り入れよう

この10~15年の間に、組織内のITインフラ環境は劇的に進化しました。電話やメール、ファイルサーバーなどもっと昔からあったであろう手段に加えて、社内ポータル、クラウドストレージ、社内ソーシャル、チャットツール、オンライン会議、バーチャルオフィス等の新しいソリューションが数多く登場し、皆様の組織にも多くが導入されていることでしょう。

一方、貴方が組織長だとしたときに、この変化をあまり考えずに伝達事項は「会議で直属の部下に伝えておけばOKだろう」「部下側で私の言いたいことはある程度汲み取ってもらえるだろう」もしくは「社内ポータルにメッセージを載っけておけばいいだろう」などと思っていないでしょうか。

この記事では、近年の劇的に進化したイントラネット環境の中で如何に効果的に組織内にコミュニケーションをするかについて考えてみます。

参考記事:

貴方のメッセージは組織にきちんと伝わっていますか?

組織長は、メンバーからメッセージを常に求められています。特に組織の変化が激しい時期には、トップダウンの明快なメッセージが求められます。普段自分の周りにいる人達には会議で直接メッセージを伝えているわけですが、そのメッセージはそれぞれの人がちゃんと各組織の部下に伝えてくれているのでしょうか。

意外と届いていない各種メッセージ

メッセージが伝わったかどうかを、個別にメンバーに聞いてみたり、アンケートを取ってみたりするわけですが、私もいままでの経験としてメッセージが伝わりすぎて困ったことはありません。むしろぜんぜん伝わってなくて愕然とすることのほうが多いです💦

ただ、これは私だけの課題ではなく、周りを見渡すとどの組織長も苦労されているようです。たまに自信満々に「ウチはちゃんと伝えているよ」と言っている方のチームでも色々聞き込みをすると全然伝わっていない、なんてことが良くあります。

メッセージはなぜ届かないのか?

では、メンバーと組織長の間のこのコミュニケーションギャップはどうして生じるのでしょうか?この答えに迫る前に、組織長から良く取られているコミュニケーションの例を見ておきましょう。

● 組織長会議で直下の組織長に口頭で伝えるだけにしている。
● 社内ポータルのお知らせ欄にメッセージを投稿している。
● 社内ソーシャルツール (Yammer等) にメッセージを投稿している。
● 社内のテキスト同報メール機能でメッセージを配信している。
● メールでメッセージを発信して本体はビデオメッセージにしている。

実はこれらはどれも不完全なコミュニケーションです。どうしてなのかを見ていきましょう。

社内コミュニケーションもマーケティング!

ところで、皆さんはお客様にメッセージを伝えるときと同じくらい、組織内へのメッセージの伝達に気を遣っていますか?お客様向けには、「まずこの人にこれを伝えてから、上司の方に上申して、合わせてこの組織にも伝えて…」と言った具合に入念に計画を立てているような凄いプロ意識を持つ営業やマーケティング部門も、組織内へのコミュニケーションは稚拙、雑になっているケースを私はよく見かけます。

組織内へのコミュニケーションも、本来細心の注意を払いながら、「この人にこう伝えたら、次はこの方法でこういうストーリーでカバーする」と言った具合でよくよく考えながら行う必要があります。

ここからは、先程挙げた例についてどこがイケないのかを考えながら、組織内コミュニケーションで考えるべきポイントを整理してみます。

コンバージョン率を想定しよう

まず、よくあるケースが、「自分が出したメッセージは必ず部下に見てもらえる」と思いこんでいることです。私が色々観察しているところによると、先程も述べた通り部下はぜんぜんメッセージを見ていません。数人のチームであれば全員が見ているということもあり得るかもしれませんが、数十人、数百人、と組織が大きくなるに連れ、組織長と各メンバーとの距離は遠くなりますし、メンバーもそんなに暇でもないですし常に組織や仕事のことを考えているわけでもありません。

それを踏まえると、組織長はメンバー全員がメッセージを見ているはずだという幻想は捨て去り、自分がメッセージを出したときにどれくらいの割合のメンバーが見るかの割合を想定しながら逆算してメッセージを出す必要が出てきます。

メールの閲覧
たとえば、メッセージをメールで出す場合は実際にどれくらいのメンバーが見ているのかをデジタルに測ることが出来ます。マーケティング・オートメーションツールなどを使って調べてみると、開封率はせいぜい20~50%程度であることがわかります。これは、一般顧客にメールを送った場合でパフォーマンスが良いくらいの開封率と同等です。逆の言い方をすると、組織の約半分以上のメンバーは組織長からメールを貰っても開封していないことになります。

メールのクリック
メール本文内のリンククリックもツールでデジタルに測ることが出来ます。同様に計測してみると、メール内リンクのクリック率は1~10%程度であることがわかります。これも一般顧客にメールを送る場合と同じ傾向で、その場合のパフォーマンスが良いくらいの数字になります。

以上、2つのことから分かることは何でしょうか?まず、組織内のメールによる連絡は、顧客に対するメールマーケティングのノウハウがそのまま使えそうであるということです。傾向も全く似通っています。マーケッターの皆様なら、メールマーケティングでどのような点に気をつければよいかお分かりでしょう。以下が全てではないですが、代表的なポイントを述べます。

  • テキストメールよりもHTMLやリッチテキストメールを使い、見やすいレイアウトを使う。その際、ヘッダー画像などが埋め込まれている場合は代替テキストを入れてメール一覧のプレビューからも内容が分かるようにする。

  • メール内ではテキストで説明をきちんと入れる。メール冒頭のプレビュー画面で見える範囲でしっかりメールの内容を説明する。メールの冒頭からリンク集にするなど、文面だけで内容が判断し辛い作りは避ける。

  • 件名は開封率に大きく影響するため、内容がわかりやすく魅力的な件名を付ける。

  • メール内のリンク先は見られないことを予め想定したメール文面を作る。リンク先を見なくても重要なメッセージは伝わるようにメール文面を構成する。

  • ビデオメッセージを使うことは良いが、リンク先のビデオを見なくても内容の要点が伝わるようにメール文面内に概要を記載した上でリンクを入れる。ビデオは2分を超える長さは閲覧者が極端に減ることを想定する。できれば2分以内の長さに抑える。

複数チャネルを活用しよう

組織内へのメール発信では、約半分以上のメンバーが閲覧しないことがわかりました。それではどうすれば良いのでしょうか?マーケティングの観点から考えると、同じ対象メンバーに対して同じ情報を異なるチャネルやタイミングで複数回送り続けることが必要です。

マーケティングにおける経験則として、「人は異なるチャネルや人から4~5回※同じことを働きかけられて初めてメッセージを理解する」ということがあります。つまり、語りかけられる側の人は最初は自分が対象になっているメッセージであるということにそもそも気づかずに、違う人や違うチャネルから同じようなことを何回も聞いて初めてその人の耳に残るということです。

私も実際の経験として次のようなことがありました。あるチームの定例会議で「これからは上下関係や年齢に関係なくすべての人をさん付けで呼ぶという組織全体のルールを作りました」と伝達しました。伝えられた側のある人は、「分かった、じゃあ〇〇(呼び捨て)、みんなに伝えておいてね」と発言しましたが、まさに発言した本人がこのルールの規制対象者でした。しかし第一声ではこの方は伝達されたメッセージを自分ごとだとは捉えていませんでした

加えて私が今の組織に着任してから経費予算の作り方を根本的に変えたのですが、数十人いる経費管理者にいろいろな方法とタイミングで伝達して1年、未だに古い方法で実施しようとしている人がいるくらい、全員に浸透させるのは時間と手間がかかります

また、聞く側の立場に立ったときに、頭の中に残っているメッセージを思い返してみると、「短く分かり易い言葉で何回も繰り返し述べられている」ことがわかります。例えばドナルド・トランプ氏やロナルド・レーガン氏といった元アメリカ合衆国大統領が使っていた言葉「Make America Great Again (アメリカ合衆国を再び偉大な国にする)」や、漫画だとONE PIECEの「海賊王に俺はなる」といったセリフは、様々なチャネルで繰り返し伝えられ、結果として多くの人に伝わっています。

それでもメールで連絡したほうが良い理由

組織長の中には、メールで見られないのなら社内ポータルに掲載して必ず見るようにさせればいい、社内ソーシャル・チャットで発信すればいい、と考える人もいるかも知れません。一方、前述のようにメールがそんなに見られないのであれば、止めてしまえばいいと思うかもしれません。

それに対する私のお薦めとしては、社内ポータル、社内ソーシャル・チャットで発信するのは結構、ただそれに加えて必ずメールでも同様のメッセージを送っておく、です。

理由ですが、いくつかあります。皆さんが普段仕事をしているときに目の前に何があるかを考えてみると、デスクワークの場合はPCの中にOutlookなどのメールソフトかTeamsなどのチャットツールといったコミュニケーションツールが常に起動しているのではないかと思います。そうすると、メッセージはこれらの常に見るウィンドウの中に表示されている必要があります。そのほうが見られる確率が上がります。外出が多い仕事の場合はスマホを使いますが、良く使うツールはやはりコミュニケーションツールだと思われます。

一方、社内ポータルは使われているようで意外と使われていないことが多いツールです。社内ポータルはあまり緊急でないお知らせの掲示や経費精算などの申請時のみに見られることが多く、普段からPCで起動されて表示されていることは意外と少ないのです。

また、インターネットでは黎明期にYahoo!ディレクトリといったポータルがまず流行りましたが、情報量が増えてくるに連れてポータルの役割は減って代わりにGoogle検索などの検索でインターネットを使うようになりました。

実はイントラネットでも同じことが起こっており、最近は社内ポータルよりも社内検索等の他の方法で情報を検索する機会が増えており、社内ポータルの重要性や使用頻度はますます減少しています。Microsoft SharePointでも最新のビジュアルではポータル作成機能が簡略化され退化しています。私自身も、会社全体や組織のポータルは実は殆ど使っていません。申請など特定の用事があるときにのみ使っています。また、使うときはメールやソーシャルメッセージ内のリンク先が起点になっていることが多いです。

加えて、仕事の場合は過去に受け取ったメッセージや情報を受信時には見なくても後で見返す機会が結構あります。そのときには情報を検索するわけですが、ソーシャル・チャット・社内ポータルの場合は後から情報を検索することが非常に難しいのです。メールで受信していると、(件名、メール本文、添付ファイルなどに適切なキーワードが入っている前提で) メールソフトでメッセージ検索を行うと大抵欲しい情報が後からでも見つけることができます

メッセージを口頭で伝達した場合も、メールで同様のメッセージを後で送っておくことで、記憶が曖昧になっても言った、言わないの議論になるのを防ぐのと、その場に居なかった人にも伝えることが出来たり、言葉の意味を再確認して誤解のないようにしたりすることができるため、私は敢えてメールでも再度同じメッセージを送るようにしています。

組織の伝達階層が多段になっている場合、人伝で口頭で伝えていくと途中で必ずメッセージの内容や意味が変化してしまいます。組織長からメッセージを受け取った部下がその部下にメッセージを伝える際にも、テキストの形で確固たるメッセージがメールでもある方が、メッセージ内容のブレがなくなりますメールであれば部下に転送することも容易にできます

上長の伝達を部下が見るのは当然ではない

以上、見てきました通り、組織長から組織内へのメッセージ伝達は簡単なことではなく、確実に伝わるようにするには最新のマーケティングを使いながら事細かく計画をして繰り返し実施していく必要があります。

それなら朝礼/夕礼のように毎朝物理的に15分でも集まることを必須としてそこで確実に伝えるようにすればいいのでは、と思うかもしれません。しかし、工場のような勤務体系ならともかく、今日のように働く時間、場所、手法が多様化した現代では、この方法を取るのは難しいでしょう。また、小グループではない大きな組織になってくると100%の徹底も難しいでしょう。

加えて、いかなる手法を使ったとしても、メッセージを伝えられた側の人が自分ごととして受け取っていない場合、目や耳から入ったメッセージはそのまま素通りして頭には残りません。これらのことも考慮して、しつこいくらい繰り返し同じことを伝えていく必要があるでしょう。最低4~5回※、繰り返して同じコミュニケーションを行う計画を立ててください。メンバーから「このコミュニケーションしつこいよ!」と言われたら、これはクレームではなく、きちんと認知しているということで成功です。(笑)

最後までお読み頂きありがとうございました。それではまた!

※ 文献によっては「7回繰り返し伝える必要あり」と言っているものもあります。いずれにしても、そのくらいの繰り返しが必要です。

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