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#28『時をかけるゆとり』(著:朝井リョウ)を読んだ感想

朝井リョウさんの『時をかけるゆとり』

朝井さんのエッセイ集第一弾です。
本作を読む前に、重厚なミステリーである『爆弾』(著:呉勝浩)を読んで身体が緊張していたので、力を抜こうと手に取った1冊です。
読み始めてすぐに、抜け過ぎないか心配になりました(笑)


あらすじ

戦後最年少直木賞作家の初エッセイ集

就活生の群像『何者』で戦後最年少の直木賞受賞者となった著者。この初エッセイ集では、天与の観察眼を駆使し、上京の日々、バイト、夏休み、就活そして社会人生活について綴る。「ゆとり世代」が「ゆとり世代」を見た、切なさとおかしみが炸裂する23編。『学生時代にやらなくてもいい20のこと』改題。”圧倒的に無意味な読書体験”があなたを待っている!?

BOOKデータベースより

感想

  • すべてのエピソードが面白くて笑える

  • 朝井さんの鋭い観察力、表現力が発揮されている1冊

  • 人がいる環境で読むのは推奨できない?


戦後最年少で直木賞を受賞した朝井リョウさんのエッセイ集。

朝井さんの小説で印象的なのは、心がえぐられる刺さる表現や心理描写。
僕も、『何者』を読んだ時には何度も心がえぐられました。

本作のエッセイでもえぐられそうになります。
ただし、心ではありません。

腹です。

とにかく笑えて腹がえぐられそうになりました。
本を読んでこんなに笑ったのは初めてかもしれません🤣

先に小説を読んだことで身構えていましたが、見事に拍子抜け。
小説との落差が激しくて「耳キーンなるわ!!」と思わず某芸人のツッコミをしてしまいました。


なぜこんなに笑えるのか?
それは、朝井さんの鋭い観察力、表現力がいかんなく発揮されているからです。
本作では、その方向性が笑いに全振りしてる感じ(笑)

エピソードという名の素材だけでも笑えるのに、プロの小説家の観察力、表現力が加わる。
まさに「鬼に金棒」状態。
プロ野球選手が金属バットを使って試合をしているような感じです(ちょっと違う)

どのエピソードも面白かったですが、特に面白かったのは、「スマートなフォンに振り回される」「旅行を失敗する(その2)」「知りもしないで書いた就活エッセイを自ら添削する」です。
「スマートなフォンに振り回される」は、まさに「事実は小説よりも奇なり」だと思いました(笑)
また、朝井さんの母親も面白いです(笑)


【注意事項】
人がいる環境で読むのは推奨できません🤣
常に気が抜けない状況になります。
気を抜くと噴き出すので危険です。
また、小説から先に読んだ方がギャップを楽しめるのではないかと思いました。

小説では味わえないような読書体験でした。

続編の『風と共にゆとりぬ』『そして誰もゆとらなくなった』もぜひ読みたいと考えています。

印象的なフレーズ

それに、もしここでリタイアしたら、きっとこれからの人生ずっと辛い場面でリタイアし続けることになる気がする。今日の夜までこの脚で歩き続け、ゴールすることができたら、きっと私の中で何かが変わる。
午後五時辺り、五区の休憩所に着いた。
五区の休憩所は、私のアパートのすぐ近くだった。
私は一瞬でリタイアを検討した。数行前で「ゴールすることができたら、きっと私の中で何かが変わる」等と企業CMばりの自己啓発コメントをぶっ放していたが、私は瞬間的に「ここでリタイアしたら楽だお」と思った。

『時をかけるゆとり』
「地獄の100キロハイク」

先程から「勝てる気がしない」という表現を何回か使っているが、高校生のころは、負ける気がしなかった。誰もがそうだと思う。相手が何なのか、勝ち負けとは何なのか、そんなもの何もわかってはいなかったが、とにかく、高校生であったあのころは誰でも、何にも負ける気がしなかったはずだ。

『時をかけるゆとり』
「母校を奇襲する」

エントリーシート。集団面接。グループワーク。筆記試験。課題作文。物語の中に多数でてくる、就活に関わる単語。そのキーワードは80年代でも現代でも変わらない。僕たちは激動する社会の中、ずっと変わらない物差しで測られ続けている。

『時をかけるゆとり』
「知りもしないで書いた就活エッセイを自ら添削する」

※一見響く言葉に見えるが、下段の補足説明により、笑いをこらえるのに必死だったことを付け加えておきたい

就活のために何をするのかではなく、自分が何をしたいのか、根っこの部分を考える。僕たちはきっとその一歩から、就活の包囲をかいくぐってどこまでも広がる外の世界へと出られるのだ。

『時をかけるゆとり』
「知りもしないで書いた就活エッセイを自ら添削する」

※こちらも一見響く言葉に見えるが、下段の補足説明により、結局笑いをこらえきれなかったことを付け加えておきたい

「あがり」なんて、どこにもない。どんなマスに止まることになろうと、もうそこに数字なんて書かれていないように見えても、私はルーレットを回し続けなければならない。
受賞祝いにいただいた花は全て枯れる。つまらない作品を書けば、仕事の依頼はすぐに途絶える。どんなマスに止まることになろうと、もう誰にも読んでもらえなくなったとしても、書き続けるしか道はない。

『時をかけるゆとり』
「直木賞を受賞しスかしたエッセイを書く」

※この響く言葉でジーンと来たのもつかの間、次のエピソードの最初の一文で台無しになったことを付け加えておきたい

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