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【400字小説】酒を交わすと僕らは愛を語る


 ひとりでいるときの酒はジントニックと決めている。

 冷蔵庫に常備しているジンを注いで、炭酸水を少しだけ入れる。そこに切っておいたライムを絞って、へたれたそいつをコップに沈ませる。

 簡単で、美味しい。

 でも、ぼくが大好きな酒は、みんなで飲む酒だ。


 休日の夜が特にいい。

 ぼくは、ぼくが大好きなみんなと、大きな声で笑いながら、喉に流し込むビールが、いちばんおいしい、と思う。

 こんなに素敵なことは他にないんだ、と思ってしまう。

 ずっとずっと幸せで、ぼくは酒が進むとつい口に出る。

 幸せだああ…

 呑み会のたびに、ぼくがそう言うもんだから、みんなはそれを聞くと茶化してくれる。

 そして、優しく笑う。

 今日も、さっきまでビールを飲んでいた。

 日付が変わりそうになる時間に、ひとりで家に帰るのが好きだ。

 はぁっと息を吐いて、いくつか見える星を眺めた。

 さっき、あいつが言ってたことを思い出す。

「俺は、おまえも、あいつらも、みんな大好きだよ。いつまでもこんなふうに、幸せでいられたらいいのにな」

 酒を交わすと、僕らはきまって人類愛を語るのだ。

 …

 なんだか泣けてきた。
 生きてるっていいな。


___________


 読んで頂きありがとうございます。

 【日刊ボンクラ東京】は、毎日更新の400字小説です。「都会ど真ん中より、少しズレた東京」の町を切り取った連作となっております。

 1話完結の短編です。どの回からでも。

 今回はお酒のお話でしたね。
 わたしも、彼と同じように、好きな人と飲む一杯目のビールが一番好きなお酒です。

 さて、これからの時間が、今日も素敵なものになりますように。いい夜を!


【日刊ボンクラ東京4号】2024.3/10

【文】橋本そら
【題字】橋本そら

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